vol.5

Chapter 5




華子と亜里沙は車でラボへの道をひた

走っていた。



梅雨空からの雨が、窓ガラスに水の波紋を

打ち続けていた。


「亜里沙さん。堂院さんが前に、ラボが

国会議事堂にそっくりなのを本物だから、

って言ってたんですけど、どういう事何ですか?」


亜里沙が運転をしながら答える。


「国会議事堂を作った中野組が、当時の

マタレアスの前身企業のグループだったらしくて、全く同じ設計や材料でナイショで作ったんだって」


明かされた内容に華子が、


「それって犯罪なんじゃ……」


「そうなんだけどさ、なんか呪術的な起点を作る必要があったとかなんとか……ごめーん、その後は覚えてなーい」


「いい加減すぎ!普通そんな重要なこと

忘れないと思うんですけど……」


「所長が説明してくれたんだけど、長過ぎて途中で寝ちゃって記憶が...…」


亜里沙の発言に呆れると同時に、

華子に1つ疑問がうまれた。


「そういえば私アララギのメンバーになって1週間たちましたけど、所長に会ったこと

ないんですけど、実在するんですか?」


「アハハッ、そりゃいるよ!

めったに来ないけどね。あの人はメインの

仕事があるから」


華子はその言葉に、


「所長って仕事掛け持ちしてるんですか?

それって大丈夫なんですか?っていうか

それでいいのか?……秘密結社」


「まあ所長の仕事の方が副業だからしょうがないね」


華子は心底呆れた様子で、


「本当に秘密結社なの?ユルユルすぎる…」


誰に言うでもなく呟いた。





2人はラボに着くと例の大きなモニターが

ある部屋に入った。


この部屋は統合作戦本部と呼ばれていて、

中枢に据えられたスーパーコンピューターや大きなモニター以外にも通信用の機械や、何に使うかわからないような機械が設置されていた。


本部には堂院とガンテツが待っていた。


「おう、ご苦労だったな。なんかわかった

事でもあったか?」


待ち構えていたガンテツが2人に聞く。


「反応があったビルがあって、その中の

レストランに入ったら華子がそこの料理がおかしいって言い始めて、今日は様子見だけだったから、いったん帰ってきたのよ」


それを聞いた堂院が、


「その料理のサンプルは持って帰ってきたのか?」


亜里沙はそれを聞いた瞬間、


(ヤッベッ!忘れてたー。こっ、殺されるー)


