vol.6

前日 都内某所堂院邸ーーー


「坊っちゃま、お申し付けのALPHAの資料をお持ちしました」


深夜、堂院は執事の紅林が持参した、ALPHAの調査報告書に目を通していた。


「スィーパーは空間力場と次元振動の

調査を主に行いましたが、双方ともに目立った問題は御座いませんでした。」


「それはおかしい。例の監視カメラの映像が撮影された日から考えても残存力場が

感知される筈だ。」


紅林が紅茶を淹れながら答える。


「スィーパーからも、あまりにも痕跡が無さすぎる旨報告されております。アララギの推論AIからのアンサーでは、空間そのものに干渉して残存する空間への影響を改変しているのではないかと」


堂院は少し沈黙して思考する。


「事象の改変か。そこまでの悪魔の様な気はしないが……」


紅林が続ける。


「ALPHAのオーナーシェフである日下京一は2年前に店をオープンしておりますが、以前は自由が丘でイタリアンレストランを経営しておりました。しかし調査によると特に繁盛していた訳では御座いませんでした」


「銀座に移ってから評判になったということか」


「はい、銀座にALPHAをオープンしてから急に評判が高まりました。曰く魂が震えるほどの味だとか」


堂院がそれを聞いて嘲笑う。


「魂、か。想像はつくがな。この三百年程やってることが変わらんな。愚かなことだ」


紅林も追従する。


「それが悪魔かと」


堂院は座っていたソファから立ち上がると、


「まあそれも明日わかることだ。少しは喰いごたえがあれば良いが……」


「坊っちゃま、くれぐれも御油断召されませぬ様に」


「俺に油断はないよ、紅林。アイツをこの手で消滅させるまではな」


堂院はそう言って夜の闇を見つめていた。

悪魔の様な笑みを浮かべて。





Chapter7


堂院たち3人はALPHAの入っているビルを

見上げていた。


それは闇の化身、


すべての悪が形づくる悪意の城、


その白い威容が、そびえ立っていた。


堂院が2人を見ながら、


「では、ゲームスタートだ」


華子がすごく嫌そうな顔をして、


「ゲームならリスタート出来ますけど、

これ現実ですからね!死んだら終わりなんですから、本当に大丈夫なんですか!?」


亜利砂が自信満々に言う。


「わたしがいるんだから大丈夫よ!」


その自信がどこからくるのか問い詰めたい華子だった。


3人はALPHAのドアをくぐる。


「予約をしていた堂院だ」


「お待ちしておりました、堂院様。どうぞお席にご案内します。」


店内は満席でこのレストランの人気をうかがわせていた。

典型的なイタリアの民家がモチーフになっているようでシックな内装が本場の雰囲気を醸し出していた。


「堂院さん、何か感じますか?」


華子の問いに堂院は、


「不自然なまでになにも感じないな」


「私もさっきまで視えてたのに、何も感じなくなりました。どういうことでしょう」


堂院は華子の方を見ずに告げる。


「そこの男に聞けばわかることだ」


そう言った先に、シェフが着るシェフコートを着た男が立っていた。

年の頃は三十代で短い髪を後ろに撫で付けていた。薄い唇と鷲鼻が彼の酷薄そうな容貌を特徴づけていた。


「いらっしゃいませ。あなた方の様な方達をお待ちしておりました!」


男は唇をニヤリと半月状に歪めて笑った。


「わたくし、この店のオーナーシェフを勤めております、日下京一と申します」


日下は堂院達をぐるりとなめ回すように見るとおもむろに話し出した。


「本当にお待ちしてたンでス、あなた方の様な魂の持ちヌシが来店さレることを」


そして堂院を指差すと、


「特にアなた!なんと云うこトだ。あなタのような旧く醸成された魂がこの世に存在したなンて!」


そう言った瞬間、何ということか!

唇が頬に向かって裂けていくではないか!

そして極限まで目を見開き、瞳孔が縦に開いていく!口からは牙がのぞき、顎が大きく尖っていく。


「これでワたしが完成する!究極に美味しくなル!!」


男はもう正体を隠そうともしない。耳が尖り、身体が爆発的に大きくなり黒い体毛がびっしりと身体をおおっている。


「華子。まわりの客を視て!全く騒がないなんておかしいわ!」


亜利砂が華子に指示を出す。

華子は“天眼通”を起動して周りを見渡す。


「亜里砂さん!この人たち、悪魔と同化してます!でも、なんでわからなかったの?

こんな異常があれば視るまでもなく感じられる筈なのに……」


「お答えシましょう。本日ゴ来店のお客様はスべてリピーターの方々です。すなわチ前回わたくしの1部をスでに食されているのです!わタくしを欠片でも取り込まれた方々はすでにワたくしの1部なのデす。」


悪魔は言葉を切ると、ぐるりとあたりを見回し、


「でアれば取り込むこトは簡単ナのです!この店に入った時点でコの方たちは、わたくしそのモのとなったのです!偉大なるワたくしに!」


堂院は落ち着いた様子で語りかける。


「じゃあ、俺たちも貴様の中に取り込まれてると言うことかな?」


「そうでス。店の中はわたくシの内部です。この中ナら全てはわたくしの思いのマま。あなた達も偉大なるわたクしの1部にしてアげまシょう!」


悪魔は手を大きく広げるとその背中から、

触手のようなものを四方に飛び散らせる。

触手は座っていた人々に絡まると一瞬にして覆い尽くして飲み込んでいった。


「ど、堂院さん!みんな食べられちゃいましたよ!ど、どうするんですか?」


「鬼頭。言っとくが俺たちは正義の味方じゃあない。この人間たちは悪魔と同化してる時点で、コイツらまとめて俺たちの敵、ということだ」


華子はビックリして隣の亜利砂を見る。


「ん?代理の言うとおりね。だってコイツら悪魔なんだもん」


華子は冷や汗を流しながら、


(この人たちが1番ヤバい!)


堂院があたりを見回して、


「すべての悪魔を殲滅する。それがアララギの掟だ」


「貴様ら、この旧き悪魔たるわたくしを滅ぼすと?」


すると悪魔は堂院を馬鹿にするように笑い出した。


「ギャハハハッ、わたクしが生まれテ二百年、ソんな口を聞いたのは貴様がハじめてダ!」


「なんだ、やはりはな垂れ小僧だったか」


華子は目を見張った。

今まで隣にいた堂院が悪魔のすぐ上の天井に逆さになって立っているではないか!


「貴様、わタくしをはナ垂れ小僧だト!

たかガ人間の分際で身の程を知レ!」


悪魔から何十本もの触手が堂院に向かう。


「堂院さん、危ない!」


触手が天井にぶつかり爆発的に天井が破壊される。


「ど、堂院さん!」


「華子、ちゃんと代理を視ときなよ」


「え!?どういう……」


華子は天眼通で改めて視る。

あたりは触手の攻撃で埃まみれで良く視えなかったが、だんだん晴れてくると、

あろうことか堂院が先ほどと同じ場所に逆さまに立っている。


「キサマ、どういう事だ。確かに当たった筈。それにどウやって逆さに立ってイられる?この中でわたくシの意思に反することなど出来ヌ筈……」


堂院は何事もなかった様に告げる。


「お前ごときの能力など、塵芥に等しい」


堂院がうそぶく。


「キサマ!ゆるさんユルサンゾ!!わたくしを侮辱した罪、万死に値する!!!」


「ではやってみろ。お前ごときでは俺に触れることすら出来ん」


そして華子は初めて人と悪魔の戦いを見る事になる。



































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