第2話 departure 旅立ち 2
目を覚ました時、日は既に高かった。窓から差し込んでくる光にKは目を細め傍らを見たが、さくらという名の女の姿はなかった。立ち上がって手洗い場を確かめ、念のため窓の外、廊下まで確かめたが女はどこにもいなかった。
惜しむ気持ちはあったが、気を取り直すと洗い場に行くと身体を洗った。女の残り香がついているのではないかと鼻をひくつかせたが、そんなものは
身体を洗い終え、部屋を出て食堂 と向かうと、既にイシはその一角で飯を食い終わっていた。片手を挙げKを招くと同時に、給仕係にも合図をしたので、Kが席に着くなりその前に朝飯を載せた盆が置かれた。川魚の焼き魚に炒り卵、野菜の浸しに味噌汁・麦の入った飯という、簡素だがたっぷりの量が盆の上に置かれていた。
昨夜のことのせいか、湧いてきた猛烈な食欲のままに飯を平らげ始めたKであったが、
「昨夜はどうしたのだ。せっかく飯を用意させたのに・・・。疲れていたのか」
というイシの問いに
「ええ」
目を伏せると、箸を止めた。出会ったばかりとの女との情事を知られれば
「お前が気に入ったようだから、女達も呼んで一緒に飯を食ったのに。寝てしまったようだから女達に迎えに行かせたのだがな。幾ら呼んでも大きな
「女達・・・?」
Kは鋭い目でイシを見た。
「ああ、あの宿の女達だ。梅花とさくらという・・・」
イシの反応は鈍かった。善良そうな目でKを見つめている。
「女達が一緒だったのですか?」
Kは目を伏せた。
「そうだ、よほど疲れていたのであろう。仕方なしに女達は帰した」
「ほんとうに、それはさくらと・・・、その、梅花という女たちでしたか?」
その問いにイシはにやりとした。
「ははは、やはりお前が気に入ったのはさくらという方の女か。あの二人は似ているようで、話してみるとだいぶに違う。梅花という女は陽気で開けっぴろげだが、さくらという女の方は奥ゆかしい」
奥ゆかしい・・・。昨日の女のようすを思い浮かべるとその言葉は相応しいものとは思えなかった。女はKと繋がったまま身体を離そうともしなかった。そして時折、堪えきれないような愉悦の声をあげ、Kを更に求めた。しかし、その時彼女たちはイシと一緒であったのではないか。では・・・あれはさくら、という女ではなかったのだろうか?いや、もしやイシに返された後で、さくらは忍んでKの部屋にやってきたのであろうか?
突然食欲を失ったかのように黙ったまま、味噌汁を眺めているKにイシは奇異だと思ったのか、
「どうした?あやかしにでもあったような顔をしているぞ」
と尋ねた。
「あやかし?」
「そうか・・・」
イシは破顔した。
「あやかしを知らぬか。そうだな、修道院ではそんなことは教えまい。だが、現実の世界にはあやかし、というものがおるともいう。取り分けここらには多い、と聞く」
「それはどんなものなのですか」
「あやかし、か。実はおれは見たことはない。だから良く知っているわけではないが、残留思念というものらしい」
「残留思念・・・」
「ああ。残留思念というのは強い思いが残るということらしい。その残った思いが姿を見せる。残った思いと、見る方の感受性がうまくあった時に姿が現われるというのだ。思いが残るというと、そんなこともあるような気がするが・・・残留思念といわれるとどこか味気ないものだ」
イシはため息をついた。彼には使う言葉というものによほど思い入れがあるらしい。
「そんなものが・・・実際にあるのですか」
だとするなら、あの女はさくらの、その残留思念というものだったのか?いや、あの女とは出会ったばかりだ。互いに「強い」思いを抱くほどのことはない。
「さあな。いや、実はそんなものはないという者もいるが、信じている者も多い。実際、俺の知り合いには見たという者がいる」
イシは考え続けているKを不審そうに見ながら焼き魚の身を
「そうですか。でも、イシさんは見たことはないのですよね」
「そうだな・・・俺自身があやかしのような者だからな」
「・・・どういうことですか」
「前にも言っただろう、俺の先祖はこの国とは別の所に住んでいて、滅んだと」
「ああ、ええ」
「先祖が滅んだのに、俺はいる。変だと思わんか?」
「・・・」
そういえば、その話を聞いたとき妙だ、と思ったのだけど深入りをしなかった。なぜだか深入りしてはいけない話題のような気が直感的にしたのだが、イシの方から話すならば問題あるまい。さくらのことはもう少し詳しく聞きたかったが、イシの話を聞いてからでもよかろう。
それにあやかしについてももう少し知りたい。そう思ってイシの顔を見つめると、イシは解した魚の身を、こんどは飯に混ぜ込んで掻き込み、
「俺は母も父もいない。いや・・・お前もいない、といいたいのだろうが、お前には実際には父も母もいるのだ。だがこの世の仕組みとして、父や母と離れて育てられている、そういうことだ。だが、俺には本当にいないのだ。何といえば良いのだろうかな、俺は技術的に生れた、そうした人間らしい」
「技術的?」
その言葉は残留思念と言う言葉よりも一層、奇異に耳に響いた。
「そうだ。俺にはその仕組みは分らない。だが、俺の身体は死んだ後も残っていて、そこから俺は再生された、そういうことだ」
Kにはそれがどういうことなのか良く分らなかった。いや・・・というより、人間がどうやって産まれるのか、というのは概念的にしか知らなかった。昨日、自分と女が行った行為・・・それによって女に子供が宿され産まれる、そういうことだとは知っているがそうでない産まれ方もあるのだ、という感想しか浮かばなかった。
植物も種から産まれる者も居れば接ぎ木で産まれるものもある、そういうことなのだろうか。それにしてもそんなことができる技術などと言うものがあるのだろうか?
