第4話 手紙

「はぁぁぁぁ」 

 盛大にため息が出た。


 このタイミングで俺に手紙をだす相手なんて一箇所しか無いし、内容も読む前から碌でも無い事が容易に想像がつく。


 ここでちょっと昔話をしたい。


 ある所に魔王に協力する人間勢力側の闇の組織がありました。

 そこの大幹部にユニークスキル『預言』持ちがいました。

 その大幹部が言ったのです。

「オーゴエ村から六年後勇者が現れる!」と。


 その組織はその村で最も勇者になる確率の高い子供を買い取ることにしました。

 そのものが勇者になれば良し、そうじゃなくても同じ村の者として勇者を懐柔しこちら側に寝返らせる。

 それが無理なら勇者を暗殺する。


 もう分かると思うけど、その組織に買われた子供が俺!

 今回村に戻って来たのも組織の命を受けての事なんだよね。


 組織的に誤算なのが、俺が優秀すぎて洗脳失敗してる事だけどな!

 俺はこの組織が嫌で嫌でしょうがなかった。


 今回の俺の真の目的は勇者と協力して、この組織をぶっ壊す事。

 その為に懐柔して、親密になって、仲間として認められよう!

 そんな事を考えていた。


 俺は自由が欲しいんだ!

 って、意気込んで村に戻った訳だけど……。


 よりによって、シリアが勇者に選ばれてしまった……。

 事情を話せば彼女は喜んで協力してくれるだろう。


 だが、相手は闇の組織、人としてどうかと思う手段だって平気でとってくる。

 流石にあの子の手をドス黒く血塗られたものにしたく無い。

 闇堕ち彼女とか求めてないし。


 なので、俺は次善の策を用意することにした。

 勇者を鍛えて魔王を討伐し、組織の存在意義自体を無くす。


 正直こっちの方が大変だが、正々堂々と王道を進む事ができる。


 彼女を正攻法で強くしよう!

 改めて、そう決意しながら手紙を開封した。


「……ふぅぅ」

 あれ? 疲れてるのかな?

 全然手紙の内容が頭に入って来ない


 暗号化されているが、解読自体は簡単だ。

 組織で散々訓練されてきたしな。


「…………」

 いやいや、そんなわけ無い、解読の仕方間違ったかな。

 もう一回ゆっくり読んでみよう。


「………………な、な、何だってぇぇぇぇぇ!」

 やば! 思わず大声が出てしまった。


 まぁ、この宿も組織の息がかかった宿だし、よっぽどの事じゃなきゃ見過ごしてくれるだろうけど。


『マオウノフコクノジュンビヲセヨ』

 解読したらこんな文字が出てきた。


 どう解釈しても『魔王の布告の準備をせよ』としか読めない。


 何か、何か、違う解釈出来ないか!?

 ……

 ……

 ……

 ダメだぁ! どう頑張っても他の解釈出来ねぇぇぇ!


 え? 何考えてんの? 俺言ったよね? 勇者に同行するって!

 と、とりあえず、『布告』の手順を思い出して整理しよう。


 まず、岩から抜かれた聖剣の前に……どわぁぁ! 初手詰みじゃん!

 岩から抜かれてねぇし! いや、抜かれたけど刺しちゃったし!


「ふぅぅ……あの、すいません」

 宿屋の人に声をかける。


「はいなんでしょう?」

「この手紙の件で緊急連絡用の遠話装置使わせてもらえませんか?」


「……こちらへ」

 宿の人が、お前こんな所でその話すんじゃねぇって表情で睨んでるけど構うもんか!

 遠話装置のある部屋まで案内してもらった。



 ー とある闇の組織 ー


「例の潜入者から緊急の遠話が入っております」

「そうか、繋いでくれ」


「俺言ったよね! 聖剣は岩に戻したって! 無理じゃん! 布告とか無理じゃん!」

「落ち着け! それは分かってる!」


「ふぅぅ、取り乱してしまい申し訳ございません」

「気持ちは分からんでも無い」


「事情を分かって頂けていて安心いたしました! 具体的な案をお教えいたただけますか? まさか無いとは言いませんよね?」


「何とか勇者を誘導し、岩から聖剣を抜かせ、それをどうにかして王族もしくは千人以上の大衆の前まで持っていき、魔王が現れるまでうまいこと時間を稼いでくれ」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ? え? 何? まさか現場丸投げするつもり?」

「有体に言えばそうだ」


「あ! 開き直りやがったな! 何とか、どうにかして、うまいこと出来るくらいならこんな連絡入れるかぁ!」


「まぁ待て、我々もかなり無理な事を言ってるのは理解しておる! 魔王様にはちゃんと説明して待っていただくので、とにかく多少時間かかっても良いから準備を頼む」


「だから無理なんだって! 準備を頼むじゃねぇんだよ!」

「頑張れ、おっと別の要件でもう切らなくては、すまんな! 何とかよろしくな!」


「おい! 切るな! おい! お……」

「ふうぅ、アイツは洗脳されてる割に自我が強いな……仕方がない、魔王に計画の猶予をいただくか……」



 ー 魔王城謁見の間 ー


「して、布告はいつ出来そうか? 明日か? 明後日か?」

 機嫌良さげに魔王が聞いてきた。


「お恐れながら、準備にも時間がかかります! しばしご猶予をいただきた……」

 突然、首に大剣を突きつけられたようなプレッシャーを感じる。

 今、余計な事を言えば確実に殺される。

 そう確信出来るほどの圧だ。


「で? いつ出来る?」

「早急に連絡させます! 平に平にご容赦を!」


「では、急げ」

「はは!」


「待ち遠しいのぉ」

 魔王は大層ご機嫌よく、連絡を待つのであった。

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