第7話 一杯のカフェオレ
これは一人の少年の,たた15年の人生にあった出来事だ。
少年は,とある温泉街の老舗旅館に次男として生まれた。
彼が幼い頃,長男は夢を追いかけて家を出てしまった。
兄が何をしたかったのか,いや,どんな人だったのか。
幼かった少年は,兄の顔さえも覚えていなかった。
それでも少年は,家族に愛されてすくすくと成長した。
父親は事業を広げ,県内だけでなく全国各地に旅館やホテルを展開した。
母親はそんな父を助けながら,幼い息子のことを愛情たっぷりに育ててくれた。
祖父は可愛い孫を溺愛し,何でも買ってくれた。
少年は何不自由なく暮らすことが出来た。
あの日まで。
祖父が亡くなった。
少年は初めて『悲しみ』という感情を知った。
ただ,少年の『苦しみ』はまだ始まったばかりであった。
父親が浮気した。
言葉にするなら簡単なことだけど,どうしてそうなったのか少年には理解できなかった。
父親は母親と離縁し,浮気相手と再婚した。
少年は母親に着いていこうとしたけれど,誰もそれも許さなかった。
なぜなら。
孫を溺愛していた祖父は,その遺産の相続人を少年にしていたから。
父親の浮気相手,継母の狙いが財産であったことは周囲にも気付かれていた。
少年を殺せば祖父の遺産の半分が手に入る。
至極簡単にできそうなことだが,不可能に近かった。
顧問弁護士や,祖父の側近だった大人達がいろいろと手を尽くしてくれたらしい。
遺産を自由にすることはできないが,少年も月々の小遣いぐらいは得られたので文句はなかった。
継母の苛立ちは日に日に募っていった。
そして,少年に暴力を振るうようになった。
泣いても泣いても殴られた。
逃げても逃げても追いかけられた。
ある日。
泣き疲れた少年は,行く当てもなく街を彷徨っていた。
たまたま通りかかった一軒の喫茶店に,五百円玉を握りしめながら入ってみた。
そこで少年は,人の良さそうなマスターにこう言った。
『何でもいいので温かくなる飲み物を下さい』
少年が一杯のカフェオレに出逢った。
そんなたわいもない話だ。
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