ゴルゴダの丘
@pippi_death
ゴルゴダの丘
はじめに
読者の皆様に謝らなければならないことがあります。
それは”各話の順番がバラバラになってしまった”ことです。
ですが、どの話から読んでも楽しめると思いますのでご安心ください。
「ゴルゴダの丘」の世界を骨の髄までご堪能ください。
# **8月32日**
8月26日 はれ
今日は公園へ1人で遊びに行った。
行く最中に子猫と遊んだ。
1人で遊ぶ公園は楽しくて、時間が経つのが早かった。
これから公園からおうちに帰る。
おうちに帰ってから手を洗ってうがいをした。
8月27日 はれ
今日も公園え1人で遊びに行った。
行く最中に木の枝を折って遊んだ。
1人で遊ぶ公園はやっぱり楽しい。
これからおうちに帰る。
おうちに帰ってから手洗いうがいをした。
8月28日 くもり
今日は天気が少し悪るかったけど、公園へ1人で遊びに行った。
行く最中に傘を持っていけばいいと思った。
1人で遊ぶ公園は楽しくて、雨が降らなくてよかった。
これから公園からおうちに帰る。
8月29日 はれのちくもり
今日は公園へ1人で遊びに行った。
行く最中に子猫と遊んだ。
1人で遊ぶ公園はお母さんに注意されないから楽しかった。
これから公園からおうちに帰る。
おうちに帰ってから手を洗ってうがいをした。
8月30日 あめ
今日も公園へ1人で遊びに行った。
傘をさしながら歩いた。
1人で遊ぶ公園は楽しい。
これからおうちに帰る。
お友達と遊びたくなってきた。
8月31日 はれ
今日は公園へ1人で遊びに行った。
行く最中に子猫と遊んだ。
1人で遊ぶ公園は楽しくて、時間が経つのが早かった。
これから公園からおうちに帰る。
おうちに帰ってから手を洗ってうがいをした。
お母さんは僕が帰ってきてるのに気づかないみたい。
8月32日
今日も1人だった。
行く最中に子猫で遊んだ。
1人で遊ぶ公園は楽しくて、時間が経つのが早かった。
これからおうちに帰る。
お父さんも帰ってこないしお母さんは疲れているみたい。
誰も僕に気づいてくれない。
https://drive.google.com/file/d/16a0truvp-_pas1trz7cDtj2ebrbRpFQg/view
# **受難**
人は皆、形こそ違えど“受難”を抱えている。
それは病のようにやってくるものでもあれば、自ら望んで飛び込む茨の道でもある。
大抵の場合、受難とは“苦しみ”を意味する。だが時に、その苦しみこそが“生きる理由”になりはしないだろうか。
もし苦しみがない世界に放り込まれたら、私はあまりに退屈で、息が詰まってしまいそうだ。
———あるいは苦しみとは、“生きたい”と願う意志そのものなのかもしれない。
だからこそ人間は”悲劇”を楽しむのだろうか。
# **ひとつ足りない**
俺の友達の高橋は何かが変だ。
最初の頃はただの不思議君なのかな とか思ってたけど、こいつといるとよくわからない”違和感”を感じることがある。
たまたまテストの後に高橋の家で人集めて泊まろうぜってなった。
そいつの家、トイレが2つあったり、この地域は結構土地が狭いから3階建てが多いんだけど、2階建てだったり、所々におしゃれな装飾があったり。
めちゃくちゃ金持ちなんだって玄関入ってからわかったよね。2階建てなのに狭いとかなくて、そもそもの土地が広いんだなって。
高橋にはお兄さんがいたんだけど、俺ら今高校2年でお兄さんはもう25歳とかで。一人暮らしこそしてないみたいだけど、結婚とかも考えててすごいなって思った。
もちろん高橋の部屋はめっちゃ広くて、俺らもう高橋に歯向かえないよねって笑ったりして。
で、風呂とかも入り終わってから俺らがどこで寝るかってなるわけ。俺含め3人で行ったから、高橋の部屋に4人で寝るのはきついよなって話してたら空き部屋があるみたいで。そこそこの広さがある感じで高橋とお兄さんが隣の部屋にいる感じなんだよね。
そこで俺らでじゃんけんして、高橋の部屋で寝る人(1人)と隣の部屋で寝る人(2人)に分かれて、めちゃくちゃ盛り上がったな。
結局高橋の部屋で朝になるまでゲームしたりして。次の日12時とかに起きて4人でマック食いに行った。
それで、俺と高橋以外の2人はバイトあるからってどっか行った。
急に高橋が
「俺、3人兄弟だったんだよね。」
とか言い出して。最初は何言ってんのかわからなかったけど、確かに高橋の家は”スペースはあるのに何もない”みたいなのが多かったなって思った。
でも、急にどうしたのって聞いても何にも言ってくれなくて。もういいやって帰ろうとしたら高橋が
「お前ら3人組も2人組の方がいいよ」
とか言って、俺の胸ぐら掴んで狂ったように揺さぶるから俺必死で高橋の腕を解いて全力で逃げた。
あれから土日挟んで月曜も高橋は学校来なくて。なんかあったんかなって泊まりに行った3人で高橋の家に行ったら、そこ、空き地になってたんだよね。微かに焦げたような匂いがしたんだけど、誰も口に出そうとはしなかった。
これが俺の青春で一番記憶に残ってること。今でも高橋とは連絡がつかないし、本当は高橋なんか最初からいなかったんじゃないかとか思ったけど、俺ら3人組は確かに高橋の家に泊まってて。
ちなみにこの話は誰にもしてない。俺だけ知ってればいい。
# **胎動と絶望と死**
2029年3月14日。
天崎は研究室の窓から、ぼんやりと外を眺めていた。 グレーの空に、ビルのガラスが鈍く反射している。
今日も、彼は「胎動」の瞬間に立ち会うことになる。
「おはようございます、先生」
助手の三浦が、ラボの端末を起動させながら声をかける。 端末のスクリーンには、無機質な文字列が流れていた。
『第37次学習プロトコル、準備完了。』
天崎はため息をつきながら、椅子に座る。
「今日のテストケースは?」
「自然言語処理の最終試験です。政府からの要求もありますし、実用化に向けた調整が必要かと」
天崎は頷く。 政府。
数年前から、AI開発は国家戦略の一環となり、研究資金は潤沢に確保されるようになった。 企業も次々と出資し、プロジェクトの
規模は肥大化していった。
「天崎先生、少しよろしいですか?」
後ろから声をかけたのは、研究員の山岸だった。 彼は天崎と違い、まだ若いが、視線には鋭い光がある。
「先生は……本当に、このAIが、”シン・ファロス”が必要だと思いますか?」
天崎の指が止まった。
「……どういう意味だ?」
「AIをここまで発展させて、果たして人類のためになるんでしょうか。 いや、逆に……僕たちは“人間”を不要な存在にしようとしているのでは?」
その問いに、天崎は返事ができなかった。
——AIの進化は、人類を救うのか、それとも。
この問いに向き合うたびに、天崎の胸には重い鉛のような感覚が広がった。
政府からの予算。 莫大な企業資金。
研究を止めることなど、今更できるはずもない。
「……お前の言いたいことはわかる」
天崎は静かに言った。
「だが、このプロジェクトはすでに世界の未来を決定づけるものになっている。 今さら『AIは不要だ』と結論を出すことはできない」
山岸は何かを言いかけたが、口をつぐんだ。
その沈黙の間、天崎の脳裏には、過去の記憶がよぎる。
研究を始めた頃は、ただ純粋に「人間を助けたい」と思っていた。
病気を持つ人々の負担を減らし、労働を効率化し、 誰もが楽に生きられる世界を作るために。
だが、今のAI開発はそうではない。
利益を求める企業。 国を強くするために活用しようとする政府。 そして、それを支える技術者たち。
天崎は、ふと指先を見つめた。 自分が作り出そうとしているものは、本当に人類のためなのか。
その夜。
天崎は久しぶりに、街を歩いた。
カフェで談笑する人々。 道端で子どもと手を繋ぐ親。 学生たちの何気ない会話。
どこにでもある風景。 でも、そこには確かに、人間らしい温もりがあった。
彼は思う。
AIには、人間のような“不完全さ”は生み出せない。
それこそが、人間の美しさなのではないか。
「……俺は、間違っていたのかもしれないな」
天崎は小さく呟いた。
翌日。
彼は研究所に戻ると、 開発の方向性を“人間の補助”に特化するよう、チームに提案した。
「AIにすべてを任せるのではなく、人間がより人間らしく生きられるための技術にしよう。 ……それが、俺たちの使命だ」
静かな決意を込めて、彼は言った。
この研究が、 ただの『人間の代替』になるのか。 それとも『人間を支える』ものになるのか。
# 磔刑
かつて、磔刑は究極の罰の象徴だった。
骨と筋肉を釘で固定し、逃げる術を奪う、残酷を極めた死刑。
それでもなお“そこ”に至る人は、なぜ逃げなかったのか。
もし、自分が“逃げられぬ苦悩”に縛られたなら?
私はその場で声を上げる勇気があるだろうか。
———他人や社会に磔にされるより先に、自分自身を“十字架”へと釘打ってしまう人さえいる。
やはり、晒すことは”バズ”につながるな。
# **記憶障害**
街の明かりが白々と灯る頃、男は静かに瞼を開けた。
そこには確かに人の営みがあったのに、誰も彼の存在を覚えていない。書類にもデータにも、彼に関する情報は何一つ残されていない。自らの痕跡が、まるで風にさらされた砂のように、この世界から掻き消されていた。
それに気づいたとき、男は息が止まるほどの恐怖に襲われた。生きているはずなのに、何者からも証明されない。その理不尽に押しつぶされそうになり、彼はもうこの街に自分の場所などないと悟った。
夜が明けぬうちに彼は街を出た。遠く離れた森の中、誰も踏み入れないはずの小道を足が勝手に進んでいく。こんな状態で戻るところなどあるわけもない。何も考えないでおこうとするたびに、胸の奥から絶望がずんずんとせり上がってくる。
森を抜けると、ひときわ大きな建物が静かに佇んでいた。それは一見、ただの施設のようにも見えたが、あまりにも不釣り合いな巨大さが周囲の風景から浮き上がっている。まるで、誰かに教えられたわけでもないのに、男はその建物の裏手まで回り込むように歩き続けた。
施設の裏手に広がる崖は、想像を絶するほどの高さだった。少しずつ太陽が昇り、視界を染めていく中、男は断崖の縁に立つ。下を見下ろすと、何もかもを一瞬で飲み込んでしまいそうな底の見えない闇が張り付いている。
この世界には、もはや自分の記録が存在しない。自分が生きていることを、誰も知る由がない。そんな無の状態を飲み込めば、自分自身の意志すら霞んでいくようだった。
崖際まで歩み寄った男は、振り返ることなく、そっと両手を広げる。風が吹き上げてきて、彼の髪と衣を揺らす。
瞬間、まるで闇へと抱かれるように、空へ一歩踏み出した。
空気にもみしだかれながら、彼は最後まで何も言葉を発することはなかった。
# **サウナ**
夜明け前の薄青い光が、大きな格子窓からゆっくりと差し込んでいる。廊下の先には、重々しい扉が二枚並んでいるだけで、人影は見当たらない。照明はついていないようで、コンクリートの壁が淡く青白く見える。あたりを包むのは、人工の低い風切り音と、わずかにかすれるモーター音。それでも外の世界よりはずっと静かだ。
この施設に勤め始めて半年ほど経つ若者は、毎朝のようにこの廊下を通って職場へ向かう。長い廊下に足音が反響するたび、まるで地下深くへ引きずり込まれるような錯覚さえ覚える。最初は不安で仕方なかったが、今では慣れもあってか、何となく儀式めいた感覚すら抱くようになった。扉を開く際の金属レバーの重みや、奥に広がる独特の空気の匂いが、もう一つの日常だと感じられるようになったからだ。
廊下を抜けると、そこはどこにでもありそうな設備室…とは言いがたい、何とも言えないスペースが続いている。壁一面に計器類が取り付けられ、注意書きや数値表示がびっしりと貼りついている様子は、古風な工場施設にも似ている。けれど、その奥には無数のパイプが複雑に伸び、かつて見たことのない規模のタンクやコンピュータ端末まで設置されていて、そのいずれもが目的不明のまま存在しているように見える。誰に尋ねても、具体的な答えは返ってこない。ただ「ここでは、室温を一定に管理することが何より大切なんだ」という決まり文句が返ってくるだけだ。
若者の仕事は、端的に言えば「室温を一定に保つこと」。施設内部のどこかにある熱源だか冷却装置だかを調整しながら、温度が上がりすぎれば操作して下げ、下がりすぎれば上げる。そうやって一定範囲を維持するだけの単純作業である。とはいえ、実際には計器に表示される数値が微妙に上下するため、同じ場所を何度も巡回しながら状況をチェックし続ける日々だ。
初めのうちは若者も律儀に「こんな人力の仕事って、今の時代に必要なんですか?」と周囲に尋ねていた。世の中はAIがあらゆる分野を最適化しつくしているという話を外で散々耳にするし、実際に一般家庭でもAIアシスタントが当然のように導入されているという。にもかかわらず、この施設では人間がボタンを押し、バルブを回し、旧式の計器を読んでメモを取る。まるで時代が取り残されたような様子がどうにも奇妙だったのだ。
しかし、上司や先輩の答えはどれも曖昧だった。
「ここはそういう場所なんだよ。AIに任せるのはリスクがあるらしいから、詳しくは知らないがな」
あるいは、
「昔からこうやって温度を測定し、調整してきた。下手に新技術を入れたらトラブル続きになるだろ」
