第11話
その日の深夜。部屋の中にずっといても暇だろうからとシャロンの口添えで明日の昼、騎士たちの演習に参加出来ることになった悠希は早々に眠っていた。そんな悠希が寝ている部屋の窓から一人の男が静かに中へと入ってきた。どうやら悠希はお城の中だし、換気の為に少し窓を開けて眠ってしまったらしい。窓から差し込む光はあるものの薄暗い部屋の中を男は迷いなく歩き、悠希へと近づいていく。
「…誰?」
その気配に気がついた悠希は目を覚まし、慌てたように上体を起こしたが月の光が逆光になっていて誰がいるかまでは確認できなかった為、口を開いた。
「……お休み中、申し訳ありません。僕はシルヴァ・アンダーソン。貴方が昼間見ていた中庭にいた人物の一人です」
入ってきた人物はシルヴァでシルヴァはそんな悠希に向かって一礼をする。
「シルヴァさま…?」
昼間聞いた声を聞いて入ってきたのがシルヴァだとわかった悠希はほっとしたあと、シルヴァがいるであろう方向を見つめた。
「呼び捨てでかまいません」
シルヴァは近くにあったランタンに火を灯した。
「え、呼び捨てでもいいんですか?」
貴族なのに呼び捨てでもかまわないのかと悠希は控えめにシルヴァを見つめた。
「流石に公式の場ではあれですけど僕は身分とかそういうのに固執していないので…それより僕は貴方に聞きたいことがあって忍び込んだんです」
シルヴァは悠希に向かって微笑んでみせた。
「…貴方がユフィさまのご友人として城に滞在していることは調べがついています。もしやユフィさまに恋をしていて…とかではないですよね?」
そして直ぐに笑みをといて怖いくらい真剣な顔つきになったシルヴァはその顔を悠希へと近づけた。
「恋…?違います!確かに友人としてこの城に滞在はしていますが恋をしている訳じゃありません!詳しくは言えませんが滞在している理由は他にあるんです!決して邪魔するつもりはありません!」
悠希は全力で否定をし、首を横に振った。
「…そうか…よかった」
シルヴァはほっとしたように悠希から顔を離した。その表情を見て悠希は夜遅くに忍び込んで言いに来たということはユフィに恋をしているからかな?と思った。
「応援してますから!」
そしてその勢いでユフィと恋仲となり、即位式が完了すれば薬を持って帰れると思い、悠希は発言をする。
「…本当?ならレイン殿とユフィ様との仲を取り持って欲しい!」
シルヴァはその発言にぱぁっと表情を明るくさせた。
「え、シルヴァ…とユフィ様の応援ではなく?」
悠希は困惑したようにシルヴァを見つめた。
「…あのお二人は見る限り両想いなんです。ですがレイン殿が拒否しているようで」
シルヴァは悲しそうな顔をする。
「え!両想いなんですか?」
悠希は驚いたように口を開いた。
「レイン殿はユフィ様が幼少の頃からずっと支えてきたんです…二人が揃った姿は尊いんです!結ばれて欲しいんです!僕が候補としているのはあくまでイザーク殿からユフィ様をお守りするため…候補が一人になれば、必ず彼は暴走してしまうでしょうから…」
シルヴァは昔を懐かしんだあと、必死になって説明をした。それを聞いた悠希は中庭でのイザークの態度を思い出し、納得する。
「だからお願いします。表立って動けない僕のかわりにレイン殿が拒否する理由を探って欲しい。そしてあわよくばあのお二方を結ばせてください!」
シルヴァは深々と頭を下げた。
「っ…頭をあげてください!探って欲しいと言われても俺は部外者みたいなものですし、堂々と探るのは…」
そんなシルヴァを見て悠希は慌て、困惑した。
「…呪われた子」
シルヴァは頭を下げたまま静かに呟いた。
「呪われた子?」
悠希は唐突になんなのかと思わず、復唱してしまう。
「先程、中庭でも聞いているはずです。レイン殿に向かってイザーク殿が言っているのを…何のことを言っているのか僕にはわかりません。ですが少し前からイザーク殿はレイン殿を呪われた子扱いしているのでもしかしたらそれが原因なのかもしれません…」
シルヴァは頭を上げながら答え、悠希を見た。
「呪われた子…わかりました。できるだけやってみます」
悠希は少しだけ考えたあと、小さく頷いて返事をした。
「ありがとう!それじゃ僕はこれで…流石にこれ以上いると屋敷の者に気が付かれて騒ぎになってしまう…」
シルヴァは悠希が応じてくれたお陰でニッコリと微笑んだあと、姿を複数のコウモリへと変えて窓から飛び去っていった。
「呪われた子か…」
それを見送ったあと、悠希はランタンの火を消した。
「……明日、シャロンさんに聞いてみよう」
悠希は再びベッドへと身を預けるように寝転がり、明日の為にと再び目を閉じて眠りについたのだった。
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