概要
図書館での名もなき感触が、少女を大人へ変えた。二人の時間を止めたまま。
彼女は脚を開いた。彼は手を引いた。
埃の粒が光の中に漂い、ページをめくる音だけの静謐。
十八歳の僕と梨花は、思考よりも早く、指先の温度で互いを知った。
誰にも聞かれない机の下、制服越しの接触。
梨花の沈黙は拒絶ではなかった。
震えるまなざしが「……この気持ち、何なの?」と
問いかけていた──
彼女は一人で「女」になった。
誰にも知られず、自らの肉体と対話するように。
僕は心の空白に彼女の名を幾度も書きつけ、そして消した。
言葉を交わさぬまま、少女と少年はすれ違った。
あの一瞬だけが、ふたりの記憶に焼き付いたまま。
好き、と言うのは何かが違う。
欲しい、と言えば軽すぎる。
守りたい、と言えば──笑うしかない。
名もなき感情が、名前を得ることなく続いていく。
詠出 歩詩乃
埃の粒が光の中に漂い、ページをめくる音だけの静謐。
十八歳の僕と梨花は、思考よりも早く、指先の温度で互いを知った。
誰にも聞かれない机の下、制服越しの接触。
梨花の沈黙は拒絶ではなかった。
震えるまなざしが「……この気持ち、何なの?」と
問いかけていた──
彼女は一人で「女」になった。
誰にも知られず、自らの肉体と対話するように。
僕は心の空白に彼女の名を幾度も書きつけ、そして消した。
言葉を交わさぬまま、少女と少年はすれ違った。
あの一瞬だけが、ふたりの記憶に焼き付いたまま。
好き、と言うのは何かが違う。
欲しい、と言えば軽すぎる。
守りたい、と言えば──笑うしかない。
名もなき感情が、名前を得ることなく続いていく。
詠出 歩詩乃