第13話

あの日、一緒に寝た……なんて、そんなことは言ってない!坂本を一晩だけ泊めたら、こいつ調子に乗り始めた。

よく練習終わりに教室の前で俺を待ってるんだ。でかい体で、180センチの俺がちっちゃく見えるくらい。

窓越しに俺が歯をむき出して威嚇すると、坂本は木陰に隠れて子供みたいに八本の歯を見せて笑う。

くそ、なんて魅惑的な笑顔なんだ……顔がだんだん熱くなる。

パタン。授業の先生が俺の画板を叩いて、慌てて目線を戻した。もう外の目立つ男は見ないことにした。

昼休み、食堂で席を取っていると、坂本は俺のために糖酢排骨を取りに行った。

そこへ、20代前半くらいのオシャレで綺麗な女の子がやって来て、坂本の席に座った。

「すみません、ここは誰かいますよ」

女の子は上から下まで俺を見回し、顎を上げて高飛車な口調で言った。

「あなたが悠真?」

俺はよくわからず頷くと、女の子は続けた。

「私は坂本の婚約者。これからは自覚してね。あなたが何を考えてるか、他人はちゃんと見てるから」

スマホを持ったまま、俺は呆然とした。何を考えてるって?意味がわからない。彼女が自分は坂本の婚約者だって……坂本はそんなこと一言も言ってないのに……

「えっと……何かの誤解じゃないかな?」

女の子は急に立ち上がり、俺の鼻を指差して、食堂中に聞こえる声で叫んだ。

「元々隣同士で、今はルームメイトだからって、調子に乗って男を誘惑するなんて!大の男がそんなに軽々しくていいの?他人の婚約者を誘惑するなんて最低!」

周りの生徒たちはその大ゴシップにスマホを取り出し、動画を撮ろうとしている。

初めての出来事に戸惑い、俺は口を開けたまま呆然としていた。

その時、坂本が食器を置いて、早足でやってきた。

女の子は坂本を見ると、態度を一変させ、甘えたように腕を引っ張って「行川お兄ちゃん〜」と囁き、俺を睨みつけた。

坂本は彼女の手をかわして俺のそばに来て、真剣な目で小声で説明した。

「婚約者なんていないよ。あの子は従叔母の親戚の娘で、去年の夏休みに一度会っただけだ」

そう言って俺の手を握り、まるで捨てられそうな子犬みたいな哀しげな目をした。

女の子をチラ見して、俺は彼の頭を引き寄せ、みんなの注目を浴びながら彼の唇に思い切りキスした。

坂本は驚いた顔で見ていたが、挑発するように指を絡めてその女の子の前で腕を振った。

「従叔母の親戚の娘だったんだ〜まだキスしたことないでしょ?したいでしょ?悔しいでしょ〜」

そう言いながら坂本の胸筋をつまんだ。

「わあ、触り心地最高〜」

周りの生徒たちから悲鳴と歓声が上がった。

坂本はいつもの冷たい顔とは違い、口元が上がっていて、俺を見つめる目は集中と甘やかしでいっぱい。女の子に全然目を向けていなかった。

隣の女の子二人が手を握り合って「すごく甘い!甘い!」と叫んだ。

俺は顔を真っ赤にして彼女のマネをして顎を上げて威嚇した。

女の子は坂本を見たが、彼は一瞥もせず、笑い声の中で泣きながら逃げていった。

俺は鼻で笑った。ふん、俺に勝てると思うなよ。坂本を抑えるくらいはできるんだから。

まあ、実際に殴ったことはないけどね。

幼稚だけど、すごく気持ちよかったよね!

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