華子は隣の亜里沙が顔面蒼白になって

今にも逃げ出しそうなのを見て、


「あのー、これ帰るときに前菜を、

くすねて来たんで……」


そう言うと自分のバッグ(それはひいき目に見ても、ずた袋にしか見えないが)から

ヨレヨレのコンビニの袋を取り出した。


「おーっ、気が聞くじゃねーか、華子!」


ガンテツがその袋を受け取って堂院に言う。


「では若、あっしは鑑定課にサンプルを

持って行きやすんで」


「頼む」


そう言うとガンテツは出ていった。

それを見送った堂院が少し呆れたように

亜里沙に言った。


「古泉。鬼頭に礼を言っとくんだな」


「悪かったわよ。ちょっとバタバタしてて

うっかり忘れてたのよ。でも華子よく気がついたわね」


「いやー、余ってる食べ物見るとつい癖で

袋に入れちゃうんですよ、エヘヘ」


華子はバツが悪そうに2人を見た。


「でも役に立てて何よりです」


「それで古泉、そのレストランの名前は?」


亜里沙はTALOSのログを確認しながら、


「柳通りの[ALPHA]って店よ」


それを聞いた堂院があわてた様子で、


「ちっ、……不味いな。

あの姫は彼女の事になると、回りが見えなくなるからな……昔からそうだったが、

気づいてないかもしれん……」


堂院はしばらく考えていたが、

おもむろに2人に向かって話し始める。


「急で悪いが明日の夜改めて[ALPHA]に調査に行く。俺も行くからそのつもりで」


「どうしたの代理、あんたが出張るって

珍しい」


華子から見ても何だか堂院が少し動揺している様に見えた。



「鬼頭はこの後、古泉と装備課に行って

お前の専用装備を受領して明日までに

使えるようにしておけ」


そう言うと堂院も本部を出ていった。


「私の専用装備!?マジですか!ちょっと

嬉しい、赤いザクですか!?」


「あんたいつから大佐になったのよ、

んな訳ないでしょ。」


亜里沙が続けて、


「私の槍みたいな装備でしょ。この後

受け取りにいくよ」


「どんな装備ですかね、カッコいい

やつだったら良いんですけど……」


2人は早速装備課に向かう。


「ところで堂院さんなんか、おかしくなかったですか?」


「そお?いつもあんな感じじゃない?っていうか、あんたの能力の事聞いてこなかった方がビックリだわ」


「確かに。なんでなんですかね」


納得出来なくて首をかしげる2人だった。





装備課についた2人は近くで作業をしていた男性に声をかけた。


「完ちゃん、この子の装備受け取りに

来たんだけど」


亜里沙に完ちゃんと呼ばれた男は、不機嫌

そうな顔でしゃべり始めた。


「全く堂院さんにも困ったもんだぜ。こんな

特殊な装備を3日で完成させろなんて、

本当に大変だったんだからな」


男は見た目が30歳になるかならないか、

ぐらいの歳で、短い髪に角張った輪郭、

その割にぱっちりした目で愛嬌のある顔をしていた。


「き、鬼頭華子です。よろしくお願いします!」


「本田完二だ、よろしくな」


本田はそう言うと、色んな装置が並んでる背後の棚から1つ取り出すと華子の目の前に置いた。


「これがお前さんの専用装備、[天眼通てんげんつう]だ」


それは簡単に言うと大きめな赤いゴーグル

だった。ゴーグルのバンド部分の後頭部の

部分にタバコの箱ぐらいの大きさのケース

がついている。


「こいつは、“視る”事に特化している。

特にお前らに配備されてる特殊兵装は

個別の魄動の習性を増幅しやすく作られている」


本田は華子にゴーグルを装着した。


「最後にお前の固有魄動にシンクロさせて完成だ」


そう言うとゴーグルのケース部分にケーブル

を接続してタブレットで何か操作をし始めた。


「よし!これでこの装備はお前しか起動

出来なくなったからな。使用方法はお前の

端末に送っておく。言っておくが使いすぎたら脳が焼ききれるぞ」


「はい!?脳が焼ききれる?ど、どういう事ですか!?」


「視える事に特化してると言ったろ?ソイツはな、視え過ぎるんだ。情報量に脳の処理

が追いつかねえんだ」


それを聞いた華子が震えだす。


「そ、そんなヤバイものなんか要りませんよ!」


「華子。やんないと2000万取り上げられるよ」


亜里沙が同情した目をしながら忠告する。

それを聞いた本田が、


「リミッターはついてて、段階的に情報量を

設定出来るから問題ねぇ。ただある程度負荷かけなねぇと意味ねぇからな」


華子はあきらめた様にため息をついた。


「わかりましたよ。やりますよ、やれば

良いんでしょ、ハァ……」


「じゃあ華子。明日までに使えるように

これからトレーニングルームで特訓よ!」


亜里沙がやる気満々でトレーニングルームに

向かう。


「頼んだよ!私の脳ミソ!」


引きずられる様にして連れていかれる

華子だった。




Chapter 6


翌日の夜19時、銀座。

煌びやかな装いの街に堂院、華子、亜里沙の3人が降り立っていた。


「鬼頭。早速、[天眼通]でこのビルを

探査してみろ」


華子は緊張したおもむきでゴーグルをした

顔をビルに向けた。


「“森羅万象しんらばんしょう”」


「“天眼通てんげんつう”」


華子が言葉を発するとゴーグルのレンズ

部分が虹色に光りはじめた。


華子が感じるのは目に見える情報ではなく、

脳に直接イメージを伴った視覚情報が

飛び込んで来るような感じだ。

その視覚情報に個別の細かい注釈がつけられている。


(昨日からの練習で少し慣れたとはいえ

、確かにこれは脳がやられるわ。でも

これはスゴイ!色んな、私が知るはずのない

事象まで確認できる)


