第七話 友だちの定義を問う夜
夜の校舎。新聞部の部室は、静まり返っていた。机の上には、古びた写真。映っているのは三人。悠真、野々村
東条 凛がその写真を指先でなぞる。
「このもう一人……彼が、“親友の裏切り”に関係してるのね?」
「神谷 透」
悠真は、迷いなくその名を口にした。
「三人でつるんでた。くだらない動画を撮って、ネットに上げて、ちょっとした“正義ごっこ”をしてた。万引き現場を暴いたり、裏掲示板の悪質ユーザーを晒したり。 “学園ヒーローズ”とか名乗ってな」
「青臭いわね」
凛は微笑むが、その目はどこか寂しげだった。
「でも、ある日。透がひとりで、とある教師の不正を調べ始めた。俺も野々村も止めたんだ。相手が教師じゃ、ただの遊びじゃすまないって。けど、透は聞かなかった」
「そして、彼は“消えた”のね」
「そうだ。事故として処理された。でも、あれは、俺たちが見て見ぬふりをしたせいだ」
そのとき、ドアがゆっくり開いた。現れたのは、野々村 大翔。無造作な髪、眠そうな目。けれど、真剣なまなざし。
「懐かしいな、その写真。まさか今になって蒸し返されるとは思わなかったぜ」
「“カモ”の標的は、俺たちかもしれない」
悠真の言葉に、野々村は小さく笑う。
「だったらさ、正直に言ってくれよ、悠真。あの日、“俺が透を売った”って、まだ疑ってるのか?」
その言葉に、空気が凍る。悠真は何も言わない。――言えなかった。心のどこかで、そう疑っていたから。
「あの日。お前にだけ、透の計画を教えたんだ。次の日には、透の部屋に教師が乗り込んだ。証拠は消されて、透は……」
「ふざけんな」
野々村の声が低く、重く響く。
「俺が言ったのは、先生じゃない。 “新聞部の部長”だった奴に漏らしたんだよ。“一面にしてやれ”ってな」
「……新聞部……?」
凛がつぶやく。
「でも、奴は記事にするどころか、その証拠を握って教師と取り引きしやがった。見返りは、進学先と推薦状。透はその直後、“事故”を起こした。全部、記事の存在を察知した教師が動いたせいだ」
悠真は、目を見開いた。
「じゃあ、裏切ったのは……」
「“俺たち”じゃない。 “正義ごっこ”を“本気”に変えるって言ったあいつを、
あのとき止められなかった。俺たち“全員”が、間違ってたんだよ」
静寂。その重みに、誰も言葉を返せなかった。
けれど次の瞬間。凛のスマホが鳴る。画面には、また“カモ”の投稿。
No.351:
「真実は、誰が語るかで変わる。次は、“ヒロインの嘘”を暴こう。東条凛。あなたの“本名”は――?」
凛が、スマホを見つめたまま、口元を引き締める。
「とうとう来たわね。私の番」
「……凛?」
「いいの。ウソつきって言われても、自分で名乗るつもりだったわ」
そのとき、掲示板に続きのメッセージが表示された。
「“青い名簿”を持っているのは、新聞部OBの“安斎
「彼は今、この町に戻ってきている」
凛が目を見開いた。悠真も野々村も、同時にうなずいた。
「動くときだな」
東条凛の過去。新聞部の闇。そして、“カモ”の真の狙い――
全てのピースが、ひとつの場所に集まろうとしていた。
凛は、スマホを手に取ると、再びその画面を見つめた。
「私の本名、か。あんなもの、誰にも知られてはいけなかったのに。」
静かな声が漏れる。
「透、あなたの無謀な“正義”が、こんなことになったんだよ。」
心の中で呟きながらも、凛は強く握りしめた。
「でも、私もまた、あなたと同じだったのかもしれない。自分を正当化するために、誰かを犠牲にした。」
彼女は目を閉じ、心の中で透を思い出す。そして、彼の目を見たときのあの決意を思い出す。
「私が何をしてきたのか、全てを見つめ直す時が来たわね。」
彼女の決意が、部屋の空気を一変させた。
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