「昔は、子供は親によって育てられた。だから、親のいない子は生きていけない、そういう時代だったのだろう。もし俺がそういう時代に産まれていればずいぶんと切ない思いをしたかも知れないが」
「そうですね」
「だが、妙だとは思わないか?なぜ、敢て滅んだ俺のような民族がもう一度生を与えられるようなことになったのか?そのような技術が本当にあるのだとしたら、もっとこの世は豊かであるのではないか?」
「・・・。たしかに」
「俺はそれを知りたい。だが俺にはそういう知識を学ぶ場を与えられていない。だが、お前には」
イシは妙な目つきでKを見た。
「・・・」
「おそらくは、そういう場が与えられる。もしそれを知る事ができて、また会うことがあったなら、俺がこの世に生まれ変わったわけを教えてくれ」
「もし・・・僕が知ることができたなら、はい」
Kの言葉にイシは頷いた。
「あやかし、についてもう少し知りたいです」
そのかわり、とでもいうようにKはイシに尋ねた。
「あやかし、か。ううむ」
イシは唸った。
「俺も見たわけではない。あやかし、という話自体があやかしのようなものなのだ」
「では、残留思念とは?ほんとうにあるのですか?」
「強い思い、というのはあるだろう。だが、それが実態として残るのかは分からない。むしろ、そういう思いというものがあることを知っている人間が、思いを受け継ぐということなのではないかな」
「そうなのでしょうか?」
そう言いつつ、Kは修道院で見た夢のことを思い出した。ドナルドが死ぬ瞬間、そんな思いをしたのが自分の夢に現われたのではないだろうか、と考えた。
「どうかな。俺は見たことがないから・・・」
「ですね」
いくら何でも昨日の女があやかしである筈はない。先ほどのイシの話にしたって、女が強い性欲を思念として残すことはないだろう。それに・・・確かにあれは現実であった。女の柔らかで滑らかな肌、細かな汗に濡れたしっとりとした質感、Kを包んだ温かなぬめり、その喉から漏れた喘ぎ、身体から発する香しい匂い、全てはKの肌が、耳が、鼻腔が覚えている。さくらの事が喉まで出かかったが、
「まあ、いいから早く喰え」
素っ気なくイシはKに命じた。イシの前の皿は空っぽになっている。Kは慌てて箸を動かし始めた。
朝食を終えたKにイシは
「さあ、準備しろ。俺はここで待っている」
と告げた。
「もう・・・立つのですか?」
Kの問いに
「当り前だろう。ここは目的の地ではない」
とイシはあっさりと答えた。
「ですが・・・」
「なんだ?」
いえ、と答え視線を食堂に巡らしたKを見て、
「ああ、女達か。あれらはいない。よろしく伝えてください、と言っていたよ」
残念だったな、と同情するような視線を向けてはくれたが出立の意志は固いようで、背に既に荷物を負ったイシの姿を見てKはそれ以上何も言えなかった。
後ろ髪を引かれる思いで立った宿をいくら振り向いてもさくらの姿はそこにない。あの女が見せた情熱を考えれば、Kが朝、立つのを知っていながら見送りにも来ないというのは合点がいかないように思えた。
つい、遅れがちなKの歩みを悟って歩を緩めたイシは振返ると、
「そんなに気になるか、たかだか一度会った女に・・・」
と呆れたような声を上げた。
「あ、いや」
一度会っただけではない。肌を合わせ、情を交わした女だからこそだと思うがそれをイシに言うのは憚られ、Kは
「あの女達は、私たちが朝早く立つのを知っていたのですか?」
とだけ尋ねた。イシは更に呆れたような顔でKを見つめたが、
「ああ、確かに朝早く出ると伝えた。その時に、お前によろしく、と答えたのだからな」
と言った。
「そうですか」
Kはがっかりしたが、それを悟られないように、
「わかりました。これからどれほど歩くのですか?」
とイシに尋ねた。
「暫くは尾根伝い、と言ってもそれほど険しい道ではない。そこからはずっと平野だ。俺とお前の脚なら今日中に辿り着けるだろう」
と答えた。
女と話をするのも、交じり合うのも初めての経験だった。その二つがあっというまに訪れ、あっという間に飛び去っていった。
