第三話「踏切」



 深夜二時、LINEの通知音で目が覚めた。

 画面を開くと、そこにはたったひとつのリンク。

 GoogleマップのURL。そしてメッセージは、こうだった。


> 「ここにいるよ。」




 開いた先は、日本の地方都市、●県の郊外にある小さな踏切。

 無人駅から少し離れた、地元の人間すら通らないような場所だった。


 ストリートビューのカーソルを進める。

 誰もいないはずの踏切に差しかかるその瞬間——画面の端に何かが“写った”。


 片足。

 白いスニーカーのような靴を履いた、足首だけがフレームにかかっていた。


 ……あの赤い家のときも、橋の下も、同じだ。

 誰かが、ストリートビューの中で“増えて”いる。

 そしてその“誰か”は、俺のいる場所を把握している。



---


 俺はまた動画にして投稿した。

 サムネイルには「実在する踏切に写る“足”」というタイトルをつけた。

 コメント欄は一晩で400件を超えた。


> 「この足、動いてない?」

「1フレームだけ位置が違う」

「線路の奥、なんかいる」

「踏切の名前、検索したら事故が…」




 興味本位の視聴者、オカルト好き、冷やかし、専門家を名乗る者。

 だが、ひとつだけ明らかだったのは、この場所に「本物」がいるという事実だ。



---


 数日後、俺はとあるニュース記事を見つけた。


> 【2021年10月】●県●市の無人踏切で死亡事故

早朝、男性(29)が列車にはねられ死亡

スマホで何かを撮影しながら踏切に進入したとみられる




 ……29歳。俺と同じ歳。

 事故の起きた日付は、ちょうど一年前のこの日だった。


 背筋が凍る。


 しかも、俺が踏切を調べていた前夜、動画を編集中に録画していたカメラが、勝手にONになっていた。


 その映像を確認した。

 誰もいない部屋に、明らかに誰かの足音だけが入っている。


 しかも、それはカメラのすぐ後ろから響いていた。



---


 その夜、またLINEが来た。


> 「あと7か所。」




 カウントダウンのようなその言葉。

 残り7話分の場所が、すでに“予定されている”のか。


 リンク先は、次なるGoogleストリートビュー。

 開いた場所は——墓地の中だった。

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