第五話「旧トンネルの先」



 URLを開いた瞬間、背筋がぞわりとした。

 画面に映ったのは、山●県の山奥にある旧トンネル跡。

 地元では“通称・■■トンネル”と呼ばれている心霊スポットで、2000年代に起きたある事件の噂が根強く残る。


 Googleストリートビューの撮影車は、なぜか封鎖されているはずの道を通り抜け、トンネルの内部にまで進入していた。

 壁は水気を含んで濡れており、天井のコンクリはひび割れている。

 車が到達した最奥、つまり“出口のない壁”の前で、異常は起きた。


 左下に、何かが写っていた。


 画面を拡大する。

 壁の陰から覗く顔。それは——人間の顔ではなかった。


 皮膚が裂けたように歪み、目だけが異様に大きく強調されていた。

 しかも、閲覧モードで回転すると、どの角度から見ても顔がこちらを向いていた。



---


 動画をアップロードしてすぐ、視聴者からのコメントが殺到した。


> 「このトンネルって、昔事故があった場所じゃ…」

「2003年、廃墟探検してた大学生が行方不明になったって記事あったぞ」

「この顔……投稿者さんに似てません?」




 ……最後のコメントで、俺は背筋を凍らせた。

 慌てて動画をもう一度確認する。


 顔の一部。頬にあるホクロの位置が、俺とまったく同じだった。



---


 深夜。スマホがまた勝手に録画を始めていた。

 録画時間は、午前3時33分。再生してみると——画面は真っ暗だった。


 ……いや、違う。音が、入っていた。


 「開けて。……そこ、開けてよ。開けてってば……」


 子どものような、男とも女ともつかない声が、延々と囁いていた。

 音声は次第にノイズにかき消され、最後に“ガタン”という大きな音で途切れる。


 その直後、またLINEが届いた。


> 「次は、川沿いの公園。」




 そこに添付されたストリートビューのURLを、俺はまだ、開くことができていない。



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