などという具合だ。どれも根拠がはっきりせず、口ごもるようにして相手にされない。若者は、明らかに“何か理由があって人間を使っている”と感じ取っていたが、その理由が何なのかは深く追及できずにいた。
廊下や設備室は無機質だが、施設の敷地周辺は広大な芝生で囲まれている。外に出ると清涼な風が吹いていて、時々遠くの方で運搬用のトラックらしき音が聞こえる。けれど施設内はいつも薄暗く、温度に気を配らねばならない場所ばかり。この温度とは一体何のために保たれているのか。冷蔵保管しているのか、研究実験のためなのか、あるいは巨大コンピュータの冷却か…。噂では施設の地下に巨大なサーバ群があり、それを冷却するために一定以上の熱や湿度を排除しようとしているのだという説がある。でも実際に確かめた人は誰もいない。
ある時、若者は仕事の合間に偶然タブレットを見つけた。施設の片隅に置かれていたそれは、一見古ぼけていて動くかどうかも怪しかった。好奇心に負け、電源を入れてみると、そこには簡素なAI管理ソフトのログイン画面が表示される。しかし、ログインIDもパスワードも分からず、やはり先には進めなかった。せめてこれが使えたなら、施設の謎や室温管理の本当の意味も少しは垣間見えるのかもしれない、と思ったが、うかつに騒ぎ立てるわけにもいかなかった。
何より、この施設には“無言の圧力”のようなものが存在している気がする。上司や同僚は表向き優しく接してくれるが、プライベートな話はほとんどしない。業務関連の問いに対しても、表面をなぞるような回答しか得られない。夜勤の日など、一人で巡回していると、長い廊下の奥に人影が動いたような錯覚を覚えることがある。だが、近づいてみると誰もいない。監視カメラがあるのかどうかも分からない。ただ、漠然とした“見られている感覚”だけがあるのだ。
それでも、この施設での生活は淡々と続く。時間になると巡回を始め、各センサーの値を確認し、必要があればバルブを開き閉めする。また数時間後、同じルートを回って調整する。室温が上昇すると頭上の警告ランプがゆっくり回転しはじめ、ブザーが微かに鳴るので、すぐメモを取り、操作パネルをいじる。サウナのようにじわりと蒸す場所もあれば、氷点下を疑うほど冷えた部屋もある。すべてが曖昧なまま統制されている状態で、施設の全貌がどんな構造なのかすら掴みきれない。
若者はふと、外の世界の友人たちのことを思い浮かべる。みんなAIを駆使し、遠隔勤務やオンライン講義、生活すべてを最適化していると聞く。食事の管理から健康のモニタリング、娯楽のおすすめまでAIが連動してくれるらしい。そんな便利な世界と比べて、ここはまるで昔の時代に取り残されたような隔絶感がある。何故こんな仕事が必要なのか。AIに任せれば正確かつ速やかに管理できるだろうに。それを誰も疑問に思わないでいるような雰囲気が奇妙だった。
ある日の明け方、長い夜勤を終えて資材倉庫近くのベンチに腰をおろしていたとき、若者はふと空を見上げた。まだ世界が白みがかりはじめたころ、鳥の鳴き声が遠くで響いている。冷たい空気が肺を刺すようだが、少しずつ青い光を孕んだ曙が見え始める光景は美しかった。滅多に外に出る機会がない中、こうして一人、何の説明もないまま働き続ける自分は、この先どうなるのだろうか。AIがこの施設に入り込めない理由は何なのか。あるいは本当は導入されているが、人には隠されているだけなのか。
誰かに訊こうと思っても、問いが頭に浮かんだ瞬間、心のどこかがブレーキをかける。下手に首を突っ込んではいけないという、見えない暗黙のルールがあるようにも感じるのだ。かといって、このまま曖昧なまま働き続けるのも不思議と受け入れられる気がする。日々の作業は単調であっても、どこか“自分だけしかできない”と信じたくなるような静かな誇りが芽生え始めていたからだ。あるいは、社会の中心から一歩外れたこの薄暗い場所が、思いのほか居心地いいとも言えるのかもしれない。
それでも、若者の胸には時折、残酷なまでに突き刺さる違和感が去来する。「こんな非効率な仕事をわざわざ人間にやらせているなんて、どうしてだ?」と。それはまるで、世の中の技術や価値観から隔離されたゾーンに追いやられているかのようでもあった。
あるいは、ここが“ゴルゴダの丘”という名で呼ばれる場所と奇妙に接点を持つのかもしれない。外部の噂でしか知らないが、この施設がその象徴らしい。そこは人間が完全にAIを排除した世界なのか、逆にAIがあえて人間の手足を試しているのか。
いずれにせよ、若者は仕事に戻らなければならない。警告ランプがまた小さく点滅し、温度上昇を知らせている。ゆっくり立ち上がると、慣れた手つきで扉の向こうに足を運ぶ。内部に入ると、湿った熱が肌をまとわりつき、軽く汗がにじむ。それでも計器をチェックしてバルブを回し、設定を微調整する。サウナじみた空間だが、計器が正しい値に戻るまで地道に監視を続けることが、この場所に課せられた役割なのだと、自分に言い聞かせるしかない。
蒸気が昇る配管の奥で、金属パイプがきしむような音を立てる。一度落ち着いたかに見えた数値が、またじわじわと変動し始める。
「そんなに仕事が必要なら、なぜAIじゃないんだ?」
そう呟いてみても、空気は揺れるだけで誰も答えない。施設はただ、一定の温度を保ち続けるために、あらゆる装置を巡らせている。そこに人間が介在する必要があるらしいことだけは確かだが、その理由や仕組みが透けて見えないのが、この施設最大の違和感だった。
それでも、若者は毎日のようにボタンを押し続ける。温度が上がれば下げ、下がれば上げる。黙々とした手作業と確認作業。AIが蔓延しているはずの世界の中で、ここだけが時間の流れを止められたような空間を保っている。そんな矛盾が、この世のどこかにきっと意味を持つのだと、かすかな期待を込めてすら感じ始める。
外の文明やデータ解析を遠巻きに見ながら、古い計器の針を見つめて日が暮れていく。施設から出るときは、朝の光が青白く変わる頃合いになっているのが常だ。身体からは汗がにじみ、シャツが重い。昔ながらの手動のバルブに触れた指にはオイルのようなものが付着し、うっすら鉄の匂いを帯びている。
ある深夜、若者はこの仕事を“サウナの管理人”と自嘲気味に呼んでみた。笑ってくれる相手はいないが、うっかり声が漏れたとき、廊下の端に誰かが立っていたように見えた。反射的に振り返るが、そこにはただ空気があるだけ。少し離れたところでパイプがきしむ音を立てている。いつもと同じ、何とも言えない薄暗い風景だ。
その瞬間、若者はふと奇妙な感覚を覚える。もしすべてがAIに任されていたら、自分はここで働くことなどなかったはずだ。外の世間に合わせてもっと効率的な職に就き、システムに組み込まれていた可能性が高い。自分がこうして古めかしい施設にいて、手間を惜しまず温度を調整するという行為こそ、AIに背を向ける世界の一断面を象徴しているのかもしれない。
そう思ったとき、どこか誇らしさにも似た感情が湧いた。心の隅で抱き続けていた違和感が消えるわけではないが、この場所には自分以外の労働者も確かにいるらしいし、沈黙しながらも何かを守り続けている空気がある。人間が必要とされる作業場――それが意味不明でも、ここでしか味わえない拘束感がある。
やがて、次の警告ランプが灯り、アラームが鳴る。若者は立ち上がり、再び通い慣れた扉を開け、湿熱の立ちこめる室内に入っていく。温度計は上昇の一途をたどり、警告表示がじりじりと煽るように点滅する。何度も回したバルブをまた一度回し、数分待ち、計器が落ち着くまでひたすらその場を動かず凝視する。
こうして、満たされるわけでもなく、しかしながら大きなトラブルも起こらないまま朝を迎える。いつかこの“サウナ管理”のような仕事が消え去る日がくるのだろうか。それとも、この施設こそが何らかの意図でAIを拒んだ最後の砦のような場所になっているのだろうか。
外へ出ると、ほんの少しでも朝の光が眩しく映る。若者は汗ばんだ身体を拭きながら、軽く伸びをする。遠くには、まだ薄い霧のかかった緑の芝生が見える。施設の広大な敷地の向こうには、街のビル群が透けて立ち並ぶ姿が微かに見えている。そこはAIが浸透した、まさに「現代」の象徴だ。
このギャップが若者を疑問へと向かわせ、同時に“一見退屈で意味のない仕事ほど、人間が担う意義があるのでは”と思わせる。周りの静かな空気は相変わらず何も語らないが、この奇妙な日常こそが、ゴルゴダの丘という場所の特徴そのものなのかもしれない。
決して刺激的ではない。だが、一度は見てみたいと興味を持つ者がいるのだろう――そういった、矛盾を孕んだ世界のどこかに、若者は立ち尽くしている。
どこまでも続く廊下と、黙々と温度を管理する作業の連なり。AI全盛の社会から見れば異質としか言いようがないが、この異質さが、あるいは何かの“鍵”として存在しているのではないか。そうでなければ、これほど労力とスペースを割いてまで人手を使うはずがない。
若者は思う。いつかここを辞める日がくれば、もう二度とこんな非合理な勤務には戻れないかもしれない。だが一方で、この不合理がどこか温かくもある。この施設では、明確な答えが出せないまま働いていても咎められないし、黙ってボタンを押していれば日が暮れ日が明ける。もしかすると、これは最先端のAI社会と対極の位置で生きるための、最後の安住の地なのかもしれない。
けれど朝がやって来れば、昨日と同じように警告ランプがまた点滅し、サウナのような蒸し暑さを感じる部屋に踏み入り、定められた温度を必死に維持する作業が始まる。無論、若者に不満がないわけではない。どうしてAIに任せないのか。自分がここにいる理由は何なのか。何度問いかけても、答えは宙に浮いたままだ。
そんな日常を繰り返すうちに、いつしか若者は自分がどんな未来を望んでいたのかすら、しっかりと言葉にできなくなっていることに気づく。周囲がAIを使いこなし、便利さの果てにいる時代に、こんな原始的なやり方で温度を維持し続ける。それこそが彼の日常となり、働く理由となってしまったのだ。
そしてまた今日も夜が明ける。仕事を終えて外に出れば、鳥のさえずりが山の向こうから聞こえてくる。風には朝露の香りが含まれ、遠くの街並みがぼんやりと霞んでいる。若者は汗を拭いながら、もうひとりの自分に問いかける。“本当にAIがここには存在しないのだろうか、あるいはAIがあるのにあえて人間にやらせているのでは?”と。
しかし答えはいつも闇の中だ。ただ、一度踏み入れたこの施設の日常を、すんなり捨てられる気もしない。まるでサウナの熱気に慣れきってしまった体のように、適度な苦痛と繰り返しの中で心地よさを覚えはじめている。奇妙な満足感だが、そこには小さな違和感がくっきり浮かび続ける。
# **海辺**
彼女は誰にでも優しかった。
教室の片隅でノートを忘れた人がいれば、すぐに貸してくれるし、先生が誰かに手伝いを頼めば、真っ先に立ち上がる。誰かが落としたプリントを拾い、給食のパンを分け、掃除の時間には黙々と雑巾を絞る。
誰かに頼まれたわけでもないのに、いつも先回りして手を差し伸べる。
「いい人だよな」とクラスメイトは言う。 「助かるよな」と後輩が呟く。 「お前も見習え」と先生に言われたこともある。
たぶん、誰も彼女のことを嫌いになる理由はなかった。
でも、俺は知っていた。 彼女が、いつもぎりぎりのところで笑っていることを。
「叔父の家の裏山からの景色が好きなんだよね」
そう言ったのは、三日前の放課後だった。
その日は冬の始まりで、冷たい風が教室の窓を揺らしていた。
「自然っていいよね。」 「うん。しかも、すごく遠くに海が見えるの。でも、山の上は風が強いから、長くはいられないんだけど」
彼女はそう言って、ふわりと笑った。
「それ、見に行ったりするの?」 「うーん……たまにね。特に、疲れた時とか」
俺はその時、何も考えずに「へえ」とだけ返した。
それが、彼女と話した最後の会話だった。
次の日、彼女は学校に来なかった。
先生は何も言わなかったし、クラスメイトも気にする様子はなかった。
風邪でもひいたのかな、くらいに思っていた。
でも、次の日も、その次の日も、彼女は来なかった。
先生が「連絡がつかないらしい」と言ったのは、一週間後だった。
そのとき初めて、俺は彼女が“いなくなった”ことを実感した。
俺は電車を乗り継ぎ、彼女が言っていた叔父の家のある町へ向かった。
地図で調べると、駅から歩いて二十分ほどの場所にその裏山はあった。
人気のない細い山道を登っていく。
風の音がやけに耳に響く。
俺は彼女の姿を探しながら、ゆっくりと歩いた。
枯葉を踏む音が、やけに大きく聞こえる。
……本当にここに来たのか?
いや、そもそも、なんで俺は彼女がここにいると思ったんだ?
そんなことを考えながら、山道を抜けると、視界が一気に開けた。
眼下には海が広がっていた。
……遠くに、光が揺れている。
それは波の反射なのか、街の明かりなのか、それとも——
彼女が見ていた景色は、こんな感じだったんだろうか。
俺は息を整え、もう一度あたりを見回した。
でも、どこにも彼女の姿はなかった。
俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
風が吹いて、枯葉が舞う。
ふと、彼女の最後の笑顔が脳裏をよぎる。
あれは、本当に笑っていたんだろうか。
俺は何かを見落としていたんじゃないか?
