第二話「橋の下」
赤い女の動画を投稿してから一週間。俺はもう、まともに寝られていなかった。
天井のきしみ、突然の無音、モニターに映り込む“何か”。
気のせい——そう思いたかったが、コメント欄はそうはさせてくれなかった。
> 「早く橋の下に行って」
「赤い女はまだ見てるよ」
「Googleマップで●●川の●●橋の下、もう見た?」
どうやって探したのか。あるいは、何者なのか。
ただのイタズラだとしても、異常な連続性が気になっていた。
コメントにあった場所は、アメリカの●●州、郊外にある無名の橋。
航空写真でも一度拡大しないと出てこないような、川沿いの無人地帯だった。
——そして、問題の場所をストリートビューで開いた瞬間、俺は絶句した。
人がいた。
橋の下、湿ったコンクリートの空間。
そこに、顔が真っ赤に塗られた人間が、3人並んで立っていた。
ストリートビューの画質では判然としないが、明らかに人間の形。
しかも、1人だけがこちらを見て、笑っていた。
あり得ない。こんな不気味な画像、即削除されるはずだ。
にもかかわらず、今もそこにある。しかも……。
「……ちょっと、待てよ」
数時間後、俺はもう一度そのページを開いた。
キャッシュをクリアし、履歴も消し、別端末からアクセスして——わかった。
人の位置が、変わっていた。
最初は3人いたはずが、次に見たときには4人。
そしてその中の1人は、どう見ても俺に似ていた。
---
俺は、恐怖とともにその映像を撮影し、動画を編集して投稿した。
予想以上の反響があった。コメントも再生数も、赤い家のときより多い。
だが、動画に違和感があった。
編集時には使っていないSE(効果音)が挿入されていた。
カサッ、カサッと、何かが這うような音。
しかも、それは毎回俺が黙った直後にだけ入っていた。
---
そして、その日の夜。
誰もいないはずの廊下から、スマホの着信音が鳴った。
——俺の番号だ。
ベッドの上で凍りついたまま、スマホを確認した。
画面には**「はると」**という名前。俺自身の名前。
発信元も、俺の番号と一致していた。
着信を切った瞬間、LINEに通知が入る。
> 「見つけたよ。」
「今度は、踏切。」
添付されたURLは、Googleマップだった。
開いた先は、日本のとある地方都市、●●県のローカル線沿いの踏切。
そこには、誰もいないはずの線路に、片足だけが写っていた。
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