第3話

中学のとき、俺はある女子に片想いしてた。

それで、クラスメイトにお菓子ばらまいて根回しして、やっとのことで彼女のタイプを聞き出した。

——「静かで、勉強できる男子が好き」

……そっか。

俺はその日から血反吐吐く勢いで猛勉強した。

そして、ついに第一志望の進学校に合格。なんと、彼女と同じ高校!

母ちゃんは大喜びで、俺の肩をバンバン叩いてくるし、もう少しで三日三晩祝宴でも始める勢いだった。

親戚集めた食事会では、俺の“想定外の大健闘”が何度も話題に出て、賞賛と同時に黒歴史まで蒸し返されて……それはもう屍に鞭打つレベル。

で、そんな中。

俺は、親たちが当たり前のように“優等生”として扱う坂本を横目で見て、ちょっと誇らしげに言ってやった。

「今回の試験、難しくなかった? 俺、結構苦戦したわー」

……まあ、正直言うと、ただちょっと褒めてほしかっただけなんだけど。

そしたらこのクソ犬野郎、期待を裏切らないド正論で返してきた。

「ん? まあ、普通だったね。簡単なほう。」

くっそおおおおおお!!! なんで俺はこいつに話しかけてしまったんだ!!!

またドヤ顔でマウント取りやがって!! くっそムカつく!!!

その夜、俺は顔を引きつらせながら、坂本の苦手なゴーヤを茶碗にこんもりと盛りつけてやった。

坂本はニコッと笑って、俺の茶碗にセロリを二口分放り込んできた。

俺たちは目を見合わせながら、奥歯をギリギリいわせつつ、大人たちの笑い声に紛れて——

「俺:一口ゴーヤ」

「坂本:一口セロリ」

静かな戦争が、皿の上で繰り広げられていた。

高校に入って、俺たちは二人とも一気に伸び盛り。

俺は負けたくなくて、毎日牛乳三杯飲んで頑張った。……けど結局、このクソ犬野郎より頭一つ分は低かった。

まあ、顔は悪くない。

色白で、清潔感もあるし、見た目はそう負けてない……はず!

それに、あの子に告白するために、俺は二年間、一度もバスケに行かなかった。

「静かで勉強ができる男子」ってキャラを守るために、必死でブレずに頑張ってた。

なのに──なのにだよ!?

あの女子、俺の目の前で、坂本に告白しやがった!!!

身長150ちょい、制服でポニーテールの女の子が、顔を真っ赤にしながら……

体育館の隅で、坂本に、手紙を差し出してた。

坂本は、さっきまでバスケしてたから、タンクトップ姿。

短髪に汗がにじんで、ちょっと息が上がってて、

日焼けした肌に整った顔……まるで少年マンガから飛び出してきた主人公そのもの。

俺?

ダッサい制服着て、横でポツンと突っ立ってるだけの脇役でしたが何か?

うおおおおおお!! この世界、爆発しろおおおお!!!

女の子は、香り付きのピンクの手紙を両手で差し出して、恥ずかしそうにうつむく。

坂本はバスケットボールを手に持ったまま、ちらっと俺の方を見た。

いつも無表情なその目に、ちょっとだけ、うっとうしそうな光が差した。

そして、眉をひそめて一言:

「高校では、恋愛するつもりないから」

そう言って、手紙も受け取らず、あっさりと背を向けて、またコートに戻っていった。

……このクソ野郎、断りやがった!?!?

俺はショックで、その場を去ろうとする女の子を引き止めて、思わず聞いた。

「えっ、でも……“静かで勉強できる男子”がタイプなんじゃないの?」

女の子は顔を赤くしたまま、うつむいて、ぽつりと答えた。

「だって……坂本くん、カッコいいもん」

そしてそのまま逃げるように走っていった。

ああああああああ!!! マジでクソが!!!

俺だって見た目悪くないって!!

坂本ほど黒くないし、あいつほど筋肉ないし、背も高くないし、鼻もそこまで高くないし、腹筋も割れてないけどさ!?

……でも、俺だって俺なりに頑張ってるんだよ!!!

その日から三日間、俺は坂本と一緒に登校しなかった。

マジで怒ってたからな……

……もしあの犬野郎が家に迎えに来なかったら、

もし母ちゃんが俺の襟首掴んで玄関から放り出さなかったら……

絶対に、許してなかったからな!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る