第2話:赤色の稲妻
夕闇の中、家へ帰るために山道を運転していた私は、事故を起こしてしまった。
レッカー車の手配のため民家を探して歩いていると、荒れた広場にたどり着いた。
私の背丈ほどの草が生い茂るそこは、辺りがすっかり闇に包まれているにも関わらず仄明るかった。
気になって明かりの方へ近づいた私は、そこで怪しい歌を歌う子どもたちを見つけた。
石の台の上に乗った生気のない顔をした少女が手に持った燭台を天に掲げたその瞬間、目の前が激しく光り、轟音が鳴り響いた。
あまりの事に私は呆然としたが、その後身体に激しく打ち付けた冷たい雨で、雷が目の前に落ちたのだと思った――
改めて子どもたちの方を見ると、石の上の少女が空に掲げた燭台に、火のようなものが灯っていた。
それは赤い色をしていて、炎の形で燃えているように見えたけれど、火ではないと分かった。
それは時折空に向かって火花を放ち、うっすらと不快な生臭い匂いを放っていた。
不思議なほど静かだった。
異様なことに、虫の声一つ聞こえない。
けれど何よりもおかしかったのは、燭台の蝋燭を刺す金属の太い針に火が灯っていたことだった。
再び子供たちが歌を歌い始めた。
その歌は荘厳ではあったが、奥歯に物の挟まったような不快感があった。
そして、火に似た何かのついた燭台を掲げた女の子が、燭台を周りを取り囲む女の子の一人が持つ蝋燭に近づけた。
それは燃え移って正しい炎になった。
真ん中の少女は他の女の子たちにもその火を移してから、再び空へ向かって燭台を掲げた。
するとたちまち、燭台から赤い光が女の子の腕を伝って身体へ落ち、衣装を燃え上がらせた。
いや、腕も身体も顔も髪もすべて赤い光、炎に似た何かに包まれていた。
燃えながら、彼女はこちらを見てやはり無表情に私を見つめていた。
しばらくして、石の真ん中に立っていた少女は跡形もなく消えていた。周りを取り囲んでいた女の子たちもまた消えていた。
私はギリシヤ風の服の女の子が立っていた場所へ近づき、石へ触れた。
石は雨で濡れて黒くなっていた。
その時、私はあの火に似た何かや蝋燭の火が、雨の影響を全く受けていなかったのではないかという疑惑を抱いた。
それはおそらく私の記憶違いで、余りにも奇妙な行為に気を取られるばかりに、細部を見逃したのだと信じたかった。
そしてそれはすぐに、間違いだと分かった。
気が付くとあの赤い炎が石の下から私の足を伝いあがってきていた。
私の服は雨水でひどく湿っていたはずなのに、炎は決して衰えることはなかった。
その炎はすぐに胴体、腕、顔へ広がった。
雨はまだ降っていたが、その炎は何も妨げられた様子もなく燃え広がった。
不思議なことに痛みはなかったが、しかし今私は消えることが分かっていた。
あれは私の未来の姿であり、そして過去の姿だったのだ。
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