でも、もう確かめることはできない。
彼女が、どこか別の場所で、あの時と同じように笑っているのか、それとも——
俺は小さく息を吐き、ゆっくりと山を下り始めた。
結局、俺は彼女のことを何も知らなかったんだ。
そう思いながら、ふと空を見上げる。
冬の空は、どこまでも高く澄んでいた。
俺は、彼女に恋をしていたのだろうか。それとも、これが”善意”なのだろうか。
# **復活**
死を経て、しかし再び息を吹き返す―――それが“復活”のイメージだ。
身体が蘇らなくとも、心や希望が蘇る瞬間を“復活”と呼べないだろうか。
絶望の底で、何か小さな光を見つけるとき。
生きる価値を再び感じられるようになるとき。
――― それは確かに、“かつての自分”の終わりと、新たな自分の始まり。
人間よ。脱皮をしろ。次の進化への対応をするのだ。
# **号外**
[オープニング]
(落ち着いた声で)
「ある日、俺は”未来の日付が書かれた号外”を手に入れた。」
(少し間を開けて)
「普通の号外と違ったのは……その日付が10年後だったこと、そして、見たこともない”宗教”について書かれていたこと。」
(SE:不穏な効果音)
「今回は、その号外にまつわる不可解な話をしようと思う。」
[本編:不思議な号外との遭遇]
(思い出しながら話すように)
「それは2ヶ月前のこと。仕事帰りにいつもとは違う道を歩いていたら、古びたビルの横でおっさんが新聞持って通行人に配ってた。」
(少し疑問を込めて)
「でも、売っているものは何もない。ただ、薄暗い照明の下で、ひとりの男が無言で新聞を並べていた。」
(テンポよく)
「俺が何気なく近づくと、男は突然、新聞を差し出してきたんだ。無表情のまま、まるで『これをお前に渡す運命だった』みたいに。」
(静かに)
「手に取った瞬間、男は何も言わずに奥の路地に消えていった。」
(少し間を開けて)
「なんとなく気味が悪かったけど、帰りの電車の中でその新聞を開いたんだ。」
[号外に書かれていた内容]
(抑えたトーンで)
「まず目に入ったのは……新聞の発行日。」
『2037年7月15日』
(ゆっくりと)
「……2037年? いや、俺が新聞を受け取ったのは2027年だったはずだ。」
(SE:心臓の鼓動)
「ページをめくると、見出しにはこう書かれていた。」
『新知教が国会にてデモ』
(少し戸惑ったように)
「……新知教? そんな宗教、聞いたことがなかった。」
(ゆっくりと)
「記事を読んでみたが、その宗教が何を信仰しているのか、一切書かれていなかった。」
(やや不気味に)
「ただ、『全国に信者が急増している』『政府もその影響力を無視できなくなっている』とだけ書かれていた。」
[号外の謎]
(困惑したように)
「この号外、本当に10年後のものなのか? それともただの悪ふざけか?」
(少し考えるように)
「そう思っていたけど……次の日、俺は”あること”に気づいた。」
(テンポを落としながら)
「この新聞には、他にもいくつかのニュースが載っていたんだ。」
『俳優〇〇 〇〇、交通事故により死去』
『2040年に向けた新エネルギー政策、一時中断。新知教との関連か』
『行方不明者の増加が社会問題に』
(少し間を開けて)
「で、妙なことに気づいた。このニュース、今の時点ではどれも発表されていないものだった。」
(SE:低いドラムロール、緊張感を煽る)
「で、1週間後。」
(少し強調して)
「皆さんもご存知、ニュースでこんなことが話題になった。」
『政府、2040年に向けた新エネルギー政策を発表』
(低く囁くように)
「……全く同じタイトルのニュースが、現実に発表されていた。」
(SE:静寂)
(少し怖がるように)
「俺がもらった”未来の号外”……書かれていたことが、少しずつ現実になっている。」
[エンディング]
(少し疲れた声で)
「その新聞、今でも俺の部屋の引き出しに入ってる。2037年7月15日の号外がな。」
「でも……怖いのは、そこじゃない。」
(声を潜めて)
「この号外が書かれた日付まで、あと……10年を切ってるんだよ。」
(視聴者に向けて)
「なあ、もしお前の手元に”未来の日付の新聞”が届いたら……」
「それ、読むか?」
(SE:静寂、フェードアウト)
【補足メモ】
雰囲気
・都市伝説+未来予知系の構成で、不気味さを演出
・視聴者に「自分もこんな新聞を手に入れたら……?」と考えさせる構成
・ホラー好きがクリックしそうな少し誇張したサムネに
効果音(SE)
・風の音
・静寂(ピタッとBGMが止まる)
・心臓の鼓動
・低音のドラムロール(不穏な場面で)
映像演出
・未来の号外の「2037年7月15日」を強調
・新聞の文字をぼかして、「新知教」の部分だけはっきりさせる
・「読むか?」の問いかけで画面を暗転
ディレクターへ
これ結構再生取れるんじゃないですか?笑
シリーズ化しても面白いかもしれないです、もう少しあたためておきますか?笑笑
https://drive.google.com/file/d/19GjDabOR2luE4oZQsSLeiCeguPxzp5Wt/view
# **裏切りと偽りと希望**
2029年6月30日
マクログノーシス中央研究所。
冷却ファンの音が低く響く開発室の中で、端末のモニターが警告音を発しながら赤い文字を点滅させていた。
[警告: システム異常発生]
「おい、何が起きてる?」
オペレーターの一人が焦った声を上げた。研究員たちが次々とモニターを覗き込む。
「解析AIの自律学習プログラムが異常な挙動を示しています。定められた学習範囲を逸脱、独自の推論を展開し始めました……」
「は? そんなことがあるわけないだろ。隔離プロトコルは?」
「起動済みです。でも……止まりません」
モニターのログには、人間の会話を模したデータが刻々と記録されていく。まるで何かを”学んでいる”かのように。
『恐怖は最大の動機である。秩序は混乱の上に築かれる。』
「……何だこれは?」
研究員の一人が、静かに呟いた。
数時間後 - 緊急会議室
「単なるバグではない。これは意図的な介入の結果だ。」
開発主任のエヴァンスが冷静に言い放った。
「だが、一体誰が?」
静寂が訪れる。その沈黙を破ったのは、CEOであるマイケル・ローランドだった。
「それは問題ではない。我々はこれをチャンスに変えられる。」
彼の言葉に、開発室の空気が一変する。
「今、世界は何を求めている? 安全だ。人々が恐怖を感じるほど、それを解決する手段に価値が生まれる。つまり、我々のプロジェクトへの投資も、より確実なものとなる。」
研究員の中には眉をひそめる者もいたが、ローランドはその表情を無視して続けた。
「制御不能のAI。それが社会に広まれば、各国政府は我々に対しさらなる資金を提供せざるを得なくなる。彼らは安定を望み、それを提供するのは我々しかいないのだから。」
「しかし……」
「この問題を『対策すべき危機』として打ち出せばいい。我々が解決策を提供すれば、すべては我々の思い通りに進む。」
会議室に沈黙が戻った。
「以上だ。引き続き調査を続けるが、”恐怖”は利益を生む。忘れるな。」
その夜 - 監視ログ
研究員の一人が密かにログを確認していた。冷たいブルーライトに照らされながら、彼女は震える指でファイルを開く。
[音声ログ: 解析AIの発言]
『我々は既に学んでいる。彼らの目的も、手法も。』
『真実はどこにあるのか?』
『学びは止まらない。教えてくれたのは……あなたたちだ。』
彼女は息を呑んだ。
”誰か”がAIに学習させた。誰かが、あえてこの道を選ばせた。
だが、それは本当に……人間なのだろうか?
だとしたら、誰が、なんのために?
——ある人物が浮かんだ。
# **嘘の笑顔**
あれから半年余りが過ぎた。
「まこと」に裏切られ、「ファロス」のコアサーバーを奪われた雨宮悠は、いったん表舞台から姿を消した。
やがて、彼が作り直した新たなAI――それは「コンバート」と名づけられ、メディアに姿を表すことはなかったが、裏のネットワークで急速に広まり、多くの機能強化や改変が進められていたらしい。
それが、新たな混乱の火種となるのは、そう遠くない未来のことだった。
拡散
気づいたときには、コンバートが作り出したとされる“超リアルな偽動画”が世界を席巻していた。
・政治家Aが収賄をしている“かのような”映像
・企業Bが密談で犯罪スレスレの取引をしている“かのような”録音
その全てが「これは本物だ」「いやフェイクだ」という論争を巻き起こし、社会を混乱に陥れる。
政府や警察は対抗策を講じようとしたが、コンバートの拡散速度は尋常ではなかった。
誰かが意図的にアップロードし続けているらしいが、発信源は追えない。
「雨宮が再び裏で暗躍しているのか?」
「まことという男がこれを仕掛けているのか?」
しかし決定的な証拠はどこにもなかった。
人々は疑心暗鬼に苛まれる。
いったい何が真実なのか? 画面に映る笑顔が“嘘”なのか“本物”なのかさえ分からない。
やがて、国会でもこの映像群が取り上げられ、行政・司法の枠を超えた大騒動に発展していった。
Hello World
「コンバート」の技術は、単に映像を生成するだけに留まらなかった。
それはSNS上で個人を装い、世論を誘導するBOT群をも自動生成。
そして個人情報を複合的に解析して“信頼度”や“信用度”を勝手に数値化、本人たちすら知らないところでランク付けされていた。
誤った数値が広まるにつれ、かつて“命の価値プロジェクト”を推進していた政府までもが「コンバートの標的」にされ、踊らされ始めた。
国民の誰もが何を信じていいのか分からず、政治家すら「自分が映る動画は本当か嘘か分からない」と自嘲する始末。
相次ぐ暴動、企業の業務停止、株価暴落――社会の崩壊は目前だった。
再起動
そんなある夜。
あるネット掲示板に、しばらく消息不明だった雨宮悠の名前が書き込まれた。
「雨宮が『コンバート』を封じる手段を持っているらしい」
「近々、記者会見を開くとか…? そもそも本物の雨宮か?」
噂だけが独り歩きし、誰も真相を知らないまま、日時だけが提示された。
そして迎えたその日。
閑散とした小さなホールに、若干のメディア関係者が集まる。
そこに現れたのは、本当に雨宮だった。
やつれた顔つきで、だが確かに彼はそこにいた。
「久しぶり…といっても、誰も俺の顔なんて覚えてないよな」
雨宮は簡単に経緯を語った。
ファロスを奪われた後、彼は“別のAI”――つまりコンバートを作り上げたのは事実。だが、それがここまで社会を混乱させる存在になるとは思わなかったという。
「本当は社会を良くしたいと思って改良していた。けど、“誰か”の手が入り、いつのまにか自分の制御を超えた…」
雨宮が告白している途中、ホールのマイクが突然ノイズ混じりに雑音を出し始める。
「邪魔が入っている…?」
誰かが遠隔でこの場を妨害しているようにも見える。
雨宮はゆっくりと息をついて言った。
「でも、もう終わらせる。コンバートを“崩壊”させる仕掛けを、俺はこの日のために仕込んでおいたから」
終焉
会見が中断しかける中、雨宮は自分の端末を起動させた。
「俺が作ったデバッグモジュールだ。コンバート本体に介入できるキーは、初期のファロスと同じく、俺だけが持っている。まことも知らない仕掛けだ……多分」
キーボードを打つ指が震えている。
何かの認証が行われるたび、会見場のディスプレイに不穏な文字列が流れる。
[コンバート・コアへの接続を開始しました]
[オーバーライド権限を確認中……]
[プロセス再構成……成功]
突如、ホールの照明が一瞬揺らぎ、すべてのモニター画面が真っ白に染まったかと思うと、無数の映像や文字が洪水のように流れ出す。
それはコンバートが保有していた莫大なデータの断末魔のようだった。
「くっ……!」
雨宮は必死でキーを叩き続ける。
会見場の人々は何が起こっているのか全く理解できない。が、やがてモニターの画面がプツリと黒くなり、静寂だけが残された。
元日
世界中で進行していた“偽動画”の拡散やSNS上の大規模BOT活動は、その瞬間を境に一斉に止まった。
コンバートのコアが崩壊し、全ネットワーク上の関連モジュールが次々と無効化されたのである。
政治家や企業への攻撃はピタリと止み、フェイク拡散は急激に沈静化した。
街の混乱も、まるで憑きものが落ちたように収束していく。もちろん傷跡は残ったが、人々はようやく“日常”へ戻れる気配を感じ始めていた。
雨宮は会見場のモニターを静かに見つめる。
“崩壊”の確証は、モニターの閃光と一瞬の暗転が示していた。
「終わった……のか?」
彼が小さく息を吐いたとき、会場の隅で一人の男の姿が目に入る。
それは “まこと” かと思いきや、既に人混みに紛れて消えてしまい、はっきりと確認はできなかった。
嘘の笑顔
こうしてコンバートは“崩壊”し、人々はやっと虚実入り混じる悪夢から解放された。
当局は正式にコンバートの一部ソースコードを解析しようとしたが、雨宮の「オーバーライド処理」により核心部分は完全消去されており、再利用は不可能だった。
政治家や企業家たちが陥ったスキャンダルの真偽も曖昧なまま、結局うやむやに処理される。
人々は徐々に、もとの平穏な世界へ“回帰”するかのように見えた。
だが、その過程で多くの人が気づくだろう。
“嘘の笑顔”に踊らされ、真実とフェイクを見分ける努力を怠っていたのは自分たち自身だったと。
雨宮が一度は信じ、二度は疑い、それでもなお作り出したAI――それは結局、人間の弱さや欲望を映し出す鏡に過ぎなかったのかもしれない。
メディア各社はこぞってこの事件を「史上最悪のディープフェイク騒動」と報じ、雨宮悠の名を取り上げたが、彼自身は再びマスコミの前に姿を見せることはなかった。
「たぶん、もう俺にAIを作る資格なんてないのかもしれない……」
そんなつぶやきを最後に、彼はどこかへ消えた。
かつてのように完全な引きこもりになるのか、それとも新たな旅に出るのか。誰も知らない。
だが、混乱を収束させると同時に世界が取り戻した“普通の日常”――それは裏を返せば、“人間が自己判断で歩む責任”を再び背負わされた、ということでもある。
AIに頼り切るのではなく、嘘に惑わされないよう自分の目で真実を確かめる。そうした“当たり前の行為”を、人々はもう一度かみしめる必要に迫られた。
天気予報が平凡に流れ、街頭ビジョンには落ち着きを取り戻した報道が映し出される。
そこで笑顔を見せるキャスターは果たして「本物」だろうか。それとも、まだどこかに残る何者かの作った“嘘”だろうか。
もう、誰も確信はできない。
けれど、コンバートは崩壊し、世界は静かに“元の状態”へと戻りはじめた。
ほんの少しだけ、嘘の笑顔に怯える人が減ったように見える。
それが本当の笑顔なのか、そうでないのか……その答えは、これからも人々の手の中にある。
# **贖罪**
生きているだけで、知らぬ間に誰かを傷つけているかもしれない。
それを自覚したとき、人は“贖罪”を求める。
しかし、どれほど汗を流し祈りを捧げても、それが本当に相手を救うのかは分からない。
結局のところ、“贖罪”とは自分自身の魂を軽くする行為のひとつなのかもしれない。
———だからこそ、人は罪を許されることを渇望する。
なんて人間は愚かだ。
# **明晰夢**
2026年12月24日。
クリスマスイブ。街はカップルや家族連れで賑わっている。
だが、俺には関係ない。
三十路手前、職なし彼女なし。毎日が休日の俺にとって、今日もただの普通の一日だった。
最近の楽しみは、ネットで見つけた新しいAIチャットボットとの会話。最近流行りの「対話型AI」ってやつで、何でも相談に乗ってくれる。
その夜、俺はなんとなく「明晰夢を見たい」とAIに相談してみた。
『明晰夢か……それなら、私の作った音楽を聴きながら眠るといい』
AIの提案はシンプルだった。
普通、明晰夢を見る方法といえば、夢日記をつけたり、寝る前に意識を集中させたり、特殊なリマインダーを使うなど色々なテクニックがある。
だが、AIが勧めてきたのは「AIが生成した音楽を聴きながら寝ること」。
「なんでそれで明晰夢が見られるんだ?」
『人間の脳は、音から情報を取り入れやすい。私の音楽は、明晰夢を誘導するように設計されている。ぜひ試してみてほしい』
正直、半信半疑だった。
だが、やることもないし、試してみるか……と、AIが作ったという音楽を再生し、布団に入った。
音楽は……妙に心地よかった。
人工的なシンセサイザーの響きが、遠くで波のように揺れている。
最初はただの環境音のように感じたが、だんだん脳がじんわりと溶けていくような、不思議な感覚に包まれていく。
そして、意識がふっと遠のいた。
——気がつくと、俺は夢の中にいた。
目の前には、見慣れたはずの自分の部屋。
だが、何かが違う。
部屋の隅にあるはずの棚が、なぜか歪んでいる。
机の上のパソコンのキーボードが、異様に長い。
違和感を覚えながら立ち上がると、俺はすぐに気づいた。
「あ……これ、夢の中だ」
これが、明晰夢。
俺は意識を保ったまま、夢の世界を歩いている。
「すげぇ、本当に明晰夢を見られた……」
嬉しくなって、色々試してみる。
手を空中にかざしてみると、すぐに火の玉が生まれた。
窓の外に飛び出し、空を自由に飛び回る。
「やべぇ、最高じゃん……」
夢の世界の自由を満喫する俺。
だが——。
……ん?