とはいえ、Kにはそれが異常なできごととは思えない。自分が男であり、世の中に女というものがいることは幼いときに知り、いつかは出会い、その出会いが今回のようなことを齎すというのは産まれたとき・・・いや産まれる前から知っていたように思えた。生殖というのは太古からの記憶である。
だが、その女が情を交わすとどういう行動にでるのか、ということは太古の記憶には書かれていない。女というものは情を交わすと、消える・・・そう言うものなのだろうか、と
「ひとつ聞いても良いですか?」
Kは歩きながら、イシに尋ねた。
「なんだ?}
「どうして歩いているのは男ばかりなのですか?」
「ああ・・・」
イシは首を傾げた。
「それは、俺も良く分らない。俺の記憶では、昔はそんなことはなかったのだが」
「それほど険しくない」と言った割には道は昇降が激しく、時には身が竦むほどの崖下を見ながら進むことがあった。何度かそうした思いをしつつ、息を切らしてイシの後ろをついていくと、茂みをかき分けたイシが後ろ手を振ってKを招いた。
「見てみろ」
そう言われ、右手を引っ張り上げられたKはいきなり茂みから開けた場所へと引きずり出された。
そこは今まで登ったことのないほどの高みだった。眼下には緩やかに谷が見下ろせ、そこを流れていく川が大地を拡げるようにして平地へと続いていくのが見えた。その川の両側には畑や田と
「あっちを見ろ」
そう言ったイシが指したのは登ってきた方向で、視界はそちらにも開けている。そこには今まで見たことのない、美しい形の山が一つ聳え立っていた。山頂を白く彩っているのは何だろう?と尋ねると、
「あれは雪だ」
「ユキ?」
「そうだ。冷たい場所では雨は形を変えて雪というものになる」
「・・・」
「驚いたか」
「見たことがありませんでした」
「そうか。だが、やがて見ることになる。ここらでも冬になれば雪が降る」
「そうなのですか」
「ああ」
少し休もう、とイシは言い、小さな畑ほどの広さの頂に幾つか顔を覗かせている岩の一つに腰を下ろした。
「女たちが飯を
そう言うとイシは背負っていた荷物から包みを二つ取り出し、一つをKに手渡した。包みを広げて見るとそこには、形の良い握り飯が二つ入っていた。
「女と話したのは初めてであろう、いや、子供の時は別としてだが・・・」
「そう・・・ですね」
「みな、そうだ。女たちもそう思っている。18の歳まではみな別れ別れに暮らしているからな」
「・・・」
「昔は、そんなことはなかった。男と女は生れたときからずっと一緒に暮らしていたのだ」
「そうなのですか?」
Kは目を見開いた。イシはKよりずっと年上だが、それでも30を少し超えた位にしか見えなかった。
「昔・・・といってもとんでもなく昔の話、俺が前世を生きていた頃の話だ」
「それは・・・いつごろ?」
イシはKを見つめると柔らかく首を振った。
「それは俺には分らない。だがお前はやがて知る事になろう」
「なぜですか?」
「これからお前を連れて行く所はそういうことを知る場所だと聞いている」
「そうですか」
そうとしか答えようが無かった。
「女たちは良いものだな」
イシは腰を
「ええ」
「だが、それは別れ別れに暮らしていたからこそそう思うのかもしれない」
Kは黙ってイシを仰ぎ見た。
「男と女が産まれてから一緒に暮らしていた頃は、それがもとで色々と面倒なことがあった、と聞く」
ため息をつくようにイシは言った。ふと、それは本当のような気がした。目の前にある二つの握り飯は桜の小さな、形の良い乳房を思い起こさせた。
「何をしている。さっさと喰え」
既にイシは二つ目の握り飯を頬張りながらKを促した。
「あ、はい」
少し躊躇ってから、Kは右側の握り飯に手を伸した。
宿を後にして既に半日が経っていた。不本意なことだが、歩いて行く内にふと、昨夜の桜とのことが、頭上の空の白い雲のようにあやふやに、流れ去り消えることがあって、いったいどうしかたことかとKは訝った。もしかしたら、あれは本当に夢だったのかしらん?