それは情報の奔流。


空間にひしめく色の坩堝だ。


現実に見えるものと、目に見えないものが


視える。


そこから確かに蠢くものがある。


「堂院さん。黒い瘴気の様なものは

悪魔の同位体ーーー送信機の様なものです」


華子がなおも続ける。


「悪魔の同位体を取り込んだ人間から、

魂のプラーナを少しずつ本体に送りこむ

役目があるようです」


「本体の位置はわかるか?」


「待ってください……やっぱりALPHAですね。ALPHAの1ヵ所に向かって、プラーナの光が集まってます!」


堂院は早速ALPHAに向かって歩きだそうとして、急に違う方向に顔を向けた。


「くそっ、予定より早いな。

ここで待っていろ。野暮用だ」


そう言うとALPHAがある並びの向かい側に向かって歩きだす。

そこには真っ白なリムジンが止まっていて

ドレスで着飾った2人の女性がいた。

1人は首まで生地が覆うタイプの黄金色の、イブニングドレスでシフォンにした髪型

の可愛い女の子で、もう1人は黒のカクテルドレスで髪はアップで纏められてる。

こちらは大人の魅力あふれる美人だ。


堂院はその2人に駆け寄っていって

親しげに声をかけていた。


「亜里沙さん。あそこで女性に声をかけてるのは誰でしょう?」


亜里沙もうなずきながら、


「奇遇ね。私も同じこと聞こうと思ってた」


2人と話してる堂院は、いつもとは全く違う柔らかい様子だった。


「堂院さん、あんな顔出来るんですね」


「私も初めて見た。ビックリだわ」


(ああやってると年相応なんだよなぁ)


華子がそう思った瞬間、天眼通から

情報が、流れ出した。


「な、何これ!?……どういう事!?」


「華子、どうしたの?なんかあった?」


「亜里沙さん。堂院さんと話してる

女の子達……本当に人間ですか?

魂のプラーナの光が尋常じゃないです!」


そういう華子の身体が細かく震えだした。


「大丈夫?華子」


「だ、大丈夫です。髪の長い子もスゴいんですけど、シニョンの子はヤバイです!あの子は普通の人間じゃない!

光が、あ、あの光は……だ、ダメ

私、……」


「ホントに大丈夫?華子。ちょっと変だよ!」


「あ、あ……私、しあわせで、あの

光を視てるとスゴいし、あ、わ、せ……で」


「華子!」


亜里沙は叫ぶと強引に天眼通を引きはがした。


「大丈夫!?……あんた、何泣いてんの?」


華子は恍惚とした表情で号泣していた。


「わ、わがんなくて、悲しいんじゃないんです。すごく嬉しくて嬉しくて

私、どうしちゃったんでしょう?」


そう言いながらも華子の涙は止まらない。


「ホントに何なの……このS.G.Dヤバイんじゃないの?」


亜里沙は手に持った天眼通を見ながら

1人つぶやいた。



堂院が戻ってくる頃には、華子も

落ち着きを取り戻していた。


「知り合いがいたので今日の所は

お引き取り願った。」


堂院は2人の様子が少しおかしいことに

気づいた。


「何かあったか?少し様子がおかしい

ようだが」


「実は代理が話してた女の子達を

視て華子がおかしくなっちゃって……」


亜里沙に続いて華子が答える。


「あの、シニョンの子を視てたら

何か感きわまっちゃって……涙が止まらなくなって」


それを聞いた堂院は天眼通をみながら、


「そのS.G.Dは正常に作動しているな。

それに鬼頭もある程度使いこなしてるようだ」


そう言うと満足そうにうなずいた。


「さて。悪魔の巣窟に乗り込むとするか。今回の件、少し面白くなってきたな」



堂院はそう言って不敵に笑った。































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