第6話 遭遇
物凄い派手な音で俺が吹っ飛ばされた。
女性の方が物理的に与し易いと思ったのかシリアに向かってオッサン冒険者は殴りかかってきたんだけど……。
勇者のステータス考えたら、こんなの全然問題ないだろうけどね。
だからといって彼女が殴られるの黙って見てるはあり得ないよね。
なので割って入ったら、思ったより威力強かったんで下手に踏ん張らないで、ダメージ軽減するのに飛ばされておいた。
……うん、馬車の中なの考慮してなかったね。
壁にぶつかってそのまま床に突っ伏したよね。
「いやぁぁぁぁ! レンくぅぅぅん!」
シリアが俺に抱きつくように覆い被さってきた。
「え! いや、そこまで酷くないよ、大丈夫」
うん、見た目は派手だけどほとんどダメージないし。
「これが……これがお前たちのやり方かぁ!」
「シリア、シリア、落ち着いて」
「レン君の仇は私が討つ!」
「シリア、俺死んでないよ! ちょ、待って! マジで待って!」
殺気がオーラとなって溢れ出してきてるよ!
ヤベーよ! ヤル気満々過ぎるよ!
てかオッサン達、なんでシリアの殺気に気づかないで、のほほんとしてるんだよ!
え!? もしかして気付けないくらいレベル低い?
……分からないって罪だな。
相手の実力感じ取れないのは、冒険者として大丈夫なんだろうか?
他人事だけど、ちょっと心配になるな。
「きゃ」
突然馬車が止まる。
その勢いでシリアもバランスを崩した。
どさくさに紛れて俺に抱きついているだけに見えるのはきっと気のせいだ。
「おい、仕事だぞ! 前だ!」
御者台から声がかかった。
今回の行商人の編成は馬車三台で前後一台に商品と見張りの人間、中央一台に俺たちが乗って前からでも後ろからでも何かが来れば対応出来るようになっている。
規模に対して護衛が少ないが、比較的整備された街道なので盗賊も居ないしモンスターもそれほど強いのは出てこない。
「ふん! 俺たちだけで護衛は充分なんだよ! 後から入り込んで来やがって! 黙って見学でもしてろ! てめぇらに分け前なんざ渡さねねぇからな!」
分け前ってのは戦闘した事による特別手当の事だろうな。
俺たちが戦闘に参加しなけりゃ、向こうが全部持っていけるもんね。
別に俺はそれでも構わないけどねぇ。
あ! でもシリアの経験値稼ぎは出来るか。
「シリア、俺たちも行こうか」
「えー、行かなくて良くない? あのおじさんも来るなって言ってたし」
「いやー、さすがに行かないのはマズイと思うんだよね、見てるだけでも良いから一応前には行こう、ね、ね。」
「そう? うーん、レン君がそう言うなら行くけどー」
だいぶ不満そうだなぁ。
あんな態度だったしねぇ、気持ちは分かるけど、あんまりあの人達強そうじゃないから万が一って事になったら、俺たちも何もしませんでしたって訳いかないしねぇ。
「はぁ、はぁ、はぁ、どうだ! 俺たちの実力は!」
ちょうど俺たちが前に行ったタイミングでオッサン達が遭遇したモンスターを倒したみたいだ。
「オーク三体かぁ」
妖鬼とか鬼族とか呼ばれる分類のモンスターで、同じ系統のゴブリンやコボルドよりはかなり強いけど、どっちかというと初心者向けのモンスターだ。
耐久力と一撃の破壊力は高いけど、ノロイ。
三人がかりで三体倒しただけなのに肩で息してるのは……やっぱりそういう事かぁ。
……マズイな。
「シリア、戦闘準備してもらって良い?」
「え? なんで? もう終わったんじゃなくて?」
「うーん、多分終わってないと思う」
てか、みんな気配察知出来なすぎじゃね?
この時点で気づいてるの俺だけとかヤバいでしょ。
「えー、でもあのオジサン見てろって言ってたよ?」
「いやぁ、さすがにシリアが参加しないとあの人達死んじゃうかも」
「冒険者ってそういうお仕事なんだから仕方がないんじゃない?」
「う、うん……正論なんだけど、シリアが助けに行けばみんな死ななくて済むよ?」
「えー、助けなくて良くない?」
あれ? シリアってば嫌いな人にはどこまでも冷たく出来るタイプ?
「お前らなに後ろでなにごちゃごちゃ喋ってるんだ!?」
オッサン冒険者が俺たちの方を向いて威嚇気味に話しかけてきた。
俺は無言で前方を指差す。
多分、そろそろなんだよねぇ、気配的に。
「ああん?」
前方に向き直ったオッサンの視界にも一匹目のオークが藪の中から出てくるのが見えた。
「なんだ、まだ居たのか! おう、もうひと稼ぎするぞ!」
オークに向かって近づいて行こうとするオッサンパーティの三人。
その瞬間ガサガサと音がして更に二体のオークが出てくる。
「オーク三体か……」
オッサン違うよ。
三体じゃないよ。
より一層大きな音がして更に五体のオークが出てきた。
「な! オーク八体だと!」
違うよ。
八体じゃないよ。
薮全体が震えるような音と共に次々とオークが現れる。
「な、な、なんなんだ! 何体いるんだ!」
二十体くらいじゃね?
「無理だ……こんな数無理だ……」
オッサンが後退りし出した。
「ねぇ、やっぱりシリアが戦わないとみんな死んじゃいそうなんだけど」
「うーん……でも、あの人達レン君に酷いことしたし」
ふぅ……仕方がない。
俺が奥義を見せるしかないか……。
刮目せよ!
奥義! ローリングムーヴ!
「お〜っと、ツマズイタ〜」
俺の完璧な演技と共に見えない何かに急につまづいたふりをして前方に転がる。
「え! レン君? レン君!」
勢いよく転がってオッサン冒険者達を追い抜きオークの目の前まできたところで、気合い一発!
「ウワ〜コロサレル〜」
シリアに聞こえるように大きな声で朗々と叫ぶ。
「きゃぁぁぁ! レン君今助けるから!」
シリアが物凄いダッシュでオークも前までやってきた。
怖い、一瞬にしてこの完璧な作戦を遂行出来る自分の才能が怖い。
オークvs勇者の始まりだ!
ー とある闇の組織 ー
「また魔王から書状が届いておりますが……」
「……仕方がない、向こうとの連絡が取れないという事にしよう」
追い詰められた組織幹部は典型的なダメ上司ムーブをかましだしていた。
ー 魔王城王室 ー
「遅い、出来ないにしても、出来ないという報告はあってもいいじゃないか?」
魔王は待ちくたびれていた。
次の更新予定
大好きな彼女はポンコツ勇者 ー 裏では全部俺がフォローしてます ー 山親爺大将 @yamaoyajitaisho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。大好きな彼女はポンコツ勇者 ー 裏では全部俺がフォローしてます ーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます