第10話
坂本は僕と他の誰とも違う、そう感じていた。でも、それは坂本の周りに僕だけが特別な存在だからだと思っていた。
彼はいつも周囲には冷たくて、どこか距離を置いている感じで、信頼できるけどよそよそしい。親に対しても尊敬はあっても、親しみは少ないように見えた。
だけど僕に対しては、最初の冷たさを除けば、笑ったり、からかったり、傷つけあったり。
そんなの、親友同士なら普通じゃないか?
でも、いつからか坂本が僕のお尻を気にしているなんて、くそ、うざすぎる!
頭を抱えてしゃがみ込みながら、「でも俺、女の子が好きなんだよな……」とつぶやく。
三年間も好きだったあの女の子。制服の高いポニーテール、名前は林……林……林なんだっけ……?
急に思考が止まってしまった。ずっと好きだったあの子の名前も、クラスも思い出せない。
覚えているのは、あの香る手紙と、告白された日の坂本の服装、動き、髪型、そして僕を見つめて眉をひそめて去っていった姿だけ。
でも、あの女の子のことは……忘れてしまった。
本当にそんなに好きじゃなかったのかもしれない。
どれだけ地面にしゃがみ込んでいたのか分からない。思考がまとまらないまま歩いていると、急な足音が近づいてきて、すぐそばに止まった。
温かい指が僕の腕を掴み、坂本の慌てた声が耳に入る。
「胃が痛い?お腹が調子悪い?」
涙があふれそうな目を上げると、汗で濡れた坂本の顔。心配でいっぱいのその瞳。走ってきたのがわかる。
恥ずかしくて顔をそらす僕を、彼はそっと包み込むように片手で顔を覆い、目を見せようとする。
「悠真、泣かないで。どこが痛い?」
「坂本、俺を背負って帰ってくれないか?……久しぶりだし……」
嗚咽混じりの恥ずかしいお願い。坂本はほっとしたように笑い、振り返って半ばしゃがむ。
「さあ、坊ちゃん。」
その背中はとても広くて、安心感があった。中学の頃に背負われた時とは違う、成長した男の背中だった。
中学の時はよくケンカしたけど、卒業後のある日、僕が坂本のベッドでスマホを見ていたら、女の子の返事が来た。
「彼は静かで、勉強ができる男の子が好きだよ」
僕は嬉しくて坂本に教え、「高校に入ったら俺が先に彼女作って、お前が後からならお前が俺の息子な」なんてからかった。
坂本は何も言わず、ただ黒い瞳でじっと僕を見ていた。あの日から、坂本は僕と距離を置き始めた。
表面上は変わらないけど、どこか違う。話さなくなり、家にも来なくなった。
二人の間に見えない壁ができた。
そして高校で、あの女の子が坂本に告白した。
今思えば、暗恋の終わりの悲しみよりも、坂本の「パパ」扱いの方がよっぽど辛かった。
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