昔見た、あの地中に埋められる不思議な夢は未だに記憶の底にこびり付いて残っているのに、柔らかく快楽に満ちた昨夜経験したばかりのできごとが、曖昧になっているのは不思議だったし惜しかった。ただ、その快楽を思い出すと、その快楽の元となった器官が膨れ上がり、歩くのに邪魔なので、惜しみつつも考えまいとしつつ、イシの背中を視た。イシの背中を視ると不思議と昨夜のことは忘れることができた。
暫く道は平坦だったが、やがて道の先に見たことのない大きな構造物が見えてきた。最初は道の両端に柵のようなものが見えただけだったが、近づいていくとその柵の両側は切り落とされるように、向こう側の土肌に交わり、その手前に滔々と流れる川が見えた。今まで視たことのないほどの大きな川だった。そして柵のように見えたのは、向こう岸とこちらを繋ぐ、みたことのないような大きな橋だった。
「これは・・・」
「昔の人が作ったものだ。昔の人が作ったものの中には忌まわしいものも多いが、その全てが悪いものではない」
イシはそう言った。
「例えば、この橋だ。だが、これはずいぶん前に作られたものだ。ところどころが壊れかけている。嵐の度に、少しずつ壊れていくと聞く。だが修理をするのも難しい。そうした技術が伝えられていない。どこかに埋もれている、そういう技術を見つけるのもお前たちの役目だ」
「ぼく・・・たちの?」
「ああ、そう聞いている」
イシは目を細めた。川面に光る波を眩しげに見やっていたが、やがて
「では渡ろう。所々が崩れている。気をつけぬと川に落ちる。今はそれほどでもないが、それでも川の流れは速い。下手をすれば溺れ死ぬからな」
と言うと、橋を渡り始めた。橋の幅は広い道ほどあって、どうしてこれほどの広い橋を作ったのかKには想像も付かなかった。
イシの後ろを追いかけながら、Kがそのことを尋ねると、イシは
「もう少し行けば、その理由が分るだろう」
と答えた。
イシの言ったとおり、橋の途中には大きなでこぼこが幾つもできていて、橋の両側にある手すりのようなものは赤茶色に錆びていた。
「もう少し、先に大きな穴がある。そこは迂回しないとならん」
イシは指さした。
「はい・・・」
10メートルほど進んだ場所に、イシの言ったとおり大きな穴が空いていた。その穴は橋のちょうど真ん中から、左右に口を開けて、それぞれの幅の半分ほどに広がっていた。
「来る度に、大きくなっている」
イシは呟いた。
「そうなのですか?」
「ああ、前には穴の両端に板を渡してあったが、今はもうない。多分落ちたのだろうよ」
穴の中を覗くと、岸では穏やかに流れてさえいるのかどうかも分らなかった水が、渦を巻いて上流から下流へと激しく流れているのが見えた。
「渦は、橋を支える橋脚というものでできるのだ。あれに巻き込まれるとなかなか浮かび上がれない。とにかく落ちないように気を付けろ」
そう言いつつ、イシは橋の右手に回り込んだ。橋と穴の間にはまだ人が優に十人ほど通れそうなほどの
「ついてこい」
それほど慎重にしなければいけないのか、と疑問に思いつつKはイシの後ろについていった。
穴の真ん中ほどにくると、イシがどうしてこれほど慎重なのかが分った。穴はそこまで広がっていないが、穴の亀裂は橋の両端まで続いていた。手すりもキイキイと音を立て、それにつかまっていて大丈夫なのか心許ないほどだったが、イシは慎重過ぎるほどゆっくりと歩を進め渡りきった。Kもその後に続いた。
「昔、別の橋を渡っていたときに俺と子供が渡り終えた直後に、やはり子供を連れた大人が広がった穴に落ちた」
穴を肩越しに振返るとイシはKに向かってそう言った。
「その時は雨の多い季節で、二人ともあっというまに濁った水に呑まれてしまった」
「助からなかったのですか?」
「分らない。もしかしたら下流のどこかに流れ着いて助かったかも知れないが・・・、だが俺たちには助けに行く余裕などはなかった」
そうため息をつくと、イシは、
「さあ、行くぞ。この先にお前の問いの答えがある」
と厳かな声を出した。
その物体は橋のたもと近くにあった。小さな小屋ほどの大きさであった。二つの大きな目のようなものがこちらを虚ろに見ている。近寄ってよく見ると地面にとはわっかのような金属で、四方が接触しているだけである。そして、
「わっ」
Kは一瞬飛び退いた。その物体の全面には茶色と深緑の、埃と苔で汚れきった窓のようなものが覆っていたが、その向こうには骸骨が一体、椅子のようなものに凭れて残っていたのである。
「これは・・・?」
「これは昔あった、車というものらしい」
「じどうしゃ」
「ああ、これを走らせるためにこれほど大きな橋を渡したのだ」
「・・・」
Kはその物体の仔細を見ようと後ろへ回り込んだ。背面は一部がへこんでいてそこから錆が網の目のように広がっていたが、その一角に見覚えのある字のような金属片が半分脱落し掛かったように揺れていた。それに手を掛けると、ネジを中心にして金属片はくるりと回った。
「これは・・・」
見覚えのある字だった。
「J」
「ほう・・・」