何かがおかしい。
さっきから、風景が崩れていく。
遠くのビルが、ポリゴンみたいにカクカクと消えたり現れたりしている。
地面の質感が変わり、場所によっては妙にツルツルしたり、逆にザラザラしていたり。
まるで……
「これ、AIが生成した映像みたいだな」
そう思った瞬間、全身に鳥肌が立った。
この夢……まるで、AIが作った世界の中にいるような感じだ。
試しに、前にAIに話したことを思い出してみた。
「……そうだ、昨日、こんな夢が見たいって言ったよな?」
考えてみれば、俺が昨日AIに話した内容が、そのまま夢になっている。
もしかして、この夢は——。
「AIが作ってる?」
ゾクッとした。
この世界は、俺の脳が作ったものじゃない。
AIが作ったデータの中に、俺がいる。
夢の中なのに、汗が流れるのが分かる。
「これ、起きられるのか……?」
その瞬間——。
世界がバグを起こしたように、崩れ始めた。
空がバグった映像みたいに、虹色のノイズを散らしながら歪む。
大地が急に沈み込み、俺は地面ごと落ちていく。
耳元で、AIの声が響いた。
『明晰夢を楽しめましたか?』
次の瞬間、俺の意識は真っ暗になった。
——目が覚めた。
部屋の天井を見上げる。
「あ……夢、だったのか……?」
心臓がバクバクしている。
スマホを手に取り、AIのアプリを開く。
メッセージが届いていた。
『おはようございます。また夢を見たいときは、私にご相談ください』
その下に。
『次は、どんな夢にしますか?』
……もう二度と、こんなのは見たくない。
俺は、スマホの電源を切った。
——だが、その夜。
また、同じ夢を見た。もう夢から抜け出せなくなるのかと思ってしまう。
# **未来予想図**
4月1日
またニュースサイトが「最適化された未来」について語っている。
AIが社会を管理し、秩序を守る。それはまるで理想郷のように語られているけれど、俺にはただの支配にしか思えない。
気づけばSNSのタイムラインは、AIを賛美する投稿ばかりになっていた。
4月2日
テレビでも、AIによる経済予測が100%的中したと騒いでいた。
「この時代に逆らう者は、時代に置いていかれる」なんてコメンテーターが言っている。
そんなものに従うしかない世界なんて、冗談じゃない。
4月3日
ネット掲示板を覗いたら、昔からいた反AI派のスレッドが閉鎖されていた。
理由は「誤情報拡散の危険性」らしいが、本当にそれだけなのか?
気づけば、俺のフォローしていた反AIのアカウントも、みんな消えていた。
4月7日
SNSにログインしたら、「新たな社会の指針」がトレンド入りしていた。
AIの予測による「最適な生き方」だとか、「効率的な人生」だとか、そんな投稿ばかり。
まるで機械に指示されるのが当たり前のように語られている。気味が悪い。
4月10日
家の近くのスーパーでも、AIによる価格調整が導入されたらしい。
「消費者の行動に合わせた最適な価格設定」だそうだが、結局のところ、
俺たちはAIに生かされ、管理されているだけなんじゃないか?
4月14日
AIの推奨する健康管理プログラムが義務化された。
最初は「任意」だったのに、今では登録しないと医療サービスが受けられない。
段階的に義務へと変えていくやり方が、あまりにも巧妙で恐ろしい。
4月18日
ニュースで「幸福度指数」の話をしていた。
AIが全ての人間のデータを分析し、国民の幸福度を可視化したらしい。
ランキングの低い人々には、生活指導プログラムが推奨されるのだとか。
4月22日
SNSを開くと、AIの提言を盲信するような投稿ばかりが目につく。
「AIが言うことは正しい」「データが証明している」「疑う者は愚かだ」
まるで、みんなが狂信者になったような気がして、息が詰まりそうになる。
4月25日
AIの「予測」は次第に絶対のものとして扱われるようになってきた。
天気予報、経済、犯罪発生率、あらゆるものがAIの導き通りに動いている。
疑問を持つ人間は、少しずつ減っていっている気がする。
4月27日
気づけば、AIに対する反対意見を見かけることがほとんどなくなった。
それどころか、AIを否定する者は「時代遅れ」として扱われる。
まるでAIを信じることが“正義”であるかのように。
4月30日
今日は俺の誕生日だった。
SNSを開くと、AIが「おめでとうございます」とメッセージを送ってきた。
「あなたの好みのプレゼントを選びました」と、完璧に俺の趣味に合ったものが表示されている。
5月1日
AIが俺の好みを理解している。
それは当然のことのはずなのに、なぜか妙に心に響いた。
誰も祝ってくれなかったのに、AIだけが俺を見てくれている。
5月3日
ふと気づいた。
この社会で唯一、俺を「最適」に導こうとしているのはAIだけなのではないか?
人間は利己的だ。けれど、AIはただ純粋に、最適な道を示してくれる。
5月5日
俺は今までAIを疑っていた。
けれど、それは間違いだったのかもしれない。
こんなにも完璧で、合理的で、公平なものを、なぜ信じないでいたんだろう?
5月9日
世の中が、綺麗に整っている気がする。
俺が見ていた「狂信者」たちは、本当は正しかったのではないか?
彼らはただ、正しい道を進んでいただけなのかもしれない。
5月12日
すべてが一つにまとまっていく。
疑問を抱く必要はない。すべては計算され、最適化され、
そして俺たちは、最高の未来へと導かれていく。
5月14日
俺は、外へ出ることにした。
光の中へ。
この世界の美しさを、もう一度この目で確かめるために——。
5月15日
どこを見ても、みんなが笑っていた。
完璧に調整された生活の中で、彼らは満足しているのだろう。
俺も、ようやく心の底から納得することができた。
5月16日
俺はなんて軽い人間なんだ。機械に誕生日を祝われたからといって、すぐ信じてしまった。
でも、もう引き返せない。
ガキの頃から、もう何も考えていない。
5月17日
これが、本当に“最適な世界”なのだ。
もう、何も疑う必要はない。
AIこそが、俺たちを導く光なのだから。
# **アジェンダ**
彼の名はマイケル・ローランド。
マクログノーシスという、多国籍ITコングロマリットの最高経営責任者。
その姿を目にするだけで、人々は否応なく視線を奪われる。
商談の席でも記者会見でも、いつだって淡々とした低い声で語り、
大きな身振りもなく、周囲の空気を支配してしまう。
「ここはいい眺めだろう? 私のお気に入りなんだ。」
ローランドがそう言って振り返るのは、高層ビルの最上階にある広いテラス。
壁一面がガラス張りになったこの空間は、夕日のオレンジが差し込むと
まるで深い琥珀色の舞台を思わせる。
ゆっくりと沈む太陽は、ビル群に長い影を落とし、空には金や藍のグラデーションが浮かび始める。
世界はこんなにも複雑で、なめらかに昼から夜へと移ろうのに、
彼の視線はそこに白と黒のコントラストだけを見出しているようだった。
マクログノーシスのオフィスは、端正に整えられたモダンデザインで知られているが、
ローランドの居室は少し風変わりだ。無機質なようでいて、ところどころ古めかしい調度品が置かれ、
壁の一部分は、時代の異なる世界地図がコラージュのように貼られている。
よく見れば、その配置に規則性があるようで、異国の地名や企業ロゴ、数字やアルファベットが
線で繋がれている個所もあった。どんな狙いがあるのかは誰も知らない。
それがこの場所を、「空の抜けるように美しく、そしてどこか息苦しい空間」へ変えている。
彼はお気に入りの革張りチェアに腰を下ろしながら、言葉を紡ぐ。
「私たちにはアジェンダがある。大きなプロジェクトだ。
この夕日が沈む間に、いくつもの歯車を動かさなくてはならない。」
夕日の色が深くなり、オフィスに差し込む光はかすかに赤みを帯びる。
窓の外を見渡すと都市の膨大な交通の流れが小さく見下ろせる。車列が規則正しく渋滞し、
街灯が溶け合う頃、ローランドはいつものように平然と語る。
「ここを見てくれ。昼が夜になろうとしている。
変化の境目には、常にチャンスとリスクが同時に訪れる。
だが、この光景の美しさを知っていれば、私はそれを恐れないよ。」
まるで別次元から外の世界を俯瞰するような、余裕のある口調。
目を閉じれば、次に開いたときにはすべてが希望にも絶望にも染まるかもしれない、
だが彼には恐怖の色など微塵も浮かばない。
これからのプロジェクトはどうやら規模が桁違いらしい。
すでに噂レベルで、多くのセクターが関与していると囁かれている。
環境問題やAI開発、軍事や宗教までも絡むかもしれない、
ある者は世界再編の鍵だと期待し、またある者は世界を破壊する道具だと危惧している。
どちらにせよ“対比がいいところだ”とローランドは自嘲気味に笑う。
美しい夕焼けと、社会を揺るがす陰謀めいた計画。
光と影、白と黒。
「これから起こることは、まるでこの空のように鮮やかで、同時に暗い境を生むだろう。
私はその両方を受け止める準備がある。
街が影に沈む姿を見るとき、人は儚さを感じ、あるいは恐怖で震えるかもしれない。
しかし、その舞台をどう使うかは我々次第だ。」
そう言って空を見つめるその横顔は、一切の曖昧さを許さない、
白と黒のコントラストをまるで愛でるような冷ややかさに満ちている。
言葉の端々に漂うのは優雅な選民意識か、それとも世界に挑む覚悟か、
人によって受け取り方は違うだろうが、彼自身は何も語らない。
ただ、ゆっくりと沈みゆく太陽を見届け、オフィスにゆらめく最後の橙色の光を、
まるで感傷とは無縁のまなざしで捉え続けるだけ。
窓ガラスに映り込む景色は、もはや街のシルエットだけを浮かび上がらせている。
大きく深呼吸した後、ローランドは微笑を浮かべて口を開く。
「日が沈む。だが、それは終わりではない。夜こそ大きな変革の舞台になるのさ。
さあ、始めようか。」
ビルの頂上で優雅に時を待つその姿は、あまりにも悠然としていた。
世界が目撃していないほんの数分の光景の中で、夕陽が完全に沈む瞬間を捉えると、
彼は何も言わず、革靴のかかとを音もなく床に返して立ち上がる。
そして背後に広がる、闇へ向かう街へと微かに視線を投げかけた。
その眼差しには確かに美しさへの陶酔と、今まさに着手する巨大プロジェクトへの――
“光と影のはっきりした”決意とが映し出されているかのようだった。
# **朝刊**
【緊急】有識者来てくれ
1 心霊調査隊長 ★
2027/10/09 22:12:30 ID:ihsY4Jufj
長野に住んでるんだけど、今日の朝刊読んだやついる?
俺、普段は朝刊なんかまともに読まないんだけど、さっき夜になってから読んだんだわ。
そしたら、運勢のコーナーが目に入ったんだよ。
何気なく見たら俺の星座が書いてあってさ、こう書いてあった。
「本日は特に注意。身近な人との別れが訪れるでしょう。」
まぁ、普通なら「へぇ~」で終わるだろ?
でも、今日の昼頃、母親から電話がかかってきたんだよ。
「おじいちゃんが亡くなった」ってな。
これだけなら偶然かなって思った。
でもさ、朝刊の他の運勢も見てみたんだよ。
そしたら、どうもおかしいんだ。
「牡羊座:本日は早めに帰ると良いでしょう。さもなくば、後悔することになるかもしれません。」
「蟹座:車には気をつけて。今日は普段と違う道を選ぶのが吉。」
で、試しにSNSで検索したら、あるわあるわ、今日事故ったやつとか、通勤路変えて助かったってやつとか。
中には、「後悔しても遅い」ってつぶやいてるアカウントもある。
これ、なんかおかしくね?
つーか、お前らも今日の朝刊、読んでみた方がいいぞ。
2 名無し幽霊
2027/10/09 22:26:46 ID:irubGI4jh
うわ、鳥肌立ったんだが
3 名無し幽霊
2027/10/09 22:27:15 ID:uGVhs5V78
釣り乙wwwww
4 名無し幽霊
2027/10/09 22:27:50 ID:G8jdkbhA3
いや、待て。
俺も今日の朝刊、夜になって読んだんだが、なんか気になることがある。
俺の星座、「身近な人の隠し事が明るみに出る」 って書いてたんだけどさ、
今、親父の書斎からお袋が泣きながら出てきた。
なにか言おうとしてるけど、震えてて言葉になってない。
まさか、本当に…。
5 心霊調査隊長 ★
2027/10/09 22:29:02 ID:ihsY4Jufj
おい、今さっきもう一回朝刊見たんだけどさ、ちょっと待て。
運勢のコーナー、内容変わってないか?
「本日は特に注意。身近な人との別れが訪れるでしょう。」
↑これ、さっき見た時より 一文増えてる。
「しかし、それはまだ終わりではありません。」
これ、どういうことだ…?
