第19話 つっかかりパーティーとの遭遇



 眠りについたシャックスは前世の夢を見る。


 それはどこか暗い場所にいる夢だった。


 二十代頃の姿をした英雄ゴロはたった一人で暗い場所を歩いている。


 いつも彼の周囲にいた仲間達はいない。


 それどころか、王や王妃、普通の市民、虫や動物などの生き物の気配しなかった。


 それはいつまでたっても変わらないまま。


 ゴロは段々心細くなり、頻繁に周囲を見回すようになるが、それでも何もなかった。


 何度か立ち止まって、無為に時間が経つのを待っていたが、何かが変わる様子はない。


 だから、それなら前に進むべきだと思い、ゴロは足を動かす。


 そうして歩き続けたゴロの先に立っていたのは魔王だった。


 ゴロは、気が付いたら老人の体になっていた。


 魔王はゴロを睨みつけながら、何事かを叫んでいる。


 その言葉の一部を聞き取ると、魔王が「呪ってやる」と言っていた。


「お前達が孤独になるように呪ってやる。お前達が、お前達同士敵意を抱くように呪ってやる。彼女の傍にいた者達は皆、呪ってやる。未来永劫不幸にしてやる」


 魔王の言葉は全てゴロにぶつけられたものだったが、呪いの対象はゴロだけでなかった。


 魔王は俯いて、少しだけ辛そうな声音で言葉を続ける。


「知らなかったんだ。彼女の子供だなんて。ならどうすれば良い。間違いを修正しなければ。これは間違いだ。だから、どうにかして修正しなければ」


 自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いていた魔王を見て、ゴロはどうするべきか悩む。


 それは、命を懸けてたたかってきた魔王とは思えない弱々しい姿だったからだ。


 しかし、魔王は何かしらの結論を心の中で出した。


 顔を上げた魔王とゴロは戦いになり、数時間ほど命のやり取りをかわした。


 ゴロは愛用していた金色の剣と銀色の剣を使って、戦う。


 魔王は闇色の魔力でゴロを翻弄する。


 しかし、実力はゴロの方が上だったため、魔王は重傷を負う。


 息も絶え絶えな魔王はゴロに向けて手を向けると、そこから紫の靄が放たれた。


 それは見るからに禍々しい色をしていた。


 それは魔王が倒れる前の最後の攻撃だった。


 魔王はその後、霧散していく。


 ゴロは魔王が放った紫の靄を避けられずに当たってしまう。


 ゴロは体を動かそうとしたが、硬直して無理だったのだ。


 靄に当たったゴロは衝撃を感じなかった。


 しかし、表面を通り抜けるようにゴロの体の中に入った靄は、魂を浸食していった。


 ゴロは言い表しようのない不快感を覚えて、額から汗を流し、その場に膝をついた。


 目を閉じたゴロは、しばらくしてから瞼を上げた。


 すると、周囲の環境ががらりと変わっていた。


 ゴロの周りには、親しい者達がいる。


 セブン、アンナ、ニーナ、サーズ、フォウが。


 しかし、彼らはゴロに敵意のこもった視線を向けて、罵倒した。


 それらを目の当たりにしたゴロは、魔王の呪いを悟る。


 魔王はゴロが周囲から憎まれ、軽んじられるように呪いをかけたのだ。


 その呪いは時間が経過すれば強まり、互いを憎しみ合うように作用するものだった。


 やがて、ゴロはその場で倒れて、透明になり、体が消えていった。


 ゴロは意識だけの存在となる。


 そこに残ったのは、セブン、アンナ、ニーナ、サーズ、フォウだ。


 彼らは、自分達が戦いに駆けつけられなかった事を深く悲しんだ。


 その後、呪いを研究したが、彼等はその呪いが転生した後も続くと知って愕然とした。


 彼等は呪いを解く研究を急いで進めたが、それは半分間に合わなかった。


 アンナ、サーズが寿命で死んだからだ。


 呪いを解くことができたのは、セブンとニーナ、フォウの三人だけだった。


 彼等は寿命で眠りにつく。


 葬儀が行われ、多くの人が悲しんでいる。


 離れた所に立っている男性の老人が悲しそうな顔をしていた。


 その人物は、どこかハクと似た顔の男性だった。





 翌朝、起きたシャックス達は、夢の内容を忘れていた。

 沈痛な表情でハクやノース達を探しに行く。


 しかし、発見したのは大量の血痕と、散らばった装備品、地面に落ちた体の一部だった。


 ノースの右腕と、無骨な男性の右足、誰かの左手、女性の頭部、女性の左腕が見つかった。


 それを見たシャックス達は全滅したと判断する。


 シャックス達は何も言わずに、無言でタグを回収していく。


 墓を掘る時間も体力も消費できないため、すぐにテントを片づける。


 アーリーが「きちんと弔ってあげられなくてごめんね」と一言謝った。


 シャックスはノース達の顔を思い浮かべた。


 そして、良い人はすぐに死んでいくなと考える。


 前世でもそうだったからだ。


 シャックスは最後にハクの顔を思い浮かべる。


 ハクと話す事はもうないのだと考えると、シャックスの胸が痛んだ。


 シャックスは胸の前で拳を握りしめ、探索を必ず成功させようと決意を固める。




 テントを片づけて出発するシャックス達。

 気分も雰囲気も重かった。

 ナギとロックが歌でも歌おうかと言い出したが、選曲が悪かった。

 死んだ人間の魂が、死神に連れていかれる歌だった。


 ナギが「その選曲はないです」と言った。

 シャックスが「同感」と言い、アーリーも「右に同じく」と続ける。


 おまけにロックは酷い音痴だったので、もう歌うなと言われてしまう。

 ロックが項垂れて、ナギが励ました。


 だが、空気は少し軽くなった。




 それから探索を少し進めるが、そんなシャックス達にちょっかいをかける者がいた。


 それはロレンス達だ。

 ロレンス達のパーティーにはサーズが加入していた。


 探索開始の時は一緒にいなかったため、出発後に加入したのだった。


「何だ、そこにいるのは平凡パーティーじゃねーか」


 ニヤニヤしながらロレンスが声をかける。


「あの師匠にこの弟子か、ぱっとしないパーティーだな」


 どうやらロレンスは、セブンを知っていて、彼女にも恨みがあるらしい。


 アリーはむっとしながら言う。


「そのぱっとしないパーティーと同じ速度で進んでいるそっちは何してたのよ」


 ロレンスは、珍しいモンスターを追いかけて戻ってきただけ、今も探しているから邪魔をするなと言う。

 シャックスはしないと言うが、信用されていなかった。


「どうだか。お前は信用できないな」


 暴言に耐えかねたように、アーリーの額に青筋が発生する。


「邪魔してほしくないならモンスターの事なんか、言わなければ良かったじゃない」

「思ったより口が迂闊なんだな」


 それは遠回しに頭が悪くて、短絡的だと相手を罵ったのも同然だった。


 アーリーとシャックスがそう言ったら、ロレンスが「俺を侮辱するな、こうなったら決闘だ!」と切れた。


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