イシは中腰になると、Kの手元を見た。
「うん、俺も見覚えがある」
「そうですか?」
「ああ、昔、ずっと昔の話だが、確かにこれと同じ文字を見たことがあるな」
「11を意味すると聞きました」
「それはカードの場合だな」
「カード?」
「ゲームだ。日本では昔、トランプと呼ばれていたらしい」
「そうなのですか・・・。修道院にいた頃、そのゲームに付き合わされたことがあります」
「そうか・・・。まだ残っていたのか?」
「残っていた?」
「ああ。俺が生れた場所ではそうしたゲームは盛んだったし、色々な遊び方があった。だが、ゲームは全て禁じられた」
「・・・」
「Jというのは、俺の生れた国で使っていた文字だ。お前の名のKもそうだ。Jの次がK」
「・・・」
Kは今まで自分の名前の由来を知らなかったし、さほど興味も持たなかった。音でケイという名だと知っただけであった。修道院にいたときに教えられたのは名前は「記号」のようなもので、それ以外にさほどの意味があるものではないということであったし、Kもそれを信じていた。見覚えのあるKという自我自分の名前だとは・・・。
「イシさんの名前は・・・」
「ん?」
イシは微かに眉を顰めた。
「俺の名か。イシ・・・イシというのは仮の名だ」
「仮の名?」
「ああ、イシというのは俺たち・・・俺たちと言っても、俺の仲間の間だけだがな、人という意味だ。本当の名前ではない」
「では、本当の名前は別にあるのですか?」
「そうだ。だが名前は魂だ。名前を教えれば、魂を渡すことになる。我々は・・・我々と言ってももう、俺しかいないがな・・・魂を渡しても良いものにしか名前を教えてはならないと言われた」
「私は・・・」
Kの言葉に微妙なニュアンスを感じたのかイシはKの顔を盗むように見た。
「うん?」
「名前というのは記号のようなものだと教えられました。私と誰か別の人を区別する、そうしたものだと」
「区別か・・・。そうだな、そういう考え方もある」
イシは頷いた。
「俺たちは、昔、区別をしなければならないほどの人たちと一緒に暮らしてはいなかった。皆、それぞれに特徴があって、それで呼び合っていた。痣があるものは「痣」と呼んでいたし、岩の近くに住むものは『岩』というようにな。それで一向に困らなかったが・・・」
そう言うと、イシは頭を振った。
「まあ、そういうこともあったということだ。何が正しいのか俺にはわからない。俺は昔の部族の習わしを教わってきただけだからな」
と言った。
「JとかKというのは文字なのですね」
Kは話の矛先を変えた。
「そうだ」
「それは、誰か別の人々の使う文字なのですか」
「うむ」
イシは頷いた。
「俺が昔住んでいた場所、そこで俺たちから土地や暮らしを奪ったものたちが使っていた文字だ」
「・・・」
「今でも、様々の場所で様々の人々が別の文字を使っているらしい。俺は詳しくは知らないが、それもお前は知る事になるだろう。俺が聞いたことがあるのは、神話だ。昔、人々は共通の言葉を持っていた。そのことで力を得た人間は神の領域に達しようとして神の怒りを買い、言葉は壊れて、人々は違う言葉を話すようになった。そういうことだ」
「神の怒り・・・?なぜですか」
「それも俺の知るところではない。ただ、人間は二つの犯してはいけないものがある。一つは世界を滅ぼすほどの争いをしてはならないこと、もう一つは犯してはならない領域があると知り、その
「・・・」
Kにはイシの言っていることの半分も理解できなかった。だが、世の中には行っていけない何かの決まりがあることは身体が理解していた。世界、どころか、何か小さなものでも滅ぼすような争いは御免だった。小さな魂一つ、失うことの悲しさを考えれば当然の話なのだが、あえてイシのいうような規模の争いがあるとしたら、その争いのもととなるものが、一体何なのか、想像さえできなかった。
「人は集まれば、愚かになる」
何かを見抜いたかのようにイシが呟いた。
「人間が神の領域に踏み入れようとしたのを、ある物語では天に達する塔を建てようとしたと譬えられている。それを神が打砕いたとな。人が集まり則を越えようとしたことが何かの怒りを買ったのではないか、おれはその話を聞いてそう思った。俺たちの部族にも似たような話はあった」
「その・・・則というのは何でしょう」
「難しい問いだな」
イシは答えた。
「正しい答えはわからない。ただ敢て言えば、一人で考えた時に、どこかがおかしい、何かが間違っているのではないか、と感じたら、それは則に引っかかり始めた標だと俺は思う」
「そうですか」
「それでも、則を越えたからといって直ちに報復が待っているわけではない。何度も何度も警告は出される。だがそれらを無視したとき、突然報復はやってくる」
「報復は・・・訪れたのですね」
「そう聞いているが俺には詳しいことは分らない。いや・・・むしろ」
その声の調子に妙なものを感じてKはイシを視た。
「俺はそのお陰で再生したのだ」
「再生・・・」
