第四話 パクリと沈黙と、少女の秘密
翌日、昼休み。新聞部の久賀 みのりは、誰よりも早く部室にいた。誰もいない空間で、パソコンの電源を入れる手が小さく震えている。
「……バレたかな」
彼女は薄暗い画面に映る自分の顔を見つめた。 “未来劇場”の企画は、実際には彼女のアイディアではなかった。演劇部の先輩だった姉・久賀 みくの卒業制作。それを、そのまま引っ張ってきたのだ。
「ごめんね、お姉ちゃん。でも、どうしても勝ちたかったの」
その瞬間、扉がノックされた。
「久賀さん、少しいい?」
入ってきたのは、東条 凛。そして悠真だった。
みのりはびくりと肩をすくめる。凛は優しく、でもまっすぐな目で言った。
「昨日のこと、少し話してくれる?」
「なんのことですか」
「“未来劇場”のことよ。これは、久賀 みく先輩の企画じゃない?」
みのりの表情が、こわばった。
「どうして……知ってるんですか」
「あなたの提出したデータに、みく先輩の個人フォルダのファイル名がそのまま残ってたの」
悠真が苦笑する。
「よくあるミスだよ。急いでると、名前の消し忘れって」
みのりはぎゅっと唇をかみしめた。
「私……ただ、認められたかったんです。姉と比べられてばかりで、いつも“あの子は普通だ”って言われて。だからせめて、この文化祭くらい、自分の名前で何かを残したかった」
凛は黙って聞いていたが、やがて静かに言った。
「久賀さん、それは“嘘”じゃない。あなたの“願い”よ。でも、願いを嘘で包んじゃったら、その願いまで偽物に見える。だから、正直に言いましょう。 姉の企画を使いたかった理由も、本当の動機も」
みのりは、しばらくの沈黙のあとで、そっと頭を下げた。
「ごめんなさい。全部話します。ちゃんと、自分の言葉で」
そのとき。悠真のスマホが、音もなく震えた。画面には、一通のメッセージ。
《“カモ”が再び動き出した。次は――生徒会長の“秘密”を暴く》
悠真は顔を上げ、凛を見る。
「東条。どうやら今度は、君が狙われたらしい」
凛はきょとんとしたあと、小さく笑った。
「ふふ、面白くなってきたわね。私の秘密――あなた、知りたい?」
「いや。まだ“自分で語ってくれる”って、信じてるから」
放課後、空の色が茜に変わる。ふたりの間に、まだ語られていない“嘘”と“真実”が、静かに揺れていた。
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