第2話 報告

 しかし、どうしたもんかな。

 あの子も俺の事好きだって言ってくれたし、俺もシリアの事好きだしなぁ。


 あ、俺の名誉の為に言っておくけど、シリアの過剰な密着でちょいちょい腕に当たる大きく成長したものの柔らかさに誑かされた訳では無いからね!


 ちゃんと中身を見て……あ、服の中身って意味じゃ無いよ、内面の事ね。

 誤解されたく無いから、ここはちゃんと言っておくね。


 閑話休題。


 修行とか言って時間稼げないかな……。

 

 勇者は貴族はもちろん王族さえも命令する事が出来ないとされ、その地位は公爵と同格として扱われるから、勇者が修行したいって言ったら、止められる事も無いだろう。

 

 良いアイディアじゃないかこれ! よし! これでいこう!

 そうと決まれば、彼女の説得だな。


 王城に着いた俺たちは控え室のような場所に案内される。

 どうやら、俺が一緒の方が良いと神官が判断してくれたらしく、俺は勇者のお付きという事になってるらしい。


「レンくんは私の味方じゃ無いの?」

「もちろん味方だよ」


「じゃあどうして……」

「話を聞いてほしい、まずね、ここで逃げ出しても今の俺たちの実力じゃ逃げきれないと思うんだ」

「そんなのやってみないと分からないじゃ無い!」


「うん、やってみないと分からないけど、もっと良い方法があるからそっちにしないかい?」

「なぁに?」


「あの剣を抜いた者は真の勇者になる為に十の試練を超えなければならないのは知ってるよね?」

「ううん、知らない」

 だろうね、今俺が考えた。

 嘘も方便、義務的なものでもなければ、この子絶対サボる。

 そんな確信にも似た思いが俺にある。


「その十の試練を受けといて、その間に別の勇者が現れるのを待てば良いんだよ」

「なるほど、そうよね私だって抜けたんだからきっと他にも抜ける人居るわよね」

「ウ、ウン、ソウダネ、イルトオモウヨ」


 百年ほど抜けてなかったけどねー、良心が痛む。

 でも、なんとかして勇者になってもらって、実力つけて貰わないと、未来が無い。

 主に俺の命的な意味で。


 シリアには強くなってもらう。

 ついでに俺も便乗して強くなる!


 二人でアンタッチャブルな存在になれば、逃亡でもなんでも思いのままだ!


「王様との謁見では、俺のいうとおりにしてもらって良い?」

「うん、良いよ」

「ありがとう」

 準備が出来たらしく謁見の間へと案内される


「あ、その試練失敗しちゃえば簡単に勇者辞らめれ無いかなぁ」

「え? ……えぇ!?」


 なんだろう、言葉は全部聞き取れたのに、心がそれを理解するのを拒否してる。



 ー とある闇の組織 ー


「隊長、村に潜入させた者からの連絡です」

「うむ」

 部下から渡された暗号文を読む。


「なるほど、万が一の時に暗殺しやすくする為に聖剣を岩に戻させたのか、考えたな」

「ええ、今後は勇者と同行し時間を稼ぎつつ懐柔するとの事です」


「そうか、奴はなかなかに優秀だからな期待させて貰うか、魔王様に報告に行く! 手配せよ!」

「はっ!」



 ー 魔王城謁見の間 ー


「というという事で、聖剣は岩に刺さったままとなっております」

「……」


「魔王様?」

「あ、ああ、分かった下がって良いぞ」


「何かお気に触るような事でもございましたでしょうか?」

「ん、いや、なんでも無い、ご苦労だったな」


「はっ!」

 闇の組織の隊長を下がるのを見届けると、魔王はおもむろに立ち上がり自室へと向かう。


「しばらく人払いしてくれ」

「はっ!」

 側近のダークエルフにそれだけ伝えると、自室に篭った。


「もう! もう! もう! せっかくショックから立ち直ったのにぃ!」

 日頃自らの能力で異空間に隠してあるお気に入りのクマのぬいぐるみを抱き抱え、ベッドの上で転がりながら大声で愚痴を言う。


「知ってるわよ! 剣が岩に突き刺さったままになってるなんて! 行ったもん! そこまで行ったもん!」

 愚痴が止まらない。


「な、ん、で、勇者が聖剣置いて行くのよ! あり得なくない? バカなの? 死にたいの?」

 ベッドでゴロゴロ転がりながら更にヒートアップする。


「あー! もう! ヤダヤダヤダ! ふぅ」

 大声で愚痴を言ったおかげで少し冷静になる。


「でも、困ったなぁ、『布告』どうしよう……潜入してるって言う組織の人に協力してもらおうかな」


 人知れず、どこかの誰かに面倒ごとが降りかかるのが決定した。

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