「そう。前にも言っただろう。俺の部族は滅びた。俺は部族の最後の生き残りだった。そして俺は死んだ。部族の最後の生き残りとして・・・。そしてその記憶はまだ残っている」
「死んだときの記憶ですか?」
「ああ、そうだ。微かだがな。震えるような鼓動とそれが途切れるときの苦しみ、同時に感じる安らかさ」
「・・・」
それは夢ではないのですか、と聞こうと思ったがやめた。夢と現実の間はKの中でも未だに判然としていない。それを敢てイシにぶつけても納得のいく答えが返ってくるとは思えなかったし、イシの言っていることに疑いを向けているように思われかねない。
いずれにしろ、イシは「厳然とした存在」であり、そしてKにはイシが嘘をついているようにはどうしても思えなかった。そして目の前にある物体・・・それは昔、自動車と呼ばれたものであるが・・・それも厳然とした存在だった。
ふと思い出したのは以前に見た高い建物、地下に巡れされた複雑な構造のことだった。
「ここも神の怒りを買ったのでしょうか」
「そうかもしれない。だが、滅びてはいない」
「滅びてはいない・・・」
「本当に怒りを買った民は滅びたと聞く」
「もはや、この世には存在しない?」
「そうだ。その代わりに俺のような一度滅びた民は神によって復活させられたのかも知れないな」
イシは笑った。
「滅びた民もいずれ再生することもできるかもしれない」
「再生というのは・・・どのように」
「それは確かに不思議なことだが、しかしその技術は存在していたらしい」
「・・・」
「だがそれも越えてはならぬ則の一つだったようだ。俺自身と矛盾しているような気もするが」
矛盾というのは、それを則として制限しているにも拘わらずイシがその技術を使って再生させられたということなのだろう。
「神というのは存在するのですか」
「俺は神そのものは存在しないと思っている。だが、神のようなものは確かに存在する。残念ながら俺たち人間が越えられない何かが存在するのだ」
もし、そんなものが存在するとしたらそれは一体何なのだろう?その問い掛けるような目にイシは答えようとした。
「昔、神というものは存在と捉えられてきた。やがて人類は賢くなり、それを概念として捉えるようになった。その時、『神』は変容し、その影響力は弱まったのだ、と俺は思っている。だが、神は復活したのだ。それは昔のような触れられない存在ではなく、また概念でもなく、絶対的に人間が越えられない存在として・・・」
そう言うとイシは口籠もった。
「それ以上の事は俺には分らない。それが正しい存在なのかも、分らない。そもそも俺自身が、その存在によって復活した身だ。もし、それが正しい存在でないとしても俺にはそれを批判する資格はないのだろう。だが、お前は自然の存在だ。いつか、世界を理解する事ができれば、お前にはそれを判断する資格がある」
「資格だなんて・・・」
「資格でなければそれは義務だ」
イシは決然としてそう言った。
「人間という存在は少なくともどこかの部分で否定された。色々なものが破壊され、その残骸をおれたちは見せつけられている。俺たち、というのは正しくないかな。お前らのように自然に存在した人間の末裔はその結果を見せつけられている。だが、その破壊した存在そのものは果たして正しい存在なのか・・・?正しいというのは何なのか?存在そのものが正しいのか?」
イシは雄弁だった。
「もしそこに何かの判断が存在したなら、その正しさは結果論ではなく何かの真理に基づいて決められるものの筈だ。その真理を究めなければ、人間は再び同じ目に遭う。また、その真理があやふやなものであれば、お前たちはその存在を掛けて闘わなければならないかも知れない。絶望的な闘いかもしれない。だが、本当に正しいものでなければそれに従属するよりは滅びた方がマシなのかも知れない」
そういうとイシは肩で息をついた。
「・・・。すまん。言い過ぎたかも知れない。だが、俺たちは俺たちの祖先は、俺たちの部族はそうして滅びたのかも知れない。そう思っただけだ」
「そうですか・・・」
イシは薄気味悪そうに辺りを見回した。何も変わりはなかった。うち捨てられた「自動車」の残骸、壊れかけた「橋」、かつて人間が作り出したものはそれだけで、自然は残りの全ての跡形を覆い尽くしていた。やがて、「自動車」も「橋」もそのメカニズムの中に組み込まれていくのだろう。
「こうやって俺たちが話していることさえ、その存在は見て、知っているのかも知れない。俺のことを笑っているのかも知れないな」
「しかし・・・そうだとしたら、何も僕たちを残しておく必要もないし、イシさんを復活させる必要もないでしょう」
Kは冷静に答えた。
「それは・・・そうだな」
「僕たちは試されているのかも知れませんね」
「試されている・・・?そうかもしれないな」
イシはため息をついた。
「いずれにしろ、こんな話をしたのは生れてこの方お前とだけだ。お前にはこの世界を解明する何かがある、そんな気がする」
「それはイシさんの買い被りだと思いますよ」
「いや・・・」
イシはそれ以上、主張しなかったが、そのことをKに告げたことで気持ちが軽くなった様子だった。
