vol.7
天井が轟音を轟かせながら次々と爆散していく。悪魔から打ち出される赤いヌメヌメとした触手が、何十本も堂院めがけて殺到する。
だが、それは全く当たらない。堂院は触手が来る寸前消えるように移動していく。
触手が弾けて飛沫が辺り一面に撒き散らされている。
「亜里沙さん、だ、大丈夫なんですか!?あのばらまかれてる飛沫不味いですよ!視てると、アレも悪魔の一部で、まだ生きてます!」
「マジ!?…華子私の後ろへ絶対に前に出ないで!」
そう言うと、背負っていた1m程の筒から棒の様な物を取り出していく。それは明らかに1m以上あってどんどんその長大さをあらわにしていく。その棒の全貌は3m程の長さの槍であった。
「亜里沙さん、それが言ってた槍ですか」
「そうよ私の槍、
そう言うと槍を両手で握り半身になって左足を前に出し腰を落として体全体に力を漲らせていく。
「“
「“
亜里沙が言うと1m以上ある長い穂先が輝き始めた。
「
亜里沙がぐっと槍を後ろに引き絞ると、
槍が、消えた。
いや、それは消えたように見える程高速の突きの連打だった。
その突きが見えない壁を前方に作るように
飛沫が飛んでこなくなった。
「ス、スゴイ!飛んで来なくなった!……
ど、どうやってるんですか!」
「ん?ムッチャ突いてるだけだけど。私シールドみたいなの張れないからさ、こうやって突くことで壁作ってんの」
(この人やってる事スゴイのに無茶苦茶アバウト)
そうやってる間も堂院と悪魔の鬼ごっこは続いていた。
「なぜダ、なぜ当タらぬ!?」
悪魔が叫ぶ。
「言った筈だ。触れることさえ出来んと」
それを聞いた悪魔は途端に攻撃をやめる。
悪魔は堂院を睨みながら絞り出すように言葉を発した。
「どうやっテも捕まえラれないなら、逃げらレないヨうにするだけだ」
ニヤリと笑うと、悪魔の全身から血のような腐った肉のようなドロドロとしたものが
溢れだしてそれが渦巻きながら大きな球体を造っていく。
そしてそれは急速に縮んでいく。
「なんかやな予感するな、華子!回転上げるから絶対前に出ないでよ!」
「わかりました、死んでも出ません!」
すると亜里沙の手はさらにスピードを上げた。今や太い一本の大木のように見える。
そして悪魔は今やサッカーボールぐらいの
大きさになっていた。
不意にその球体から黒い光が。
亜里沙が叫ぶ。
「来るわ!!」
亜里沙が言うと同時に音を立てて球体が爆発した。急速にひろがる腐った肉の洪水。
広い店内が不気味な液体に埋め尽くされる。そしてそれは天井の堂院にも襲いかかる。
「堂院さん!?」
華子が叫ぶ。
今にも堂院に悪魔が襲いかかろうとする。
その刹那、
「“全てを禁ずる”」
どういう事か今にも襲いかかろうとしていた腐肉の塊が凍りついたように制止していた。
「ふん。こんなものか、やはり雑魚だな」
堂院は天井から降りてくると、つまらなそうに吐き捨てた。
「堂院さん!これ、どうやってるんですか!?なんで制止してるんですか?」
華子を一瞥するだけで何も応えない堂院。
「代理はね、現実の事象の改変、要するに自分の思いどおりに現実を操作出来るの」
「はぁーっ!?嘘ですよね!?そんな出鱈目なこと出来るんですか?」
「なんか相手によるみたいよ。その個体の存在力?が高い相手には効かないみたい」
それを聞いた華子は呆れたように、
「出来るだけでも、スゴイんですけどどういう理論なんだか全くわかんない」
二人の会話を聞いていた堂院が急に、
「おっ!? 思ったよりしぶといな」
すると制止していた腐肉が動き出す。その全てがまたひとつに集まり人型になる。
「貴様、どウいう事だ。ソの力、上位の悪魔の力でハないか……なぜ使えル?」
その悪魔の言葉を無視して堂院が言う。
「さて、これで新しいスーツの戦闘評価が出来るな。これはMDTの新作でな、防刃防爆性能がほぼ2倍で人工筋肉の最大出力が130%という優れものだ」
ちなみに堂院達3人は黒いコートに黒のバトルスーツを着ている。
悪魔は依然として堂院の能力の影響が残っているのか動きが非常に遅く動きづらそうだ。すると堂院は右の拳を悪魔に突き出して、
「俺は、この拳を一撃しか出さん。お前は自由に攻撃していい。それぐらいのハンデが、あれば良い勝負が出来るんじゃないか?」
堂院は馬鹿にした風でもなく淡々と悪魔に提案する。
「わタくしをコケにするのもイい加減にしろっ!先程の力を使わナいのであればわたくしが負けル道理がなイっ!!」
「ではお前に先手を譲ってやろう。どこからでもかかってこい」
堂院はそう言うと不適に笑った。
「貴様っ!後悔するぞ、このわたくしを虚仮にしたことを!」
悪魔は一気に広がるとその腐肉の中から
何十本、何百本もの血と腐肉で出来た大きな杭が伸びてきた。
「この杭でこの店全てを埋め尽くしてやる。貴様達が逃げる場所などないぞ」
悪魔の体から黒い瘴気が勢いよく噴き出して来た。対する堂院は左手を軽く前に出し右手を後ろに引き、足を開いて腰を落としていた。そして目を閉じ言葉をつぶやく。
