「」

 空はすっきりと晴れていた。まさに秋晴れ、そんな言葉がぴったりの景色だった。午後の傾いた日の光がリビングに差し込んで、私はソファに寝っ転がり、そのひだまりを見つめていた。日の光はフローリングに佇む埃を照らし、緑色のカーペットと、そこにただ積み重なるまだアイロンの当てられてないしわくちゃな衣服とも、同時に優しく照らしていた。そこでは花瓶にさされた枯れかけの花さえ、安心して午後のひと時を楽しんでいるように見えた。ガラスの花瓶が光を受け入れ密やかに反射していて、私にはその光が少し目に痛かった。


 不意に色が薄くなった。日が雲に隠れたのか、少し部屋が色褪せたように感じてしまった。私は視線を移し、窓から空を見上げた。青く柔らかい空に、緩やかに色づき始めた銀杏。そしてまだ少し青く、冬に向けて徐々に黒く硬くなり始めているような山並み。リビングから見る景色がこんなにも綺麗だったと気づけたのは秋だからだろうか。なんだか今なら全てが美しく、感嘆できる気がして、私はお腹の上に置いていた手を少し掲げてみる。少し筋が見え、乾燥しているものの、握ってきた通り忠実に皺の入った手のひら。所々皮がめくれているものの、やはり今では美しく、とても愛おしいものに見えた。


 目を閉じる。車が側を通り、家が軋む音が微かに聞こえた。

 こうやって安心して寝転がって目を閉じ、夕ご飯や寝床が今日も明日もその次もある程度保証されていることがいかに素晴らしいか。そして、優しくも歪で、とても救いきれないほどの絶望と、いくつかの栄華と、あらゆる側面を持つその全てが詰まったものについて、少し考えた。


ふと、昔どこかで読んだ詩を思い返す。


いつか全て散りになって消える

それでも世界は美しいと


その詩はそうやって最後の行に書いてあった。


全ては、いつ終わるんだろう。

自分はいつ終わるんだろう。


 それは確定していることだった。自分が生を持った限り、私に確実に終わりも保証されているのだ。それは絶対に経験することで、生のデフォルトなのだ。それなのに、まるで分からなかった。正直、ずっと続くような気がしていた。終わることは、少し寂しい気がした。全てが終わった無の空間を想像してみる。そこにはぬくもりなんてものもなくて、誰かが死ぬような思いをして作った何かさえ、塵になってただ宙を漂う。なんだかすごく、寂しいような気がした。

 

 眩しさを感じて、目を開ける。雲が過ぎ去って、また日が顔を出したようだった。リビングはさっきよりもさらに明るく照らされ、花瓶もその分だけ、色こく光を発する。

 

 空は少し夕暮れに差し掛かっていた。綺麗な秋晴れの空が少し暖かく染まっている。

 

 いつ終わるのだろう。何万年後か、明日か、それとも今か。

 あぁ今かもしれないなと思った。どうでもいいと思った。

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