「さあ、行こう。まだ暫く残っているが、うまくすれば日の暮れる前に着くことができるかも知れない」
そう言うとイシは立ち上がった。Kもそれに続いた。
「その地」についた時は既に日は落ちていた。そこに至る道が所々で陥没していたり、小さな川の橋が落ちていたりして、イシが思っていたより時間が掛かったのである。
「この道も、もうこのままでは使えなくなるかも知れない。もしかしたらこれが最後かもしれないな」
イシは呟いた。
「他に道はあるのですか?」
「俺はしらない。だが、ここに来る道は一つだけではない」
「そうなのですか?」
「ああ、海側から来る道が少なくとももう一つある、と聞いた」
「海・・・」
「そうだ。やがてお前も見ることができるだろう」
「楽しみです」
そうは言った物の、目の前の薄暗がりを見てKはがっかりとしていた。そこにはただ、一つの古びた建物があるだけだった。さくらという女がいたあの宿よりもその建物は貧相だった。木ではなく石に似た材質で頑丈そうではあるが、その表面は煤けて古びていた。金属でできた素っ気ない扉のあちこちには錆びが浮いていた。
不思議な事にその扉には鍵らしいものはなかった。薄暗い光のせいで見えないのか、と思ったがどんなに目を凝らしてもKには鍵穴が見えなかった。
「どうやって入るのですか」
Kが尋ねると、イシはにやりと笑い、扉に向かって何かを呟いた。すると扉の上に突如、灯りが点った。その灯りは生き物のように動き、イシの顔を照らした。それと同時に扉は重い音を立てて動き出した。
「少しここで待っていろ」
イシは言うと、新しい扉の前に一人で立った。あっという間に扉は開き、イシは足早に中に消えた。Kの目には何もかもが不思議であった。いったいここはなんであろうか。どうやって動いているのだろうか?
扉の前で暫く待っていると、再び扉が音を立て動き始めた。さっきは驚いただけであったが、腹の底を揺らようなその音はまるでKを別の世界に引き摺りこむような重々しい響きだった。(そしてやがてそれは現実になる)
扉の向こう側にイシが微笑んでいた。
「ようこそ、ヴァルハラへ」
イシの勿体ぶった声と共に、突然、眩しいほどの灯りが建物の内側を照らし出した。一瞬目が眩んだが、再び網膜に結んだ像は意外な光景を映しだした。
イシの後ろには建物の幅と同じ大きさの階段が地下へと続いていた。
その底は、幾ら眩しいほどの光でも照らすことのできないほどの闇へと続いていた。
その地下への回廊の真ん中にイシが、構えるように立っていた。
「あの扉は・・・」
イシに率いられ階段を百段ほど下ったところで階段は折り返していた。イシは古いランプを手にしており、その光がゆらゆらと行く先を照らし、闇を強調していた。どこか、技術と古さが妙な形で共存しているような居心地の悪さを感じながらKはイシに質問した。
「部外者が入れないような仕組みだ。顔を登録してあるものだけがあの扉を抜けることができる」
一応、暗号はあるが、それは形式だけのものだ。暗号を唱えて登録されていないものは排除される仕組みなのだ、とイシは笑った。
「一種の罠だ。万が一の時のためのな」
「そうなのですか?」
「実際は登録してあれば、暗号は不要だ。だが皆暗号を唱えて入る。もしかして誰かが見て、その言葉を唱えれば中に入れると考えたとすれば、その暗号を唱えるものは脅迫してその暗号を聞き出したものと考える。そうしたものを排除するための仕組みだ」
「・・・」
「覚えておけ。オープンザセサミがその暗号だ」
そう言うとなぜか、イシはくすくすと笑った。
「可笑しいはなしなのですか?」
「昔話があってな。前の人生でその話を読んだことがある。どこか別の国の話で、やはり岩戸を開けるための暗号なのだ」
「なるほど・・・」
「神話には必ず岩戸が出てくる。岩戸の向こうには必ず貴重なものがある。お前の国には確か岩戸の向こう側に太陽が隠れたという話があったはずだ。それを開くためには暗号ではなく、皆がその前で踊ったという話があった」
「イシさんは色々なことを知っているのですね」
「そんなことはない。ただの聞きかじりだ」
イシは照れたような声を出した。
「それにしても・・・どうしてこんなに深い場所へと?」
石段は永遠に続くかのように二人を誘っている。
「これも昔の人が作ったのですか」
「ああ、これは絶滅を防ぐように作った構造物だ。様々な国に同じようなものがある」
「絶滅を防ぐ?」
「そうだ。その時代には様々な危機が起きた、と聞く。人類どころかありとあらゆる生物と構造物を焼き尽くすほどの爆弾、生物だけを殺す爆弾、それは『クリーン』」な爆弾と呼ばれていたそうだ、愚かな話だが・・・。人類だけに影響を及ぼす病原菌、或いは毒ガス。さまざまなものが開発され、それを防ぐためにさまざまな防御策が講じられた。これもその名残の一つだ。地下100メートルに居住区域がある」
「地下100メートル・・・」
そんな場所にしか住めなくなる恐怖?本当にそんなことがあったのだろうか?あったとしてなぜ?