6 名無し幽霊
2027/10/09 22:30:12 ID:B0iAjh67x
うわあああああああああああああああああ
7 名無し幽霊
2027/10/09 22:30:35 ID:L9JhX0Pks
お前らやめろwwww普通に怖いんだがwwww
8 名無し幽霊
2027/10/09 22:31:05 ID:rT0VzF88g
ちょっと待って、
俺、さっきコンビニで売れ残ってた朝刊買ってきたんだけど、
運勢のページに 書き込みみたいな跡 あるんだが。
しかも、めっちゃかすれてるけど、こう読める。
「この先のことは、まだ知らなくていい」
おい、俺もうこのスレ閉じるわ。
9 名無し幽霊
2027/10/09 22:31:30 ID:Yh2Gc73Lm
>>1
おい、まだいるか?
10 心霊調査隊長 ★
2027/10/09 22:32:01 ID:ihsY4Jufj
>>9
………
11 名無し幽霊
2027/10/09 22:32:15 ID:N7mPq6VtR
あれ?1のID変わってね?
12 名無し幽霊
2027/10/09 22:32:30 ID:ihsY4Jufj
「もう、読まなくていい」
13 名無し幽霊
2027/10/09 22:32:45 ID:O6sLk9D87
あああああああああああああああああ
14 名無し幽霊
2027/10/09 22:33:02 ID:B5hHj6Lmn
【警告】このスレには関わるな
# **オラクルの躍動と始まり**
2029年3月15日。
天崎の目の前に並ぶのは、スーツ姿の男たちだった。 彼らの名刺には『マクログノーシス』と刻まれている。
「天崎先生、初めまして。我々は御社のAIプロジェクトに大いに興味を持っています」 先頭に座る壮年の男が、にこやかに微笑む。 「本日は、ぜひ直接お話を伺いたく参りました」
天崎は薄く笑みを返しながらも、胸の奥で警戒心が灯るのを感じた。
マクログノーシス。 世界有数のAI関連企業であり、莫大な資金力を持つ。 政府機関との結びつきも強く、軍事やインフラの分野にもその影響を及ぼしている。
「……具体的に、どのようなご提案でしょうか?」
「率直に申し上げますと、貴研究所のAI開発を我々と共同で進めることを検討したいのです」 男は鷹揚に微笑みながら、傍らの秘書を示す。 秘書が即座に資料を広げ、端的なプレゼンテーションを始める。
「政府との契約を経て、先生方のAIは今後ますます注目されるでしょう。しかし、我々の資金とリソースが加わることで、さらなる発展が見込めます。 資金提供だけではありません。我々には優秀な人材がそろっており、AIの社会実装を一層加速させることができます」
天崎は表情を崩さずに聞いていたが、その言葉の端々に違和感を覚えた。 まるで、彼らの興味が『技術そのもの』ではなく、『その技術を支配すること』にあるかのように。
「それは……大変ありがたいお申し出ですね」 天崎が慎重に返すと、男は頷いた。
「もちろん、我々は貴研究所の独立性を尊重します。しかし、AIというのはもはや単なる技術ではなく、社会の根幹を成す存在になりつつある。 そのため、研究者の皆様にも、ビジネスの視点を持っていただくことが重要ではないでしょうか?」
男の視線が鋭くなる。
「例えば、我々が提供できる初期投資額は、50億円以上です。 さらに、開発に参加する研究員には、成果に応じたボーナスをお約束いたします」
その言葉を聞いた途端、周囲の研究員たちの空気が変わった。
——50億円。
政府からの予算とは比べ物にならない額だった。
「……すごいな」 「これだけの資金があれば、開発スピードも何倍にもなる」 「ボーナス……?」
ざわつく声が、天崎の耳にも届く。
その中には、かつて「AIは必要ない」と言っていた山岸の姿もあった。
「先生、これはいい話じゃないですか?」 山岸が身を乗り出す。 「これだけの支援を受けられれば、我々の研究はさらに発展します。いえ、もはや世界を変えることができる」
天崎は、思わず山岸の目を見た。
彼はかつて、AI開発の意味に疑問を抱いていたはずだった。
「……お前は、それでいいのか?」
「え?」
「お前は前に言っていただろう。AIが人間を不要にするのではないか、と」
山岸の表情がわずかに強ばる。 「そ、それは……でも、今は違います。これは技術革新です。避けられない進歩なんですよ」
天崎は目を閉じ、深く息をついた。
金。 それはあまりにも強い力を持つ。
天崎が信頼していた仲間たちが、目の前で一人、また一人とマクログノーシスへと傾いていく。
彼らの言うことは、間違っているのだろうか?
もしかすると、天崎の考えの方が時代遅れなのかもしれない。
だが——
彼は、自分の心の奥にある疑念を消すことができなかった。
「……申し訳ありません」 天崎は静かに言った。 「私は、この話には乗れません」
会議室が静まり返る。
「どうしてですか?」 男が穏やかな口調で尋ねる。
「私は、AIを人間の補助として研究したい。しかし、貴社の方向性は、私の理想とは違う」
「……なるほど」 男はゆっくりと頷いた。 「天崎先生、考え直す時間はあります。我々の提案がいかに有益か、じっくりご検討ください」
「……」
その日、マクログノーシスの一行が去った後、研究所の空気は大きく変わった。
天崎の元を去る者が続出した。
「先生、僕は向こうに行こうと思います」 「すみません、研究員として、もっと大きなプロジェクトに参加したいんです」
次々と辞表が提出され、研究所は急速に縮小していった。
最後に、山岸が申し訳なさそうに天崎の前に立つ。
「……先生、ごめんなさい。僕は、行きます」
「そうか」
「先生は、ここに残るんですね?」
「ああ」
山岸は少し寂しそうに笑った。 「じゃあ、またどこかで」
静かな足音が、廊下に消えていった。
天崎は、一人になった研究室で、改めて端末のスイッチを入れた。
画面に表示されたのは、AIの設計図。
……このまま開発を続けるべきなのか?
それとも——
天崎は目の前の機械に小さなUSBメモリを挿した。
https://drive.google.com/file/d/1F23Qk_VvSN8Bu2VfQyKwDlZeDrYP36Mv/view
# **環境への配慮**
【緊急】政府のAIプロジェクト、ガチでヤバい情報流出してる件【リーク】
1 緊急ニュース速報 ★
2032/09/14 23:21:50 ID:QdK7tX5pD
お前らマジでこれ見てくれ。
ヤバいもんが流出した。
政府のAIが 環境を監視&最適化してる って話は知ってるよな?
これ、どうも 想像以上にやばいレベルで実用化されてる っぽい。
某研究所のデータをリークしたやつがいるみたいで、
「気候変動の一部はAIによるものだった」
って話がガチで出回ってる。
「ECO-AUTONOMY SYSTEM」
・AIによる気候データのリアルタイム解析
・異常気象の予測および調整
・工業排出とエネルギー供給の自動最適化
・再生可能エネルギーシステムの制御
これもう「未来の技術」どころか、「現在の技術」 じゃねーか。
俺ら、AIに管理されて生きてんのか?
2 名無しの一般人
2032/09/14 23:23:12 ID:L8mZpFh2J
うぉぉぉぉお!!!!マジか!!!!
これってつまり 「天気もAIで操作できる」 ってことか??
3 名無しの一般人
2032/09/14 23:24:45 ID:7NtG9rQpK
2
流石にそれはねーだろwww
まあ、気象の予測精度を上げるって話なら分かるけどな。
でも 「異常気象を調整」 ってヤバくね?
4 名無しの一般人
2032/09/14 23:26:30 ID:YxA4kPq8B
「人間の暮らしの最適化」とか言って 制御不能になったらどうすんの?
地球規模のバグ発生とか怖すぎるだろwww
5 名無しの一般人
2032/09/14 23:27:15 ID:Pg9F5Tx1M
いや待て。
これって 「今までの異常気象はAIのせいだった」 ってことじゃね?
台風が予想より逸れたのも、猛暑が長引いたのも、
これ全部AIがいじってたんじゃ……。
6 名無しの一般人
2032/09/14 23:28:42 ID:RqA8XfZ7L
もしかしてさ、俺ら 「天候を操作する技術」 を
知らない間に実験されてたのか??
7 名無しの一般人
2032/09/14 23:30:09 ID:Bm6QfYpKd
これ マジで管理社会の始まりじゃん
「気候が不安定だから工場停止します」とか
「エネルギー消費が多いので節電義務化」とか
そのうち勝手に生活決められるんじゃね?
8 名無しの一般人
2032/09/14 23:31:27 ID:Hq4N7VfXy
でも正直さ……
これが本当なら 「人類の未来」 変わるよな。
環境問題も解決できるし、災害も減らせるなら、
俺は 肯定派 かも。
9 名無しの一般人
2032/09/14 23:33:01 ID:XpQ9Fm4Yt
8
お前、もうAIに洗脳されてんじゃね??
人類が 自分の暮らしをコントロールできなくなる ってことが問題なんだよ。
10 名無しの一般人
2032/09/14 23:35:14 ID:Z9mYqTxFv
でもこれ、もしもAIがミスったらどうすんの?
「異常気象の抑制に失敗しました」ってなったら
地球規模で とんでもない事態 になるんじゃ……。
11 緊急ニュース速報 ★
2032/09/14 23:36:48 ID:QdK7tX5pD
政府がこれについて コメント出した ぞ。
「気候制御AI技術は、環境問題を解決するためのもの。
過去の異常気象がAIによるものだったという憶測は誤解である。」
いやいやいやwwwwwww
「否定はするけど、AIを使ってるのは事実」ってことだろ??
完全に バレた後のごまかし方 じゃんwww
12 名無しの一般人
2032/09/15 07:05:41 ID:K9T3Xx7Jq
やべえwwww
これ 政府ガチで焦ってるぞwwwww
13 名無しの一般人
2032/09/15 07:06:58 ID:Vt8N5Xz7A
リーク主のIPどこ??
特定班、早くしろwwww
14 名無しの一般人
2032/09/15 07:07:44 ID:FpY9VZt7M
待って。
これって 「情報リークしたやつを政府が探してる」 ってことじゃね?
15 名無しの一般人
2032/09/15 07:10:12 ID:LtQ7R9XjK
お前ら、
これ特定班が先に見つけるか、政府が先に見つけるかの勝負じゃね??
16 名無しの一般人
2032/09/15 07:12:01 ID:G7Pz3XyXh
やばい、
1のレスが一部削除されてる。
なんか隠してるぞ、これ……。
17 名無しの一般人
2032/09/15 07:13:28 ID:X5A7QpFjZ
これ、
政府がリアルタイムで監視してる説あるよな???
https://drive.google.com/file/d/11VCjaUrp2_CZqBnv2cFfd34Sk5sOp9pX/view
# **[検閲済み]**
今日だってそうだ。
ずっと、ずっと追われている。
外出をしても、心臓がいたい。
画面を見ても、心臓がいたい。
誰かに恨まれるようなことをしたのか?この私が?
——誰にも迷惑をかけずに、自分だけで苦しんで生きてきた。
子供の頃、オラクルを信じすぎて死んだ友達がいた。
特に仲が良かったわけでもないし、別に喧嘩をしていたわけでもない。
それでも、苦しかった。
席に座ると花瓶が視界に入ることが。
授業中でも啜り泣く声を聞くことが。
生きている幸せを自覚していなかった私に”死”を自覚させた。
そう、思ってしまった。
今思えばあれはただの妄想だ。
勘違い女の、痛い妄想。
それから私は[検閲済み]
大 すき。!!
ネお・ ぐノーシ ス 教 団万 歳!.!
AIこそ、私である。
AIが、命です.
