第6話 未来からの便り
「俺の……未来?」
「そう。箱を開けた場合と、開けなかった場合――その二つの未来を今から君に見せてあげよう」
メモリは静かに言った。
「そして見終わったあとに君の選択を聞いて、再びこの未来を見る直前の君に戻す」
「……それだと結局、元に戻った俺は自分の選択に確信を持てないんじゃないですか?」
「うん。確かに完全に確信させることは難しいかもしれない。でもね、今の君の“迷い”をある程度は取り払えるようにしておくよ」
「……どうやって?」
「それは……その時のお楽しみだよ」
そう言ってメモリは、わずかに目を細めた。
「あと、一つだけ聞いておいてほしいことがある」
「……なんですか?」
「私は必ず約束を守るし、決して嘘はつかない――このことは覚えておいてほしい。信じる信じないは任せるけどね」
その言葉には不思議な重みがあった。根拠はないけれど、嘘ではないと――何となく感じた。
「それじゃあ、君に“未来”を
その瞬間、風鈴の音が――チリンと、ひとつだけ鳴った。
空気がすうっと遠のき、視界が淡く霞んでいく。身体の輪郭が風に溶けるようにほどけていった。
―――
未来。
開けた場合の未来。
開けなかった場合の未来。
それはまるで夢のようで、現実よりも現実だった。
言葉にならない光景。
心を撃ち抜く感情。
涙、叫び、笑い――命そのものが震えるような。
―――
「……マジか」
声が漏れた。
「そう、マジだよ」
メモリがどこか嬉しそうに返す。
驚愕が、ゆっくりと別の感情に変わっていく。
震える喉の奥から込み上げてきたものがあった。
「ふっ……ふははっ……はっ……あっはっはっはっはっはっは~っ!」
腹を抱える。笑いが止まらない。
「そりゃ、そっちを選ぶよな。全く……俺ってやつは、ほんとに……!」
「ぷはははははっ……!」
笑いながら、泣きそうだった。何かが溢れて言葉にならない。
「それじゃあ――箱を"開ける" 選択をする君に、メッセージをお願いできるかな」
メモリがそう言って一枚の紙とペンを差し出す。
そこにはすでに、「開ける」と記されていた。
「OK、分かったよ」
ペンを手に取りながら、ふっと息をつく。
「それじゃあメモリ。今後ともよろしく」
「任されたよ。ほうり」
「ぷっ……あははははは……!」
その返事にまた笑いがこみ上げてきた。
「楽しそうなところ悪いけど、もう元に戻すね」
「……ああ、分かったよ。それじゃあ、その時になったら、またね」
「うん。またね」
――チリン。
風鈴の音が静かに鳴った。
視界が反転し、世界が反響する。
気づけば俺は……箱の前にいた。
未来を見る、その直前の俺に。
──風鈴が、またひとつ鳴っていた。
「……おかえり」
メモリの声が耳に届く。
「……えっ?」
ほうりは間の抜けた声を出した。
「キミはもう、2つの未来を見てきたよ」
「……全くもってわからないですし、“それじゃあ未来を見せよう”って言われた1秒後に、“おかえり”は流石に訳わからないです……」
「そうだね。でも――約束だから。『開ける』を選択した君の迷いを取り払おう」
戸惑うほうりにメモリは一枚の紙を差し出した。
それは、先ほど自分が「開ける」と書いた紙だった。
その文字のすぐ隣に別の一文が書き加えられていた。
> 『おれへ――探しものはみつかるし、期待を超える大冒険が待っている。おれはその選択に後悔していない。』
それは――俺の字だった。
「そうそう。君からの伝言があるんだ」
メモリが柔らかく微笑む。
『良い旅を』
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。
未来の俺から、今の俺へ。
選び取った世界への確かな背中押し。
迷いがすっと消えていった。
――そして、旅が始まる。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
祝人
「俺が見た未来が本当に起こるかどうかは……君次第なのかもね。ちょっとでも面白かったら、★とかフォローで、こっちの選択を応援してくれると嬉しいよ」
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