覗くストリートビュー

ロロ

第一話「赤い家」



 俺の名前はハルト。登録者数5万弱の底辺YouTuberだ。

 ジャンルはホラー、心霊、都市伝説。要するに“ネットでちょっと怖がられそうなもの”なら何でも食いつく。

 この業界、生き残るには話題と再生数がすべて。だが最近、チャンネルが伸びない。限界を感じていた。


 だから、賭けに出た。


 それが、**「Googleストリートビューに映った“赤い家”の謎を追う」**という企画だった。



---


 最初にその家のことを知ったのは、海外の掲示板だった。

 場所はアメリカ・テ●サス州の郊外。真っ赤なペンキで塗られた家。ドアも、壁も、ポーチの柱も。

 そしてストリートビューに写っていた一枚の画像——それがやばかった。


 玄関前に、全身真っ赤な女が立っていた。


 血のような赤いペンキを全身に浴びたような風貌で、カメラのほうを真っ直ぐに見ている。

 その投稿には「誰が撮ったか不明」「ストリートビューが急に切り替わる」「家の住所が今は検索できない」などの不気味な噂も書かれていた。


 俺はその情報をもとに即、動画を撮った。

 実況しながらその家をストリートビューで追う。家の正面、周囲の道路、カメラの進行方向。細かくスクロールしていく。


 ——そして見つけた。


 赤い女が、別の場所にも立っていた。


 さっきまで玄関にいたはずの女が、少し離れた角にもいる。まるでストリートビューの撮影車を追っているかのように。

 普通、同じ人間が違うカットに同時に写ることなんてない。撮影タイミングが違うにしても、不自然すぎる。


「……これ、マジでヤバいかも」


 カメラに向かってそう呟いたとき、不意に画面がブラックアウトした。

 一瞬、電波かと思った。でもWi-FiもPCも正常。

 映像が戻ったとき、ストリートビューはズームインされ、女の顔が画面いっぱいに表示されていた。


 ……クリックしてない。

 いや、そんな操作できる仕様じゃない。


 心臓が跳ねた。

 けど、こういう“事故”も、動画的には美味しい。


 俺はそのまま撮影を続け、動画を投稿した。

 タイトルはこうだ。


> 「【閲覧注意】ストリートビューに写った“赤い女”が動いた【マジでお祓い案件】」





---


 そして投稿から三日後。

 コメント欄に妙なことが書かれ始めた。


> 「7:44に誰か映ってる」

「8:02、ハルトの後ろに女いる」

「10:13、玄関のシーンで“顔”がある」




 いや、そんなのいない。編集で確認した。

 ……本当に、いなかったはずだ。


 俺は動画を再確認した。再生バーを操作しながら、問題のタイムスタンプを見ていく。


 そして、凍りついた。


 いた。


 7:44。窓に“赤い女”が、外から覗いていた。

 8:02。俺の部屋の背後、ドアの隙間から誰かが立っていた。

 10:13。編集時に入れていない画像が、ストリートビューの画面上に挿入されていた。


 全部、投稿後に勝手に入り込んだとしか思えなかった。



---


 俺は背筋を冷たくしながら、YouTubeの管理画面を開いた。

 チャンネル名の横に、**「無効なアクセスの疑い」**という警告が表示されている。

 ログを見ると、俺のIPアドレスとは別の場所から、頻繁にアクセスがある。

 しかも、国が——アメリカ、テ●サス。


 ……あの“赤い家”の、場所だ。



---


 翌日、YouTubeから突然の警告メールが届いた。


> 「あなたのアカウントに異常な操作が検出されました。

 該当する映像は社内審査により、削除対象とさせていただきます。」




 だが、その動画はまだ再生可能だった。

 コメント欄の一番上に、固定されたコメントがあった。


> 「次は、“橋の下”に行って。」




 俺はそのコメントをクリックした覚えがないのに、次のページが自動で開いた。

 Googleストリートビューの、川沿いの橋の下。


 そこには……人が、並んでいた。


 全員、顔が真っ赤に塗りつぶされていた。



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