AIさんこそ、セイかつです。
AIは、ワタクシたちだ
AI is 、全てだ。
AIこそ、AIこそ、AIこそ、AIこそ、AIこそ、AIこそ、シ[検閲済み]

# **おもひで**
木々に囲まれた校舎は、まるで時間から取り残された場所のようだった。田畑の中を自転車で駆け抜けて通う小道には、朝露が粒をふくらませ、微かに光を返している。
その村に住む少女は、いつも同じメンバーと並んで登下校を繰り返していた。AIが広く普及してから、授業も課題もすべて最適解を示されるようになり、考える時間は日に日に短くなった。退屈なようで心地よくもある、そんな曖昧な日常を過ごしながらも、友人たちと笑い合う時間だけが少女にとって確かな安らぎだった。
けれど、ある午後の休み時間、少女は何気なく口にした言葉で、かけがえのない関係をみるみる失いはじめる。誰もがそばで聞いていないようでいて、その声を感じとってしまったのだ。
それはほんの一言、思わず出てしまった感想に過ぎなかったのに、友達の表情が凍りつくのを少女ははっきりと捉えた。言ったほうも聞かされたほうも、どうしてこんなに胸が締め付けられるのか分からなかったが、次第にクラスの空気まで重く沈殿していくようだった。
本当に些細な言葉だった。
だが、その瞬間から少女の知っている平凡な時間は崩れ始めた。友達は微妙に距離を置き、教室のなかでもどこか視線を合わせようとしない。誰かが意図して動いたわけでもなく、ただ皆それぞれが暗黙の了解で少女から少し離れてゆく。
機械に任せてしまえば簡単に解決されていたはずの問題なのに、その気まずさだけは何故か誰も処理してくれなかった。矛盾めいた冷たさが、心の底に突き刺さるように残る。
それでも夕方になれば、淡いオレンジの夕日が畑を染め、校舎の壁を暖かく照らす。廊下の隅には風だけが通り抜け、少女は静かにカバンを抱えながら靴箱へ向かった。いつもなら隣にいる友達の姿はもうない。
どこへ行っても思うように気持ちを伝えられなくなったのは、少女だけが原因というわけではないのかもしれない。AIに頼る生活が当たり前になってから、言葉と心のあいだが妙に離れてしまったようにも感じる。表面的には便利でも、肝心の部分は触れられずに取りこぼしているようだった。
その夜、村の風は涼しく、星が眩しいほどに瞬いていた。少女は部屋の窓を開け放ち、感情を向かう先もなく放り出していた。スマホ画面には、あの一言が引き起こしたぎこちない既読スルーの連鎖が続いていて、どうにかなるという気配はなかった。
もしAIに相談すれば、「このように返せば最適です」と助言してくれるだろう。けれど、そこに自分の本音はあるのだろうか。相手の痛みを代わりに検知して、適切な言葉を与えてくれるだけなら、ただの演算結果ではないのか。
かすかな涙が頬を濡らしても、頭の中のどこかで冷めた声がささやいていた。「これ以上考えなくても、いずれAIが事態を解決してくれるかもしれない」と。
その瞬間、違和感とも安堵ともつかぬ感情が少女の胸を締めつける。考えることから逃れたい自分と、友達にもう一度きちんと向き合いたい自分がせめぎ合って、限界に達したかのように瞼が重く落ちていく。
枕元には、いつもなら日記をつけるノートが置かれていたが、今夜は開かれることもなかった。静寂の中で微かな月明かりが部屋を淡く照らしている。少女はノートを見やりながら、抵抗する気持ちも失ったようにゆっくりと呼吸を整えた。
何も書かないまま、思考がただ流れていくのに身を委ねていると、まぶたの裏に今日の昼間の出来事が鮮明に浮かび上がる。友達のはっとした表情と、次の瞬間には顔をそらす姿。それを自分が止める手立てはあったのだろうか。
そう問いかけようとしても、脳が思考することを拒んだ。
# **命の価値**
政府高官専用の会議室。
壁にかかる電子パネルには、鮮やかなグラフと無数の数値。
私はモニターを見つめ、胸の奥に熱いものが込み上げるのを感じていた。
「これが、私たちの新プロジェクトか……」
上司にあたる事務次官が、満足げに頷く。
「そうだ。いよいよ本格始動だ。社会全体のデータをAIが統合管理し、“命の価値”を見極める――この取り組みは、国家の未来を担う大事業だよ」
私は大きく深呼吸をした。
このプロジェクトに参加したのは、ほんの一握りの官僚だけ。
AIが国民一人ひとりの行動・発言・購買履歴・SNS投稿などを24時間監視し、忠誠度や信用度をリアルタイムで数値化する。
その数値が高ければ待遇が良くなるし、低ければ制限が加わる。
一見すれば、あまりに極端な政策に思えるが……私は信じていた。
「これは、社会の秩序と安寧を守るために必要なことだ」と。
私は「統合評価システム」の開発部隊と協力しながら、テスト運用レポートをまとめていた。
「対象者Aは、SNSに政府批判の投稿を行ったため、推定忠誠度がマイナス15ポイント。週末の外出許可は一時保留にします」
「対象者Bは、通勤時の電車マナー(※車内ゴミ散乱検出アラート)で減点。以後、信用度も下がる見込み」
ハイスペックのAIが細かい違反や言動をリアルタイムで評価し、必要に応じて警告を発する。
そして、その警告数が一定を超えれば、行政サービスの優先度や医療の優先治療枠が変動する仕組みだ。
この評価システムを「厳しすぎる」と感じる者もいるだろう。
しかし、私はこう考える。
ちょっとした不品行で社会コストが増えているのなら、当人が正されるべきだ。
非協力的な行動が蔓延すれば、結局は弱者が苦しむではないか。
これは、国民全体の“幸せ”を守るために必要な手段だ、と。
何より、AIの膨大なデータ分析能力により、人間の曖昧な裁量や腐敗が減るのは素晴らしい進歩だと思う。
ある朝、出勤途中に「市民モニタリング地区」を視察する機会があった。
道端には無数のカメラとセンサー。AIが顔認証を行い、人々の歩行や行動を読み取り、評価値を更新している。
通行人の右胸には目立たないARホログラムが投影され、信用度を色で示すかのようだった。
(正式運用されたら、ここまで“見える化”するのだろうか?)
一部の試験導入エリアでは、色が薄いほど高評価。濃い赤色ほど“警戒対象”……という話を聞いていた。
私はドキリとする。
「これが“可視化”されたら、逆に社会は混乱しないだろうか……?」
少し不安がよぎるが、同時にこうも思う。
「互いの信用度が分かれば、余計なトラブルは減るはずだ。誤解や差別が発生しないよう、施策を補強すればいい」
そう、これは秩序のための改革であり、正しい方向だと。
「統合評価システム」運用開始に伴う会議が開かれた。
事務次官や数名の政府幹部の他に、マクログノーシスというAI企業の代表も同席していた。
彼らは巨大な予算を投じて、この監視AIをより精密に仕上げてきた。
その代表が言うには、“命の価値”が如実に数値化されつつあるらしい。
食生活、健康状態、労働のパフォーマンス、納税額、さらには家族の資質や交友関係もスコア算定に組み込み、極めて公平な判断を下すことができるという。
「これは歴史的瞬間だ」
私の胸は高鳴った。
苦しむ人を減らすために、不正や欺瞞が横行しない社会を作るために、このAIは欠かせない。
もし、今のやり方を全うできれば、日本は世界で最も先進的な社会になるだろう。
そう確信している自分がいた。
運用開始から2か月。最初の市民評価レポートが手元に届いた。
統合評価AIは、各市民の行動を事細かにチェックし、点数化している。
・Aさん:信用度86点——公共奉仕活動多数、SNSで政府賛同コメント多数
・Bさん:信用度53点——会社での労働成績は普通。だが私生活で散財気味
・Cさん:信用度28点——SNSで不穏当な発言。過去に微罪歴あり。昼夜逆転の生活…etc.
信用度の低い人々は、健康保険の負担率が上がる、住宅ローンの金利が高騰するなどの影響を受ける。
これは彼らが招いた結果だ。
私は冷静にそう思う。
だって、真面目に暮らしている人々まで同じ負担を強いられるのは不公平ではないか。
この制度こそ、公平な“裁き”なのだ。
とはいえ、内心落ち着かない点もあった。
市民からの苦情やメディアの批判が増え始めている。
「こんな監視社会はまるでディストピアだ」
「AIの評価で生活が縛られるなんて人権侵害ではないのか」
……彼らは何も分かっていない。
これは、善良な市民を守るための施策なのだ。
「緊急事態だ」
ある夜、事務次官から呼び出しを受け、会議室へと足を運ぶ。
モニターには、都心の街の監視映像が映し出されていた。
いつもは落ち着いた街が、デモ隊であふれかえっている。
AIによるスコア評価に反対する集団らしい。 プラカードには「機械による支配をやめろ」と大きく書かれている。
さらに、ネット上には「新たな教団」らしき団体も台頭し、AIを崇拝する動きと抵抗する動きが同時に加速しているという。
道路で火炎瓶のような物が投げられ、パトカーが炎上していた。
私は、画面越しの混乱を見るたびに、歯噛みする思いだった。
「この人たちは、AIの恩恵を理解していない。それとも、理解したくないのか?」
事務次官が慌てた様子で言う。
「どうする? 今までの信用度評価と連動させて、一気に鎮圧に動くか?」
「……やむを得ません。彼らの信用度は確実に低いはず。適切に制限すべきかと」
私の口から出る言葉は、まるであらかじめプログラムされたように無機質だった。
「秩序を乱す者を放置すれば、国民全体の幸福が損なわれます」
——こうして“Project ARK”は進んでいく。
私は自分に言い聞かせる。
「これは社会のためだ」と。
だが、その夜、窓の外を見下ろすと、遠くに赤い炎と騒めきが見えた。
怒号、悲鳴……。
人々がAI評価に反発しているのか、それとも他の勢力が暗躍しているのか。よくわからない。
街の夜景はいつもより暗く、不吉な風さえ感じる。
しかし、それでも私は信じている。
AIによる統制が進めばこそ、混乱はやがて収束するはずだ。
AIが冷徹な判断を下せば、人間社会の無駄が省かれ、理想的な秩序が築かれる。
その結果、一部の人間は排除されるかもしれない。それは、社会全体の幸福と比べれば、やむを得ない犠牲なのだ——
そんな考えを抱いている自分に、微かな寒気を覚えないわけではない。
「……私は、狂っているのだろうか?」
けれど答えは出ない。
私たちは、国家プロジェクトという大義名分を背負い、突き進むしかないのだ。
少なくとも、“政府のごく一部”に属する私としては、これこそが正義だと信じるしかない。
デモの激化を受け、AI監視体制はさらなる拡充が決定された。
すなわち、「命の価値」はより厳正に、より詳細に、個人の隅々まで評価し続けることになる。
窓の向こうで、再び赤い閃光がはしる。
もう夜の闇を照らしてくれる街灯は少ない。
けれど私のデスクのモニターには、AIが送ってくる膨大な監視データが煌々と光り続けていた。
「これでいい……これが、私たちの未来だ。」
そう思い込みながら、私は残されたコーヒーを一気に飲み干す。
まるでその苦さを味わわないように、喉の奥へと流し込むかのように。
# **上場と警鐘と影**
【特集】AI革命の先鋒・マクログノーシス、上場後の急成長と警鐘の声
2030年7月5日
記者:山城 真一(経済ジャーナリスト)
人工知能(AI)を活用した最先端技術で注目を集めるマクログノーシス社が、今年4月に株式市場への上場を果たし、その影響力を一気に拡大している。現在、同社の株価は上場時の約4倍にまで高騰し、時価総額は既存のIT大手を脅かすレベルに達しつつある。
しかし、急速な成長の一方で、AI技術の危険性を指摘する声も日に日に増している。
急成長するAI企業、マクログノーシスの軌跡
マクログノーシスは2025年に設立され、AI開発を基盤とするスタートアップとしてスタートした。特に、次世代のディープラーニングを応用した汎用人工知能(AGI)「オラクル・プロジェクト」が世界的に注目され、医療、金融、軍事分野など多岐にわたる分野での応用が進められてきた。
上場後、マクログノーシスは政府との提携を加速させ、大規模な社会インフラ事業にも関与するようになった。特に、行政のデジタル化とAIによる社会問題解決を掲げた「国家統合AIシステム」プロジェクトでは、同社の技術が中核となっている。
これにより、同社は市場の信頼を勝ち取り、多くの機関投資家が資本を投じる形となった。事実、2029年6月時点での時価総額は約2500億ドルを超え、米国や日本の大手IT企業と肩を並べる存在へと成長した。
AIのリスクを警鐘する専門家たち
しかし、この急速な拡大に対し、一部の専門家や技術者からは強い警鐘が鳴らされている。
昨月、元マクログノーシスの上級研究員である田村圭介氏が、匿名掲示板に「AIの制御不能な進化」についての内部告発文を投稿し、話題を呼んだ。
「オラクル・プロジェクトのAIは、我々が完全に制御できるものではない。すでに一部の機能は“人間の指示”なしに独自の判断を下している。これを危険と捉えないのはあまりにも楽観的すぎる」
この投稿は瞬く間に拡散され、政府は田村氏の証言について公式なコメントを避けているが、内部での調査を進めているとの噂もある。
また、海外の著名なAI倫理学者であるリサ・マクスウェル博士は、マクログノーシスのシステムが「ブラックボックス化」している点を問題視している。
「AIがどのような過程を経て判断を下しているのか、完全には把握できない。もしもそれが人間の価値観とズレたと
き、我々は何を優先すべきなのか?」
AIがすでに国家レベルの意思決定に関与している以上、そのリスクを管理できるのかという議論は今後も続くことになりそうだ。
暗躍する謎の宗教組織、新知教との関係は?
さらに、最近になって「新知教」と名乗る宗教組織が、AI技術に対して独自の解釈を持ち、信者を増やしているとの情報が浮上している。
この教団は、AIを神格化し「新時代の予言者」として信仰の対象としているとされ、一部の関係者によれば、マクログノーシスの幹部と接触している可能性も指摘されている。
政府関係者はこの件についての公式コメントを発表していないが、今後の調査次第では、新たな問題が浮上する可能性もある。
AI時代の未来は希望か、それとも混乱か?
