第11話

僕は坂本の背中に顔をうずめて、鼻をすする。顔にかかった涙が彼の首にポタリと落ちる。

「悠真、鼻水は俺に垂らすなよ」

坂本の声が聞こえて、僕は真っ赤になって、思わず肩をパンパンと叩いた。

「俺を何だと思ってるんだよ?これは涙だよ、涙!」

僕の突っかかりには全然動じず、坂本はしっかり僕を背負いながら、顔は見えないけど、こらえきれずにクスッと笑う声と体の揺れだけが伝わってくる。

「なんで泣いてるんだ?」

僕は顔を少し上げて、45度の角度で星空を見上げ、涙を引っ込めて、少し寂しそうに言った。

「パパのことは気にしないでくれよ」

前を歩く彼は振り返らず、軽く鼻を鳴らすだけだった。

「坂本……俺が中学から好きだった女の子、名前覚えてる?」

僕は彼の肩に頭を乗せて、低い声で聞いた。

坂本の体が一瞬硬直して歩みが止まったけど、すぐにまた大股で校門へ向かって歩き始めた。

「百合子」

「そんなに覚えてるんだ。もしかして好きだったのか?」

僕は背中にしがみつきながら、わがままに問い詰める。

「俺が誰を好きか、知らないわけないだろ」

骨ばった指先に微かに粉がついていて、分厚い胸筋、引き締まった腹筋、そして生き生きとした……

顔が真っ赤になって、絶対「知らない」なんて言えなかった。

くそ、マジでたまらん!

長い沈黙のあと、坂本は誤解したらしい。背負ったまま、やっと口を開く。

その声は夜風のようにそっと優しくて、気を抜くとすぐに消えてしまいそうだった。

「悠真、俺のこと嫌いにならないでくれよ」

「嫌いじゃないよ……」

彼は少し笑ってから言った。

「じゃあ……俺のこと好きになってくれよ」

僕は顔を真っ赤にしながらも、強がって言った。

「好きになるメリットあるの?俺のことパパって呼べる?」

彼は何も言わず、ふん、そうだろうな。坂本みたいなプライド高い奴が「パパ」なんて呼ぶわけない。

「いいよ」

え?

ちょっと待って、坂本が「いいよ」って言った!?

「じゃあ一回呼んでみて?」

「無理」

「なんでだよ?さっきはいいって言ったじゃん」

「条件付きなんだ」

「どんな条件?坂本、俺騙されてる?」

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