第20話 なつき鳥


 ロレンスと決闘する事になり、シャックスは呆れる。

 探索を進めなければならないにもかかわらず、身内同士で足を引っ張る事が愚かに感じられた。


 それは家族に殺されかけたシャックスには、無視できない事柄だ。

 しかし、だからといってロレンスに敵意を向けるのは、時間の無駄であり、精神力の無駄である。


 シャックスは、決闘を適当にやって負けたら、満足して去るだろうかと考えたが、アンナやサーズたちの事を思い出す。


 彼らは、自らの悪事や悪戯で人が弱っている所を見ると、それで満足せずにどんどん調子に乗っていったからだ。


 シャックスは仕方なく勝つ気で決闘に応じる。


 ロレンスが満足げに笑う。


「ようやくやる気になったようだな」


 シャックスは開始の合図を待つことなく、ロレンスに風魔法をぶつけようかと思った。

 しかし、自分の行動のせいでアリー達に迷惑はかけられないと自重する。


 審判役の男性がロレンス達のグループで挙手し、シャックスとロレンスの間に立つ。


 シャックスとロレンスは互いの様子を窺い、その間風が吹いた。


 木の葉が何枚か2人の近くを飛んでいった後、審判の男性が「開始」と合図の言葉を放った。


 ロレンスは開始そうそう魔法を使いまくった。


 ロレンスは雷系の魔法が得意で、いくつもの雷撃が飛んでくる。


 その威力は、同年代と比べると優秀だった。

 しかし、ワンドと比べると比べ物にならなかったため、シャックスは動揺しない。


 シャックスが雷撃をいくつか避けると、ロレンスがイライラし始める。


 ロレンスは次に炎の魔法を使った。

 それらをシャックスは避けるが、背後にある近くの木に燃え移った。


 そのため、ナギがぼやきながら水の魔法で消化している。


 シャックスはそろそろ決着をつけようと考える。

 風魔法を使って、木の葉を巻き上げ、目くらましをし、その瞬間に移動。


 シャックスはロレンスの背後に異動していた。

 数秒にも満たない時間で、風魔法を使い、ロレンスを近くの木にぶっ飛ばした。


 ロレンスは気絶して倒れこむ。


 他の者達がロレンスに駆け下り、介抱をした。

 

 その中でも、介抱に参加しないサーズが、シャックスの顔を凝視している。


 何か言いたそうな不満顔だったが、何も言わずにロレンス達の元へ合流した。






 決闘が終了した後、速やかにその場から離れるシャックス達。

 ナギはシャックスに話しかけてくる。


「気のせいだったら申し訳ないのですが」


 ナギは、シャックスの立ち振る舞いが、貴族っぽかったと言った。

 ナギは元貴族だったらしい。

 双子だったが、敗北して一般市民になったという。


 しかし、幼馴染が病気になっており、高価な薬草を手に入れるため、貴族になりたいという。

 それで手柄を立てようとしていたのだった。


 ナギとシャックスは貴族の悪習についてしばらく話をした。


 家を守るため、格を守るため、貴族はしばしば家族を切り捨てる。


 そういった考え方や習慣を二人はばかばかしいと考えていた。


 シャックスとナギは互いに今までそういった価値観を同じくする者に出会えなかったため、この出会いを喜んだ。





 途中、雨が降ってきたため、一度巨大な木の下で雨宿りをした。


 怪我をした赤い鳥が、アーリーになついてすり寄ってくる。


 アーリーは不思議そうに小首をかしげた。


「可愛いけど、親鳥とかいないのかしら」


 ナギがそれを見て、アーリーの髪についている羽をつまんだ。


 その羽は赤い羽根で、鳥から抜けたものだ。


 ナギが調べてみると、羽からは甘い匂いがした。


「おそらく、私達には分からない匂いで親か仲間だと思っているのでしょう」


 シャックス達は直前に鳥型のモンスターとやりあっていた。

 その影響かな、とアーリーは首を傾げる。


 ひ弱な鳥を攻撃する気になれなかった彼女は、鳥の頭をなでてあげた。


 雨にぬれて寒そうにしていたため、アーリーが温めようとする。


 しかし、何か未知の病気を持っている可能性もあると、シャックスが止めた。


「病気で倒れたら、探索を続けられなくなる」

「そうね。じゃあ」


 アーリーは考えた後、乾いた葉っぱを探して、間接的に鳥を包んだ。


 鳥は少し震えていたが、やがてその震えは止まった。


 しばらくすると雨が止んだため、シャックス達はその場を移動する。


 残される鳥が可哀そうだと思ったアーリーは、鳥型モンスターから採取した羽をあげて、その場を去った。


 赤い鳥は寂しそうにぴーぴーと鳴いたが、シャックス達は振り返らなかった。


 アーリーだけが一度だけ振り返って「ごめんね」と謝った。


 シャックス達が立ち去った後、灰色の髪の少年が、小鳥に近づいていく。




 探検の最中、シャックス達は特殊なモンスターと出会う。


 それは、明らかに通常の個体とは異なる体格だった。

 巨大なトカゲ型モンスターで、体を震わせて鱗を飛ばしてくるのが特徴だった。

 

「この個体とは会った事が無い、慎重に戦おう」


 始めて出会った個体でもあるため、シャックス達は素早く決断する。


 モンスターから距離をとることにした。


「遠距離なら私の弓で。ちょっとストレスたまってるから激しめにいくわよ」


 アーリーが気合を入れて、攻撃する。

 直前にあった鳥との別れの事を気にしていたからだ。


 シャックス達は、十分に距離をとってモンスターと戦うが、その相手は強かった。


 徐々に開いていた距離が縮まり始める。


「気をつけろ。こいつ、結構強い!」

「みたいですね。気を引き締めていかないと」


 ロックとナギが大きく声を上げた。


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