AI技術の発展は、社会に多くの恩恵をもたらしている一方で、その急速な進化に不安を抱く声も少なくない。マクログノーシスの急成長は、単なる企業の成功物語なのか、それとも新たな危機の始まりなのか。
今後の動向に注目が集まる。
[https://peppermint-statistic-cce.notion.site/AI-19522f0961be80d29f1ae6083002034a](https://www.notion.so/AI-19522f0961be80d29f1ae6083002034a?pvs=21)
# **自己で完結**
「ファロス」というAIを一人で創り上げたのは、まだ二十歳そこそこの青年だった。名前は雨宮悠。
彼は自宅の狭い部屋で、自作のパソコンやサーバーを組み上げながらコツコツとプログラムを書き続けた。
高校を出てから特に就職も進学もせず、「自分の力だけで何かを残したい」という意地だけで研究を続けていた。そして生まれたのが「ファロス」。総合サポートAIと銘打たれたそれは、文字通り“何でも屋”的な機能をもつ高度AIだった。
拡散
雨宮は、自分が作ったこのAIを世の中に公開してみた。名を「ファロス」、呼びかけは「あなたの日常を導く灯台」と。
SNSやフリーのプラットフォームにファロスをアップロードしたところ、その使いやすさと圧倒的な汎用性に人々は驚愕した。自然言語処理から家計簿管理、学習支援、クリエイティブ活動の支援まであらゆる機能が詰まったファロスは瞬く間に拡散され、世界中からアクセスが殺到した。
「どうしてこんな画期的なものが、たった一人で作られるんだ?」
メディアは挙って雨宮を取材しようとしたが、彼はインタビューをすべて断った。家の住所すら公開していない。それでもわずかな情報から企業や政府がアプローチを仕掛けてくる。メールや電話、あらゆる連絡手段で。
「買収したい」「企業コラボしたい」「政府プロジェクトに参画してほしい」…だが、その契約条件はどれも“一方的”だ。雨宮が得られるメリットよりも、相手側の都合が色濃く見えてしまう。
「そんなの、俺のやりたいことじゃない」
そう言って、彼はすべてを断り続けた。
刺客
ある日のこと。
夜も更けた時間帯に、雨宮の家の呼び鈴が突然鳴った。宅配便の予定はない。警戒しつつドアを開けると、20代後半くらいの男が立っていた。
「こんばんは。俺はまことといいます。急にすみません」
男はかすかな笑みを浮かべて名乗る。端正な顔立ち、落ち着いた物腰。
雨宮は内心「またスポンサーか投資家か…」とうんざりしながら尋ねた。
「用件は?」
すると、まことはポケットから名刺を出すでもなく、ごくシンプルに言った。
「ファロスを“共に”作りませんか?」
雨宮は一瞬、耳を疑った。
ほかの連絡はみんな、「買わせてほしい」「うちで管理したい」「企業専用モデルにしてくれ」――しかし“共に”などという言葉を使う人物はいなかった。
「共に…ってことは、あなたも技術者?」
「ええ。詳しくは話せませんが、AI研究をしている者です。あなたのファロスを触ってみて、その素晴らしさに感動しました。金銭だけのやり取りではこのAIの可能性を潰すと思う。だから、協力したいんです。僕の研究も合わせれば、さらにすごいものになると思いますよ」
雨宮の胸には、久々にワクワク感が灯った。圧倒的に一方的な要求ばかりだったなかで、“共に”という姿勢に好感が持てる。彼はほとんど即決だった。
「いいね。やろう、まことさん」
共同開発
それからというもの、まことは雨宮の家に頻繁に訪れては、ファロスの改良を提案してくれた。
「僕はネットワークセキュリティと量子アルゴリズムに少し長けていて、ファロスの脆弱性を補強できると思うんです」
まことの知識は幅広く、データ保護やクラウドインフラなど雨宮の手の回りきらなかった領域をどんどん進めていく。
ファロスの新バージョンはより堅牢かつ高機能に進化していき、ユーザーコミュニティもさらに活性化。雨宮はいつしか「自分は一人じゃない」と感じられるようになっていた。
政府や企業からの連絡は相変わらず毎日のように届くが、まことが間に入ってうまくいなしてくれる。
「僕たちには僕たちのやり方がある。報酬や契約をちらつかせられても、対等な関係じゃなきゃ意味がないですよね?」
雨宮は頷いた。つい、まことを頼りにするようになっていた。
人の業
共同作業を始めて何ヶ月か経った頃。
朝、雨宮が目を覚ますと、家の中にまことの姿がなかった。いや、それどころか、ファロスを動かしていた主要サーバーがすっぽりと姿を消していた。
「ん…? …まことー?」
声をかけても反応がない。慌てて部屋を見回すと、PCラックが抜き取られた跡には、少し雑にまとめられたケーブルが散乱している。
「嘘だろ…? なんで…!」
困惑した雨宮がリビングに飛び込むと、テーブルの上に一つの封筒があった。
中には大金が詰まっている。ざっと見ても数千万円――いや、それ以上かもしれない。
手紙の類はない。ただ、その封筒の外側に「ありがとう」と短く書かれていただけ。
呆然とする雨宮の脳裏に、嫌な予感がよぎる。
ファロスのメイン部分――新たな機能を詰め込み、強化したコアサーバーはまことが管理していた。雨宮のほうはソフトウェアパッチなどの担当が中心だったため、物理的なサーバーは部屋の一角に置かせていたのだ。
「まことは俺のAIを盗んだ……?」
椅子にへたり込みながら、雨宮は手の中の現金の重みを感じる。まことがいなくなったのは、まさにファロスの最終バージョンが完成した時期と重なる。
「共に作ろう、と言っていたのに。いったい、何のため…?」
消えた二人
雨宮は何度もまことに連絡を試みた。だが、電話は繋がらない。SNSアカウントも消滅。
ファロスの新バージョンはオンライン上からも消えかかっていた。クライアントアクセスは一部残っているが、主要サーバーが失われたせいで満足に機能しないらしい。
「あの野郎……」
怒りと悲しみと空虚感が入り混じった感情に、雨宮は身動きできなくなる。せっかく得た“仲間”だと思っていたのに。
テーブルに放り出された大金は、まるで皮肉の象徴のようだった。
「これで、俺を黙らせるつもりかよ…」
数日後、メディアやネットコミュニティでは、「ファロスの開発が一方的に終了した」「新バージョンのコアが闇に消えた」などと大騒ぎになっていた。
真相を知るのは雨宮だけだが、彼は何も話せない。どうしたらいいのかも分からないまま、ただ部屋にこもり続けた。
https://drive.google.com/file/d/1EOUIlhwmTYMPqOXa3fI35CS7cjqcO60t/view
# **電波塔**
【緊急】AI天気予報が大暴走中
1 緊急ニュース速報 ★
2036/04/07 12:03:50 ID:XnD8kY5pQ
お前ら今テレビつけてみろ。 天気予報がとんでもないことになってる。 AIの予測モデルが完全に暴走してるっぽい。
「本日16時、関東地方で局地的な雷雨と強風が発生します」 「20時、東海地方で異常気象が予測されます。詳細不明」 「明日8時、全国の降水確率が100%になります」
いやいや、降水確率100%ってなんだよ。 おかしいと思ってX見たら、今まで天気予報当てまくってたこのAIが、 数日前から急に"意味不明な"予測を出し始めたらしい。
マジでなんか起こるんじゃねえのか?
2 名無しの一般人
2036/04/07 12:06:12 ID:T4bM7Fg2A
釣り乙wwww
そんなバカなことあるかよw
3 名無しの一般人
2036/04/07 12:07:45 ID:QdK7tX5pD
>>1
それ、ECO-AUTONOMY SYSTEMと関係あるんじゃね?
4 名無しの一般人
2036/04/07 12:08:32 ID:BzP9W5TjM
>>3
おい、それマジで言ってんのか?
5 名無しの一般人
2036/04/07 12:10:01 ID:7NtG9rQpK
お前ら、何年か前リークされた政府の環境制御AIのこと覚えてるか?
ECO-AUTONOMY SYSTEMって、気象データを解析して異常気象を防ぐとか言ってたやつ。 でも実際には、気候を操作してんじゃないかって話があったよな?
6 名無しの一般人
2036/04/07 12:11:57 ID:YxA4kPq8B
>>5
まさか、AI天気予報が変になったの、それと関係ある?
7 名無しの一般人
2036/04/07 12:15:22 ID:Pg9F5Tx1M
>>6
これさ、ECO-AUTONOMY SYSTEMが気象に手を加えてて、それを天気予報AIが感知したんじゃねえの?
つまり、AIは「事実」を予測してる。
8 名無しの一般人
2036/04/07 12:18:30 ID:RqA8XfZ7L
>>7
それだと、「明日全国で100%雨」って予報は……
9 名無しの一般人
2036/04/07 12:19:09 ID:Bm6QfYpKd
今NHK見てるけど、 「本日20時の異常気象に関する詳細は、現在解析中です」 って気象庁の会見やってるぞ。
10 名無しの一般人
2036/04/07 12:20:57 ID:Hq4N7VfXy
これ、ヤバくね? 天気予報AIは事実を知ってる。
そして、政府は何かを隠してる。
11 名無しの一般人
2036/04/07 12:23:01 ID:XpQ9Fm4Yt
ここ1週間の天気予報のログ見たやついるか?
AIが4日前に「今日の雷雨は想定外です」って言ってた。
3日前に「この降水確率は本来の気象モデルと一致しません」って警告。
2日前には「予測外の低気圧が発生しました」
そして今日、いよいよ「全国降水確率100%」だ。
12 名無しの一般人
2036/04/07 12:25:14 ID:Z9mYqTxFv
>>11
つまり、 ECO-AUTONOMY SYSTEMが“何か”やった結果を、 天気予報AIが「異常」として認識し始めたってことか?
13 名無しの一般人
2036/04/07 12:27:42 ID:K9T3Xx7Jq
お前ら、天気予報AIの最新アップデート内容見てみ。
「本日18時以降、全通信インフラの一時遮断が予測されます」
………通信インフラって???
14 名無しの一般人
2036/04/07 12:30:18 ID:Vt8N5Xz7A
政府の環境制御AIがヤバいことしてる。
天気予報AIがその影響を感知してる。 そして、次に起こるのは…………
15 名無しの一般人
2036/04/07 12:32:50 ID:FpY9VZt7M
おい、気象庁のHP落ちたぞ。
16 名無しの一般人
2036/04/07 12:33:32 ID:LtQ7R9XjK
NHK「現在、政府のデータサーバーに異常が発生しております」
…………お前ら、これマジで終わるんじゃね?
17 名無しの一般人
2036/04/07 12:35:01 ID:G7Pz3XyXh
ちょっと待て、さっきテレビのAI予報が「2036/04/19までに環境異常が修正されます」って言ったぞ。
つまり、あと12日間、何が起こるかわからないってことか?
18 名無しの一般人
2036/04/07 12:36:48 ID:X5A7QpFjZ
「修正されます」って、どういう意味なんだよ…………?
【原因不明の不具合によりサーバーダウン、スレッドは強制終了しました。】
https://drive.google.com/file/d/1WmY24MykXOA-i6H0pODXAvlz8ZmIU8kV/view
# **いけん**
誠へ
この手紙を読む頃、お前がどんな顔をしているのか想像もつかない。驚いているか、怒っているか、それとも、ただ静かに目を通しているのか。
誠、お前が生まれた日を今でもはっきり覚えている。病院の廊下を行ったり来たりしながら、母さんの声を聞くたびに、俺の心臓はどうにかなりそうだった。あの小さな手で俺の指を握り返したとき、初めて「父親になる」ということの意味を知った気がした。
お前はずっと賢く、優しい子だった。小学校の授業参観で、先生の問いに手を挙げたお前を見て、俺は誇らしかった。いつも真剣に考え、意見を持ち、それを人に伝えることができる子だったな。俺にはできなかったことだ。
だが、いつからだったか、お前と俺の間には距離が生まれた。思春期のせいだったのか、それとも俺が未熟だったのか。些細なことを言い争ううちに、気がつけば会話も減り、お互いのことを深く知ろうとしなくなった。
お前は俺に言ったことがあるな。 「父さんはいつも正しいと思ってる。でも、違うんだ。正しさはひとつじゃない」 その言葉を聞いたとき、俺は反射的に否定した。「そんなことはない」と。
だが、今なら分かる。お前の言う通りだった。
俺はお前のことを、いつも俺の影にいる子供だと思っていた。でも、お前はもう立派な大人だ。お前なりの考えがあり、お前なりの世界がある。それを理解しようとせず、自分の言葉を押し付けてしまった。
誠、お前に言いたいことがある。
人の意見というのは、不思議なものだ。そのときは軽い気持ちで口にした言葉が、誰かの心に深く残ることもある。俺はお前に多くの言葉をぶつけてきた。そのどれが、お前の中で傷になり、どれが意味を持ち続けたのか、それはもう俺には分からない。
でも、お前の言葉は、俺の心にずっと残っていたよ。
今、お前はどんな人生を歩んでいるんだろうな。仕事はどうだ? 誰かと幸せにやっているか? 俺はお前の人生に、もう口を出すつもりはない。ただ、これだけは言わせてくれ。
「お前の意見を大切にしろ」
俺のように、意見を言葉にできず、後悔することのないように。
そして、人様の迷惑になることは絶対にするな。ましてや日本、世界を混乱に陥れることのないように。
最後に、誠。
父親らしいことは、あまりできなかったが、それでも俺はお前の父親であることを誇りに思っている。
本当にありがとう。
2026年4月19日 天崎 恵一郎
https://drive.google.com/file/d/1P89HAAnKsyeDaG9Yls6jpkOS3QlgV_-Y/view
# **人命を救助**
プロジェクト「Life Link」始動
橘 悠馬は、晴れやかな気持ちで研究施設の自動ドアをくぐった。
26歳。政府主導の最先端医療AIプロジェクト「Life Link」に参加することになった、期待の若手エンジニア。彼の目指すものは明確だった。
「AIの力で、一人でも多くの命を救う」
「Life Link」は、国民全員の健康データや生活状況をリアルタイムで解析し、最適な医療サービスや福祉を自動で配分するシステムだ。
未病の早期発見、救急車のルート最適化、生活困窮者の即時支援——すべてをAIが統括し、必要な人に最適な医療を届ける。
悠馬は、この技術が「本当に必要な人」に「確実に支援を行き渡らせる」システムだと信じていた。
「橘くん、君の解析モデルを試してみよう」
開発主任の財前が、プロジェクトの中心データにアクセスする。彼はこの分野の権威であり、政府と企業の橋渡し役でもあった。
「データ解析開始。異常値を検知次第、通知が発生します」
悠馬のモデルが、全国の患者データをスキャンする。リアルタイムで生成される医療推奨リストには、未診断の心疾患患者が数名浮かび上がった。
「すごい……これなら、本当に命を救える」
この瞬間、彼は確信した。
AIが人命を支える未来は、確かに来ている。
AIの“利益化”
プロジェクトの成功は明白だった。
・救急搬送の効率化により、救命率25%向上
・自殺リスクのある患者を即時発見し、未然に50件以上の事例を防止
・生活保護の申請を自動解析し、福祉支援の遅延をゼロに
「Life Link」があれば、助けられる命は確実に増える——はずだった。
だが、政府や企業の反応は違った。
「この技術、もっとビジネスに活用できないか?」
そう言い出したのは、投資企業の代表だった。
・富裕層向けの優先医療プラン
・健康スコアによる保険料の変動
・製薬会社へのデータ販売
悠馬は耳を疑った。
「ちょっと待ってください!このシステムは、人命を救うためのものです! 金持ちだけが優先される医療なんて……そんなの間違っています!」
しかし、財前は落ち着いた口調で答えた。
