「私には夢がある」

ひとつ屋根の下

静まり返った日曜の昼下がり。


驚異的な胸囲を採寸した衝撃も冷め、下着と服はネットでポチッと注文済み。

杏はようやく「ちょっと落ち着いてきたかも…」と、冷蔵庫から作り置きのルイボスティーを取り出しコップに注ぐ。


その時、静かに、かつ真剣な声が背後から届いた。

「アンちゃん!」


──うわっ。


手元が狂う杏。お茶があらぬ方向に飛び散る。

「……今、なんて呼んだ?」

「杏ちゃん?」

「いやいやいや、“アンちゃん”て!」

布巾でルイボスティーを拭いながら

「それ、なんかこう、思い出すのよ。おじいちゃんが、昔ハマってたトレンディドラマの、アンチャン!って福山雅治的な」

「ふくやま?」レイネが反芻する


「あ、わからないか。──おじいちゃんって、私を呼ぶとき、いちいちモノマネするのよ」

田舎で米農家をやっているパワフル爺さんである。

最近、アイガモロボットを導入したとかでLINEを送ってきている。

「女の子なのに、アンチャンって──どうなのよ?と子供心に思ってた」


杏は物思いにふけりそうになり──ふと思う。

記憶をたどってみても、自分から“杏ちゃん”なんて名乗った記憶はない。

「え、私……名前、言ったっけ?」


レイネは少しだけ目を泳がせたあと、ぱっと笑顔になる。


「名乗ってたよ。昨日の夜、ちゃんと。“たかなしあん”って」

「あ、そっか……?いや、なんかぼんやりしてたから覚えてないや」

(まあ、昨日は“冷蔵庫から異世界人”っていう大事件が起きたしね……)


「でも“杏ちゃん”って、なんかこそばゆいのよね。子供の頃はまだしも…」

「じゃあ、“あーちゃん”でいい?」

「……“あーちゃん”も、学生時代のあだ名だし恥ずかしいけど……まあ、それでいいや」

「じゃぁ、あーちゃん!」

レイネはにっこり笑って両手を合わせた。


「レイネさんは、どう呼べばいい? 異世界でどう呼ばれてたとかある?」

「ん──?」

レイネは何やら思惑そうな顔である。


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