第五話 生徒会長はカモなのか?

 放課後の生徒会室。窓際の机に腰かけた東条 凛は、紅茶のカップを軽く揺らしていた。


「ねえ、悠真。さっきのメッセージ。 “カモが再び動いた”って、どういう意味なの?」


「単なるネット掲示板のハンドル名だよ。“Mr.カモ”。匿名で暴露ネタをばらまいて、生徒たちの嘘を“炙り出す”のが趣味の奴さ。去年までは都市伝説扱いだった。でも、最近また動き始めた」


「でも、それが私を狙ってるっていうの?」

「そうみたいだな。“生徒会長の秘密”って書いてあった。で、心当たりは?」


 凛は一瞬だけ視線をそらす。けれどすぐに、笑って見せた。


「まさか。私は完璧な優等生ですもの。生徒会長だし。嘘なんて、つくわけないじゃない」


 悠真は、それを聞いて目を細めた。まるで“その嘘、見逃さないよ”と言わんばかりに。



 その夜。悠真は、自室でノートPCを開いていた。


匿名掲示板〈ウソつきは誰だ〉。

その最新スレッドに、妙な書き込みがあった。


No.326:

「この学校のトップは、過去に“消された真実”を抱えている。会長の仮面を剥がせ。“青い名簿”を見ればすべてがわかる」



「……青い、名簿?」


 悠真の脳裏に、過去の記憶がよみがえる。中学時代、ある事故で消えた “仮名の生徒名簿”。名簿に載っていた名前は、存在を“なかったこと”にされた。


 まさか、凛も――?



 翌日。生徒会室。悠真は扉を開けて、まっすぐ凛に言った。


「“青い名簿”って、聞き覚えあるか?」


 その瞬間。凛の指が、持っていた書類からすべり落ちた。彼女は、ゆっくりと椅子にもたれかかり、言った。


「あなた、どうしてそれを知ってるの?」


「俺の中学にあった、消された記録のことを調べてたら、たまたま辿り着いた」

「“たまたま”なんて、ウソね」

凛は、笑わなかった。目も笑っていなかった。


「私は、もともとこの学校の生徒じゃなかった。青い名簿に載っていた“東条凛”は、ほんとうは、もう存在してないの」


 悠真の目がわずかに揺れる。


「名前を偽って、生徒会長になったってことか?」


 凛は静かにうなずいた。

「名前を変えてまで、どうしても手に入れたかったの。 “正しい場所”で、“正しい自分”になるっていう夢を」


「それを、誰かが暴こうとしてるってことだな」


「ええ。たぶん、“カモ”は私の過去を知ってる。ねえ、悠真。もしも私が、“ウソつき”だったとしても、あなたは、味方でいてくれる?」


 悠真は、即答しなかった。けれど、ほんの少しだけ微笑んで言った。


「さあ、どうかな。俺も“嘘”を抱えたまま、ヒーローになろうとしてたやつだから」


 そのとき、スマホが震える。また、“カモ”からのメッセージ。


 次は“ヒーロー志願者”の正体を暴く。君も、仮面の下を見せるときだ。


 ふたりの“嘘”が、向かい合った瞬間だった。

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