第3話 謁見
「其方が勇者か! よくぞ剣を抜いてくれた!」
王様が玉座を降りて、俺の片膝をついている俺達を立たせ、わざわざ目の前まで来て俺の手を握る。
異例の歓待だ。
うん、勘違いしてるね。
まぁ、勇者って聞いたら男をイメージするかぁ、するよなぁ。
「あ、いえ、私は付き添いで、勇者は彼女の方です」
「おぉう! これはすまない事をしたな!」
王様が彼女の手を握ろうとする。
スッとその手を躱わすシリア。
小首を傾げもう一度握ろうとする王様。
先ほどより大きく避ける勇者。
唖然とする王様。
王様を見つめる勇者。
……っていうか睨んでるじゃん!
何してんの! 王様睨んじゃダメじゃん!
「レンくん、この人私の手を握って来ようとするんだけど、キモく……ガファ!」
「わぁ! わぁ! わぁ! すいません! すいません! 王様! 彼女は疲れてましてぇ! ここからは私がお話しさせていただくでよろしいでしょうかぁ! 彼女の了承はいただいてますぅ!」
この子! 今とんでもないこと言いそうになったよ!
てか、ほぼ言ってたよ!
慌てて口塞いだよ!
あ、やべぇ、周囲の近衛騎士っぽい人から殺意が漏れてる!
「あ、あぁ、うん、許そう」
王様、空気読んでくれる人でよかったぁ。
「はい! 勇者はあらゆる面でまだ未熟! そんな根性を叩き直す……じゃないや、鍛え直す……でも無いや、え〜っとぉ……とにかく成長させるのに十の試練を我らにお与えください!」
とにかく、今の空気を変えるため、捲し立てるように案を出す。
このまま勢いでゴリ押しちゃえって気持ちもちょっとあった。
「十の試練とな?」
「はい! まずは五つ! オークとオーガ達の楽園と呼ばれる鬼の孤島ダンジョン! それに連なる海龍の城ダンジョン! 月面の宮ダンジョン! この三つのダンジョンの制覇!」
「ほほう」
「更に北の開拓を滞らせるヒュドラの討伐! 西の厄災と呼ばれる魔女の対処! コレらを試練として我らにお与えください!」
「ふむ、どうする?」
玉座に戻った王が宰相に問う。
「どれも我々にとって利こそあれ、害はないかと」
「うむ、許す」
「有り難き幸せ!」
よし! どさくさに紛れて我らに試練を与えて貰った。
「して、残りの五つは?」
「先の五つの試練を乗り越えた時に改めてお話しさせていただければと思います」
まだ、考えて無いんだよねー。
「聖剣はどうする?」
「勇者は一人とは限りません! このまま新たなる勇者を探すためにあのままにしておいていただけますでしょうか?」
「良いのか?」
「聖剣を使わずにやり遂げてこその試練かと」
あのまま刺しといて勇者探してるよって言わないと、彼女絶対うんって言わないだろうしね。
「ふむ」
何か宰相と話してるな?
「しばし待て」
「ははっ!」
待つ事少々、何やら立派な剣が出てきた。
「聖剣には及ばぬがコレもなかなかの逸品じゃ、勇者は代わりにコレを使うと良い」
「ははぁ!」
「えーそういうの、要らな……フガ!」
慌てて勇者の口を塞ぐ。
「シリア、ここはおとなしく頭下げておいて」
勇者の耳元で出来るだけ優しい口調でそう呟く。
なんとか謁見も終わり、旅の準備も整え、試練の旅に出発する当日。
「手紙をお預かりしております」
宿の人から一通の手紙を受け取った。
ー とある闇の組織 ー
「はぁぁぁ、困った……」
「どうされたのですか?」
「それがな、魔王様が『布告』の準備を潜入者にさせろと言ってきておられる」
「勇者の監視をしながら布告の準備は流石に荷が重いのでは?」
「うむ、そうなのだがな、魔王様からの命令は絶対! させぬわけにもいかん」
「指令書を出すので?」
「それしか無かろう」
「せめて何か支援をしなければ、流石に無理難題過ぎるのでは?」
「我々の諜報部隊『影脚』を最優先で使える権限を与えようと思う」
「そうですね、情報こそ最大の武器でしょうからな」
「あやつも史上最強とまで言われた『糸使い』だ、なんとかするだろう」
「そうですね、実力だけであれば、おそらく我が組織でも三本の指に入るでしょうし」
ー 魔王城 ー
「魔王様、何やら機嫌がよろしいようですね」
「分かるか? 例の組織の潜入者が『布告』の準備をしてくれるそうだ」
「ほう! それはよろしかったですね」
「あぁ、無理だと思っていたんだけどな! 快く引き受けてくれるそうだ!」
「そのような困難な事を快諾するとは、実に忠義心の厚いものですものですね」
「その通り! 一度労いに行ってやろうかと思っておる」
「おお! そやつは果報者ですね! 感涙に咽び泣くにでは無いでしょうか」
「お前もそう思うか! では、早速準備をするとするか!」
「はは! 承りました!」
注) ここまで誰一人本人に了承を取ってない。
【後書き】
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