そう思いながら、Kは黙々と階段を降りていった。
「ここだ」
イシが突然、立ち止まった。もう階段を四百段も降りたあたりである。
そこには、建物の入り口と同じような扉があった。
「実はここには昇降機がある」
「昇降機?」
「階段を使わずに上下を行ったり来たりできる機械だ」
「そうなんですか・・・」
驚きはなかった。このような構築物を造成し、橋を掛け、車というものを作ることができたのなら、上下を行ったり来たりする機械など容易に作ることができたに違いあるまい。ならわざわざ階段を使って降りる必要はなかったのだ。
「だが、この建物の意味を知るためには階段を使ってそのわけを実感して貰った方が良いと思ってな」
「・・・」
「毎回、ここを上り下りするわけにはいかないからな。かと言っていちいち昇降機を使ってはもったいない。だから時間を決めて昇降をしているのだ。何といってもいちどに百人を乗せる大きさだからな、そうしょっちゅう動かすこともできない」
「百人?」
ここにそんな数の人がいるのだろうか?今まで誰一人と出会ってもいないというのに。
「この地下は50層もある」
Kのそんな疑問を察したかのようにイシは言った。
「そうして、今の時間は皆、それぞれの仕事にいそしんでいるというわけだ」
「・・・」
イシの言葉にKはあたりを見まわした。誰の気配も感じられないが、そう言われればこの大きな洞窟の中で何かが
「おれはこの場所をヴァルハラと呼んでいる。死者の舘、勇敢に戦ったものだけが入れる舘だ。だが勇敢に闘ったものは必ず人を殺している。だから地獄かもしれないがな」
「・・・。僕は勇敢に闘っていないし、人を殺したこともありません」
Kの言葉に
「そうか・・・」
イシは微かに笑った。
「だが、そう自覚していなくても、人は闘っているし、その結果、誰かが死んでいる、ということもあるのだ」
「・・・」
Kはイシをまじまじと見た。誰か・・・それは、ユウの事であろうか、それともドナルド・・・或いは帯刀の事かも知れない。帯刀は肉体としては生きていたが、最後に出会った時、どこか半分死んだ人間のようであった。
「まあいい。いずれ分かるときが来る。或いは分からないままでいるのかもしれぬが、それはそれで構わないのだろう」
「・・・」
「さて、俺はここに留まることはない。俺にとってはヴァルハラは住むところではないからな」
「どういうことですか?」
「俺が一緒なのはここまでだよ」
イシはそういうと、再びにやりと笑った。
「ここに居続けると俺は命を削られるのだ。現に、ここでも夜はここを離れて暮らしているのだ」
「そうなのですか?」
Kの問いにイシは頷いた。
「明日、ここにもう一度来る。そしてお前を引き渡せば俺の仕事は終わる」
「引き渡すって・・・誰にですか?」
「管理者にだ」
「管理者・・・?」
「そうだ。いずれにしろ、明日会うことになる」
「・・・。それでイシさんはこれからどうするのですか?」
「次の仕事がある。もう決まっているのだ。今度は子供を連れて行く方の仕事だ」
「そうですか・・・。せっかく知り合いになれたのに」
「だな。だが、お前はこれからもっと人と会い、知識を身につけていくことになるだろう」
「・・・」
「まあ、今晩はゆっくり休むことだ。お前の部屋は用意してある」
そこは、修道院にいたときの何倍も広い部屋であった。部屋には作り付けの書棚がたくさんあったが、本は一冊もおいてなかった。専用のシャワー、トイレ、きちんとリネンのかかった広いベッド。コンロのあるキッチン。
何よりも気に入ったのは大きな机だった。机の上には鉄製のランプがあって、スイッチを押すと橙色の灯りが点った。
「これが俺の部屋なのだろうか?」
期待を持ちすぎると、裏切られたとき、倍になって不幸が舞い戻ってくる、そんな気がしたが、Kの胸は小さく膨らんだ。
だが、僕はここで何を求められているのだろう?そして僕はその求めに応じることができるのだろうか?もし応じることができなければどうなるのだろうか?ベッドに身体を横たえ、そんな希望と不安が交互に脳裏に浮かび、眠れないような気がしたが、旅の疲れはそれを遙かに上回っていた。やがてKの寝息が聞えてくると、部屋の灯りはいつのまにか消えていた。
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