第5話 出立

「おい! 切るな! おい! お……」

 くっそぉぉ、一方的に切りやがった!


 まぁ、それでも時間に猶予は出来たようだし、今のうちに勇者を鍛えておこう。

 組織だって馬鹿じゃ無い、流石に一年や二年で準備出来るようなものじゃないって事くらい魔王に説明するだろう。


 その間にこちらが強くなって仕舞えば良いだけの話だ。

 思ったより時間が無いな……。


 ふぅ、気持ちを切り替えて彼女を迎えに行くか……。



「すまぬが此度の試練において、国からの援助は一切ない事になった」

「ふぇ?」

 王城に逗留している彼女を迎えに行ったら、宰相にいきなりそう言われた。


 有り得なくね?

 流石に……。


「あー、まことに申し訳ない……王に対する勇者殿の発言を看過出来ぬものが相当数おってな……手助けしては試練にならぬと申してるのだよ」


 あーそれは……ぐうの音も出ないな。


「拝領するはずだった剣もな……勇者殿の要らないという言葉を耳聡く聞いていたものがおってな……」

 なんか、いきなりハードモードスタートになった……。


「あ、せめてもの便宜として冒険者ギルドに登録すれば最低のFランクでは無く護衛任務が出来るDランクから始められるように話は通してある」


「なるほど、護衛任務をこなしながら、お金と移動距離を稼げと」

「そういう事じゃな」


「しょうがないかぁ」

 不敬罪で処刑しろと言われなかっただけマシって思っておこう。


「そういう事で勇者殿を連れて冒険者ギルドに行ってくれ」

「はは! 仰せのままに」

 ちょっと芝居がかった感じになっちゃったかな。

 まぁ、これくらいの煽りは許容範囲でしょ。



 ー 冒険者ギルド ー


「すごいね! なんか怖そうな人いっぱいいるね!」

「あ、うん、間違って無いけど、そういう事は小さい声で言った方がいいかな」

 何人か今のでジロッて睨んできたしね。


 余計なトラブルは出来るだけ避けたい。


「あのう、すいませんこれなんですけど」

 登録受付のカウンターで宰相から貰った書類をお姉さんに渡す。


「ん? ああ、こちらにどうぞ」


 めちゃくちゃ無愛想に別室に案内された。

 俺なんかしたぁ?

 いや、初対面だしそれは無いかぁ。


「お話は聞いてますこれどうぞ」

 丁寧に勇者にDランクの冒険者証を渡す。

 投げ捨てるかのように俺にFランクの冒険者証を渡す。


 あら?


「すいません! 俺のランクFなんですけど、これって護衛依頼受けられないと思うんですが」

「勇者様の随行員として登録してあるので、勇者様が居ればどんな依頼にでも同行出来ます」


「あ、なら良かった」

「ただし! パーティメンバーでは無く随行員ですので、依頼達成してもギルドへの貢献度は上がりません! 一生Fランクの冒険者です」


 なんか当たりキツ!


「あのぉ、俺ってどういう立場だと思われてます?」

「勇者様に取り入って、おこぼれに預かる最底辺ヒモ男」

 思ってたより酷かったー!

 そして、このお姉さん歯に衣着せぬタイプだったー!


 そうだよなぁ、周囲から見たらそう見えるよなぁ。

 泣きたい。


「レン君、ヒモ男ってなぁに?」

「あ、うん、ヒモを操るのが上手な人の事だよ」

「へぇ、そうなんだ」


 ギリ嘘は言ってない。


 ー 馬車内 ー


「なんか、二人で旅行なんてウキウキしちゃうね!」

「あ、うん、旅行っちゃ旅行なんだけど……」

 ノリノリの彼女が行商人の馬車の中でキャッキャしてる。


 うう、別パーティの三人組からの視線が痛い。


 元々三人組が請け負っていた護衛依頼に俺たちを強引に捩じ込んだ感じなので、最初から印象悪かったんだけど……。

 シリアの無邪気な言葉でこめかみ辺りの血管がピクピクしてる。


 どうか、余計なトラブルが起こりませんように!


「レンく〜ん、お尻痛くなってきたぁ」

「頑張って我慢しようね」


「レン君のお膝に乗っていい?」

「いやぁ、流石にそれはまずいかなぁ」


「どうして? 私そんなに重く無いよ!」

「シリアは重く無くても装備がねぇ……」


 勇者には金属鎧適正というものがある。


 金属の部分が増えるほど、希少金属になるほど、様々な能力がプラスに補正される。

 また、重量に関するペナルティは一切受けない。

 つまり本人は金属鎧を着ても重さを感じないのである。


 流石にフルプレートを買う余裕が無かったので、ブレスト部分とスカート部分が金属の一般的にハーフプレートと呼ばれるアーマーを着ているのだが、それだってかなり重い。


 その状態で膝に乗られたら、俺の膝がお亡くなりになる事間違いなしだ。


「じゃあ、脱ぐね」

「うぉぉい! ちょっと! ま、待ったぁ」


「どうして?」

「みんな見てるでしょ、その中ってインナーだけでしょ?」


「大丈夫よ、レン君のお膝に乗って、レン君の方を向いて、レン君にギュってすれば見えないよ」


「おい、いい加減にしろよ! テメェら遊びじゃねぇんだぞ!」


 あーやっぱり怒られるよねぇ


「あ、はい、すいま...」

「なんで怒るの? 私達あなたに何もしてないよ?」

 おおう! シリアったら正論ぶち込んできた!


「目の前でイチャイチャしやがって目障りなんだよ!」

「どうして? 嫌なら見なければ良いじゃなくて? 羨ましいの? おじさんも大好きって言ってくれる人出来たら良いのにね」


 どえらい内容ぶっ込んできた! やばい、あのオッサンキレるかもしれない!


「シリア、シリア、そういう事は言っちゃダメだって」

「えーどうして? 私達が愛し合っても誰にも迷惑かからないじゃない」


「いや、まぁ、そうなんだけど」

「あのおじさんがモテなくて彼女居ないのは私達のせいじゃ無いよ」


「だから、そういう事は言っちゃダメだって」

「事実じゃない」


「事実だから逆に言っちゃダメなんだって!あのむさ苦しいオッサンがただの嫉妬でこっちにケンカ売ってきちゃうだ……ろ……、あ! 全部言っちゃった」


「て、てめぇ! ぶっ殺してやる!」


 ドガァァンと床に何かが派手に打ちつけられた音がした。


 ー とある闇の組織 ー

「はぁぁ、まいった...あいつにはどう説明するか...いっそ連絡ミスという事で放置してしまうか……」

 上司と部下の間で色々悩む中間管理職のようになっていた。


 ー 魔王城王室 ー

「ふふふ〜ん♪ まだかなぁ♪ 布告の準備まだかなぁ♪」

 呑気に待ち望む魔王だった。



【後書き】

 お読み頂き、ありがとうございます。

 この作品はカクヨムコン参加作品です。

 カクヨムコンは星の獲得が非常に重要になりますので、少しでも入れて頂ければ作者は泣いて喜びます。

 この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思ってくださった方は↓の『☆☆☆』を『★★★』に評価して下さると本当に助かります。

 よろしくお願いします。

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