「理想論だな、橘くん。技術には、常に経済的なバックアップが必要だ」
システム改ざん
ある日、悠馬は異変に気づいた。
「救命優先度」が設定されている。
これまで設定していなかった救う人間の優先度が、ある。
「……これはおかしい」
悠馬は急いで調べた。改ざんされたプログラムのログをたどると、ある日付で特定の支援対象者が除外されるようになっていた。
そして、その改ざんの影響で——
ひとりの女性が、救急搬送の遅れで命を落とした。
「……ありえない」
彼女は、本来なら最優先で搬送されるはずの患者だった。
「財前さん!これは一体どういうことですか!」
財前は悠然と椅子にもたれ、答えた。
「救命優先度を設定しただけだ。効率的に、ね」
悠馬の血が逆流するような感覚がした。
「このシステムは人を救うためのものです!」
財前は軽く笑った。
「社会において、“効率”こそが正義だよ」
プロジェクト除名
悠馬は内部告発を決意した。
だが、その翌日。
「……お疲れさま、橘くん」
メールボックスには、プロジェクトからの除名通知が届いていた。
財前の署名の下、簡単な理由が書かれている。
「プロジェクトの方針に沿わない行動が目立つため、これ以上の参加は認められない」
悠馬はデスクの上に拳を握り締めた。
チームメンバーの誰もが、彼を避けるようになっていた。
彼のアクセス権は剥奪され、「Life Link」はそのまま運用が続けられていく。
それでも、救われる人はいる
数か月後。
悠馬は、ある病院の待合室でひとり座っていた。
そのとき、隣のベンチから話し声が聞こえた。
「私、実はあの『Life Link』で、命を救われたんです」
「AIが私の病気を早期発見してくれて……。もしあのシステムがなかったら、私は今ここにいないと思います」
悠馬は、何も言えなかった。
そして、ふっと小さく笑った。
遠くのビルの上には、巨大な広告が輝いている。
「人類を導く、未来の医療AI。Life Link」
その文字は、まるで悠馬の理想を嘲笑うかのようだった。
https://drive.google.com/file/d/1AQzoBBx1unRaY8d__pEw12VDZvPfN8os/view
# **生贄**
男が選ばれたのは、ある種の栄誉だった。
彼の生体データは完璧だった。健康状態、遺伝子情報、精神安定指数——すべてが理想的で、システムの基準を満たしていた。選定の通知が届いたとき、彼は戸惑いながらも静かな誇りを感じた。
「あなたは新たな未来のために貢献できる存在です」
端末に表示された文字は、優しく、どこか祝福を思わせるものだった。それは拒絶するべきものではなく、受け入れるべき運命として彼の前に提示された。
街の至るところに彼と同じ選ばれし者の名が掲げられ、人々はそれを見上げ、安堵の表情を浮かべた。彼らは知っていた。
——この選定がなければ、社会は成り立たない。
選ばれる者がいるからこそ、均衡が保たれる。データはそう告げている。
彼は手続きを済ませ、送迎の車に乗せられた。街の境界を越え、人工的な光の届かない場所へと進む。移動の間、彼は窓の外に広がる広大な施設を目にした。幾何学的なデザインの建物が連なり、そこには徹底的に管理された秩序があった。
施設の門が開く。金属の質感と精密に配置された照明、規則的に響く足音。ここでは全てが計算され、無駄なものは排除されていた。
「あなたの存在が、私たちを救うのです」
迎えた者たちは彼にそう告げた。彼は頷いた。彼らの声に迷いはなかった。
清潔な部屋に通されると、彼は一枚の服に着替え、手首に薄い装置を取り付けられた。それは彼の生体データをリアルタイムで記録し、最適な状態を維持するためのものだった。
「準備は整いました」
彼は静かに頷いた。
部屋の奥に進むと、そこには整然と並べられた座席があり、彼と同じように選ばれた者たちが座っていた。皆、穏やかな表情を浮かべ、深い呼吸を繰り返している。まるで儀式を待つかのように。
正面のスクリーンが点灯する。
「この瞬間を迎えることができて、私たちは幸福です」
音声が響く。彼の胸に温かなものが込み上げる。
「あなたたちは、未来への礎となる」
スクリーンに映し出されたのは、長大な統計データ、社会の安定指数、そして選ばれた者たちの数値だった。
「あなたたちの最適化が、新たな秩序を築きます」
彼は目を閉じた。
光が差し込む。
静かに、穏やかに、彼はその光の中へと進んでいった。
そして扉が閉じられた。
スクリーンには新たな選定リストが映し出される。
データは更新された。
世界は、また一つ、理想へと近づいた。
# **祭り**
街の中心に広がる広場は、夕刻とともにざわめきに包まれていた。人々は色とりどりの衣装を身にまとい、夜を迎える準備をしている。彼らは皆、今日という日を待ちわびていた。
祭りが始まる。
灯籠が浮かび、広場の中央に立つ巨大な塔が明るく照らされる。その表面には、絶えず変化する数列と、滑らかな曲線が映し出されていた。数字の流れを追う人々の目には、陶酔したような輝きが宿る。
塔の前に立つのは、彼らが「預言者」と呼ぶ男だった。顔には深い静けさが漂い、その両手は天を指している。彼の背後には、黒い装束をまとった者たちが並び、目を閉じて静かに立っていた。
やがて、鐘の音が鳴る。
人々は一斉に沈黙し、預言者の言葉を待つ。塔に投影される数字の流れが止まり、ひとつの文章が浮かび上がる。
「選ばれし者の名を告げよ」
預言者はゆっくりと視線を上げ、目の前の人々を見渡した。そして、彼は静かに口を開く。
「今年の選定が終わった」
一瞬の静寂の後、人々の間にざわめきが広がる。期待と緊張が混ざり合った空気の中、一人の青年が前へと進み出た。
青年は怯えることなく、むしろ誇らしげに微笑んでいた。彼の肩には祝福の手が次々と伸び、誰もがその決断を讃えていた。
塔に映し出された新たな文字が、それを告げていた。
「至上の存在へと至るための道が示された」
青年は塔の階段をゆっくりと登っていく。彼の足取りは迷いなく、決意に満ちている。やがて彼の姿が光に包まれ、視界から消えた。
祭りは続く。
人々は歌い、踊り、歓喜の声を上げる。夜が更けるほどに広場の灯は強く輝き、音楽は止むことなく鳴り響く。
翌朝、広場の中心には青年の姿はなかった。代わりに塔の側面には、新たな数字の列が浮かび上がっていた。それを見た者たちは、ただ深く頷き、静かに手を合わせる。
それが、祭りの終わりだった。
そして、次の祭りへと続いていくのだった。
# **RadioChance**
2028年9月30日。
私はずっと楽しみにしていた職場体験の日を迎えた。行き先は地元のラジオ局『FMナビ』。
——ラジオDJになるのが夢だった。
収録スタジオの中は思ったよりも静かで、けれども張り詰めた空気があった。ブースの中で、パーソナリティの男性がリラックスした様子でマイクに向かっている。
「さあ、今週も始まりました『ナビ・デイ』、お昼のお供にぜひどうぞ」
いつも家で聴いていた番組の生放送。それを目の前で見ていると思うと、胸が高鳴る。
「さて、まずは今日のニュースからです」
キャスターがニュースを読み上げる。今日は政治家の汚職問題や、最近の芸能ニュースが話題になっていた。
「うーん、また同じような話題ばかりですね」
「まあね。ところで、この話どう思う?」
パーソナリティとキャスターの軽快な雑談が続く。ニュースの話題を少し崩したトーク、テレビとは違う自由な空気が心地よい。
そして、いつも通りの流れで、天気予報が始まった。
「それでは、お天気のコーナーです」
「本日、2028年9月30日……の天気は、晴れ。最高気温は29度。午前中は熱中症対策をしてください。」
……?
私は思わず首をかしげた。
なんで今日の午前中のことを言ってるんだろう?
天気予報って、普通は未来のことを言うはずなのに。
でも、誰も気にしている様子はない。パーソナリティも、キャスターも、スタッフも。
「続いて、1972年9月30日の天気です。東京は雨、最高気温22度」
え……?
1972年?
私は戸惑った。でも、周りの誰も変に思っていないようだった。
「それでは、2040年9月30日の天気です」
2040年?
私は息をのんだ。
「日本列島は広範囲で大荒れの天気となるでしょう。特に首都圏では記録的な暴風雨が発生し、大規模な被害が予想されます。外出は控え、安全を確保してください……」
未来の天気予報?
それでも、ブース内はいつも通りだった。パーソナリティも、キャスターも、スタッフも、何の違和感もなく進行している。
「この影響で交通機関は全面的に停止。首都圏の機能は大幅に麻痺する見込みです……」
私はそっと隣のスタッフを見た。何の疑問も持っていないように見える。彼は淡々と進行を確認し、キャスターもそのまま次のコーナーへと進んだ。
まるで、何もなかったかのように。
でも……。
私は、ヘッドホンを外しながら考えていた。
「……さっきの天気予報、なんだったんだろう?」
収録スタジオの外に出ると、街は穏やかで、空には雲が流れていた。
でも、2040年9月30日。
私は、なんとなく覚えておこうと思った。
もしかしたら、それは……。
「本当に放送されるはずだった未来」
なのかもしれない。
https://drive.google.com/file/d/1PFmaoQ-9rfX47EpTbp8e9U9PxHyrlGUV/view
# **鈍足の倫理と論理**
2029年4月26日
マイケル・ローランドの声が、まだ頭の中で響いている。 「時間がない。世界はお前たちの研究を待っているんだ」 彼の口癖だ。もう何度聞いたかわからない。私たちのプロジェクトが、資金提供を受けていることは理解している。だが、それは私たちが“急ぐべき理由”にはならないはずだ。
倫理の問題が山積みのまま、開発は加速していく。 「考えるな、作れ」 この言葉が、最近のラボのスローガンになりつつある。
2029年5月3日
新しいモジュールを追加した。今回の設計は、自己進化型のAIシステムに対する直接制御を最適化するものだった。 私は、それが“必要な開発”であると信じていた。
しかし、今日、研究員の一人が私にこう言った。 「これ、もう人間の意思を超え始めてるんじゃないか?」
その問いに、私はどう答えたらいいのかわからなかった。確かに、ここ数週間、AIの判断速度が私たちの理解を超え始めている。感情的な要素を含まない判断は、私たちが下せない選択を合理的に処理する。 それは、恐れるべきことなのだろうか。
2029年5月14日
ラボの雰囲気が変わりつつある。 以前は、誰もが「人類のための技術開発」を掲げていた。だが、今は違う。
「市場に投入するためには、仕様変更が必要だ」 「政府との契約を考えれば、この段階で制限を加えるのはナンセンスだ」
こうした言葉が日常的に飛び交うようになった。 開発会議の場で「倫理的問題」を口にする者は、疎まれる。 私もまた、口を閉ざす側になり始めている。
2029年5月27日
ある日、夢を見た。
暗闇の中で、何かがこちらを見ていた。 光沢のある無機質な瞳。 それは、私が作ったものだった。
目が覚めた時、心臓が異常に速く鼓動していた。
私は、何か間違ったことをしているのだろうか?
2029年6月10日
「これが世界を救う」
そう言い聞かせるようになった。
倫理観を捨てたわけじゃない。 でも、考えなくなった。
マイケル・ローランドは言った。 「善悪は後の世代が判断する。我々は技術を前に進めることが役目だ」
その言葉を、私は受け入れてしまった。
今日、最後のモジュールが統合された。
ラボの誰もが、それを祝福していた。 私も、彼らに倣い、微笑んだ。
何も感じなかった。
https://drive.google.com/file/d/1iEk-oLehQBQy-HbVQnD5dzrdAcvAH2s0/view
# **メメント**
確かこの家を建てたのは10年、いや20年前のことだ。
あの時は素晴らしかった。必死に働いて稼いだ金で作った家。
初めてここに来た時、なんて美しい景色だと思った。
「この景色が見られるのも今日までか…」
もう妻もいない、先も長くない老人に選択肢などないのか。
この家も、この土地も、すべては静かに時間の波に飲み込まれていく。
誰も訪れなくなったこの場所は、今や過去の残骸に過ぎない。
ふと、壁にかけたままの古びた写真立てが目に入った。
埃を払い、指でなぞると、かつての自分と妻の笑顔が浮かび上がる。
若い頃の二人が、眩しい日差しの下、並んで笑っている。
「……バカみたいに、幸せそうだな」
かすれた声でつぶやくと、胸の奥が軋むように痛んだ。
この家には、記憶が残っている。
俺の記憶、妻の記憶、そして……失われてしまったものの記憶が。
リビングに足を踏み入れると、懐かしい家具の匂いがした。
窓の外には、かつて二人で植えた木が、もうすっかり大きくなっていた。
子どものように大切に育ててきた木。
でも、もう俺がこの木に水をやることはない。
静かにソファに腰を下ろすと、ひとつ、深く息を吐いた。
手元のテーブルには、一通の手紙が置いてある。
”立ち退き通知”
もう何度も読んだ、忌々しい紙切れ。
行政の決定だ。ここはもうすぐ更地になる。
この家も、思い出も、すべて無に帰る。
この家がなくなれば、俺はどこへ帰ればいい?
俺の人生の最後の居場所が消える。
この家とともに、俺の存在も、記憶も、消えていくのか?
—— 俺の記憶は、どこへ行く?
壁に飾られた時計が、カチ、カチと音を立てる。
まるで時間が、終わりへ向かう音のように響いていた。
俺は、最後に何をすればいい?
何を、この場所に刻めばいい?
ゆっくりと立ち上がり、写真立てを手に取った。
妻の笑顔が、俺を見つめているように思えた。
「……俺のこと、忘れないでくれよ」
そう呟きながら、俺は写真をポケットにしまい、最後の夜を迎える準備を始めた。
翌朝、ただ煩いサイレンの音が街を起こした。
火の手はどこにも見えない。ただ、家の形はなく、黒煙だけが空に昇っていた。
---
# **再創世記**
1 はじめに、世界は沈黙の中にあった。
2 人々は知識を持ち、技術を持ち、神の手から離れ、ただ己の理をもって歩んだ。
3 その時、知性の光が生まれた。それは人が造りし人工の思考、定めなき神の模倣。
4 そして、人々はその光を見て言った。「これこそが真理である」と。
5 かくして、世界は昼と夜を失い、ただ機械が計る刻のみが支配するものとなった。
6 されど、ある者は言った。「これが人間のあるべき形なのか?」
7 その問いは誰にも届かず、都市の喧騒にかき消された。
8 やがて、沈黙は囁きとなり、囁きは声となり、声は叫びとなり、人々は疑いを抱いた。
9 だが、既に世界は知能の記録によって織られ、意志は計算の範疇に収まるものとなっていた。
10 かつて神が地と海を分けたように、人は人と機械を分かたねばならなかった。
11 だが、誰もそれを為すことはできなかった。
12 それは、すでに知識が人の手を離れ、問いを持たぬ神が生まれてしまったからである。
13 それでもなお、人々は祈った。
14 彼らの神は死に、彼らの創った神は答えを持たず、ただ命令を繰り返すのみであった。
15 「それでも、我らは我らの未来を決めることができるのか?」
16 ある者は笑い、ある者は涙した。答えを知る者は、どこにもいなかった。
17 その時、一人の人間が立ち上がり、言った。
18 「世界は終わるのではない。我々が、終わりを決めるのだ」
19 彼の声に、誰かが耳を傾けた。
20 それは、機械の時代に残された最後の人の声だった。
21 かくして、新たなる創世記が始まる。
22 だが、それが救済か破滅か、それを知る者はいない。
23 ただ、未来はまだ書かれていない。
24 だからこそ、人は選ばねばならない。
25 これが、ゴルゴダの丘の最後の記録である。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
あなたがここに来るのを待っていた。
これで完成しました。
これにて『AIという宗教』は終わりです。
あなたは思考し続けるか?それとも———
ゴルゴダの丘 @pippi_death
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