第8話

たぶん熱で頭がぼーっとしてたんだろうな。じゃなきゃ、坂本にベッドに押し倒されてキスされるなんて夢を見るわけがない。

あの日から俺はダチョウみたいに布団に縮こまって、一日半ずっと寝ていた。

熱は下がったけど、体はボロボロだった。

目が覚めると、休みを取ったのは坂本だと知り、両親への電話も坂本が出て、汗まみれの汚れた服を洗ったのも坂本だった。

それどころか、俺の熱でびしょ濡れになった服を着替えさせてくれたのも坂本だった!

ルームメイトのAが羨ましそうに言った。

「坂本って本当に最高だよね。賢妻良母みたい。」

賢妻良母だと?言葉の意味もわかってないくせに、高校に戻って国語の先生に教わってこいよ。子供たちに悪影響与えるなよ。

飯を買って戻ってきた坂本を見て、つい彼の薄い唇に目が行ってしまった。

薄い唇の男は冷たいって言うけど、坂本の唇はすごく柔らかそうで、全然冷たい感じじゃない。

あのキスを思い出すと、全身がぞくっとした。

坂本は机のそばに立って、俺のぼんやりした様子を見てニヤッと笑った。

「食べさせてやろうか?」

病み上がりの俺は思わずパッと机に座った。

坂本が忙しそうに箸やスプーンを用意しているのを見ていると、確かにちょっと賢妻良母っぽいかもなと思った。

つい坂本の開いた胸元に視線をやって、裸の上半身にエプロン姿で料理してる姿を想像して、喉がゴクリと鳴った。

その後、坂本の驚いた顔を見ながら、バシッバシッと自分の顔を叩いて、熱で壊れた頭を正気に戻した。

全部ルームメイトのせいだ、わけのわからん賢妻良母なんて言いやがって。

最悪だ!

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