「“色即ちこれ空なり”」
すると堂院の身体が光始めスーツの表面に血管のような光の筋が走っていく。そしてその光が大きくなって、堂院の身体を球状に包んでいく。
「死ねっ!人間、無様になっ!!」
悪魔の体から爆発的に杭が打ち出されていく。亜里沙は“千畳通し”をすでに発動している。
天井に、床に、壁に、杭が爆音と共に突き刺さり、あらゆる所が腐肉の杭で埋め尽くされる。
当然堂院にも杭は襲いかかる。
だがその全てが先程の光の球に弾かれていく。全てが光を突破することが出来ない。
「な、なぜだ、なぜだ─────!!」
悪魔は力を振り絞って全ての攻撃を堂院に浴びせていく。堂院は依然目をつぶったまま、一言つぶやいた。
「
その瞬間、華子には右手をゆっくりと突き出したように見えた。
しかし実際は右手が消えるほどのスピードでそれは打ち出された。あまりに滑らかな軌道が華子にその速さを見誤らせたのだ。
打ち出された拳から光の奔流が爆発的に悪魔に向かって飛んでいく。
「な、なんだこれは、な、や、やめ─」
それは純然たる光、そして力。
宇宙の開闢から時を越えその最後の滅び。
それはまさしく滅びの象徴の光だ。
この光は全てを無に還す。
悪魔はその光の奔流の中に飲み込まれた。
そして、弾けた。
「やった、やりましたよ堂院さんっ!」
「は、華子フラグたてるな!」
亜里沙が華子に忠告してすぐに、建物全体が震え始めた。建物の壁という壁から口が浮かび上がった。
「ギャハハっ、あの杭を壁に突き刺すことで建物に乗り移っていたのだ!このナかはわたくしその物、全てを飲み込んでやるわ!!」
建物の振動がひどくなり、天井や壁が堂院達に迫ってきた。
「言ったじゃん!フラグたてんなって!」
「何ですか、フラグって!?な、なんか私やらかしました?」
「言った私が馬鹿だった!」
亜里沙が頭を抱える。華子が辺りを見回して、
「建物中が悪魔と一体化してます!ど、堂院さんっ、どうするんですか!?」
華子と亜里沙が堂院を見た。
堂院はゆっくり目を開くと呆れたように言う。
「本当に悪魔と言う奴は進歩がない。当たり前の事しかしないな」
そう言うと腰に巻いたベルトのホルスターからオートマチックの銃を取り出した。
それを見た華子が心配そうに言う。
「堂院さん、さすがに拳銃ではどうにもならないのでは……」
堂院は華子を一瞥すると溜め息をついた。
「えっ、私呆れられてる!?今の私が悪かったですか?」
「いや、華子あんたは悪くない。アレがどうかしてる」
華子の魂の叫びを亜里沙が慰める。
堂院は二人を無視して、銃の遊底をスライドして弾薬を装填する。
「さあ、こいつも初のお目見えだ。MDT製拳銃型S.G.D、
なんと言うこともない」
堂院は右手に持った銃を天井に向かって構える。
「“色即ちこれ空なり”」
堂院が詠唱する。
「轟け、“
堂院が引き金を引くと、銃口に円形の魔方陣のような物が現れ回転を始めた。
その中心に光の球が出来て勢いよく打ち出された。
それは全てを無にする光
滅びを内包した浄蓮の光
光が天井に命中すると、当たった所から黒い灰となって霧散していく。そして連鎖して建物中に広がっていった。
「ナゼだ、わたくしが消えていくワタシのからダがな、く…な……」
みるみるうちに建物全てが黒い灰になって
──消えた。
「私、もう何を言っていいかわかんないです。無茶苦茶だ──」
「本当にあんた人間辞めてない?」
華子と亜里沙が呆れたように言う。
堂院は二人を無視して溜め息をつく。
「はぁ。やっぱり雑魚だったか。こんなことではヤツを倒す事が出来るまで何体の悪魔を葬る必要があるんだ。全く……」
今もなお崩壊し続けるビルを見ながら残念そうに、そう呟いた。
韓国、ソウル郊外───
「おかしいですね。やっぱり此処ではありませんか」
その男の前には人の山が築かれていた。
男であろうと女であろうと、平等に積み重ねられていた。その数50人を優に越えている。
「5年程前から彼の形跡が全くわからなくなってしまいました。彼の魂のカケラが在るというのに。近くに行けばわかる筈なのですが」
その男は黒髪をベッタリとオールバックにして細いまゆ、高い鼻、そして妙に赤い唇をしていた。そして最も特徴的なのはその目だ。黒く縁取られた瞳に、黒瞳が極端に小さい。その赤い唇をニヤリと歪めて言う。
「此処まで来たならひさしぶりに日本に寄ってみますか。彼も、もしかしたら帰っているやも知れません。久しぶりに一番館に出てみるのも良いかも知れません」
男はそう言うと手を広げてその手を人の山に向けた。その瞬間人の山がドロドロに溶けて一塊になり、大きく開けた男の口に飲み込まれていった。
「では、参りましょう。日本へ」
そう言うと男の姿は徐々に夜の闇に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます