第42話 ミズホとルアナとエリーの和解

誤解は解けた――ってことでいいのよね?


目の前では、剣士の子を先頭に、兵士たちがずらっと並んで土下座している。

え、ちょっと待って。土下座って、ここ異界でも通じる文化なの? なんかすごく形がキマってるんだけど。


私はそっと近くで立っている兵士に小声で聞いてみた。

「ねえ、エリーと何があったの?」

すると兵士は目を逸らしてぼそっと言う。

「嬢ちゃん、世の中には聞いちゃいけねえこともあるんだぜ?」


……え? なにそれ逆に気になるんですけど!

牢屋に入れられていた私が知らない間に、いったい何があったのよ?

――いや、もう考えるのやめよ。知らない方が幸せってこともあるし。


というわけで、誤解が解けた私たちは別の部屋に案内された。

今度はちゃんとした部屋。牢屋よりはだいぶマシだ。


そこで剣士の子が改めて自己紹介してくれた。

「アタイはルアナ。ルアナ・ヴァルクレア。この辺りの兵士たちを取りまとめてる。さっきは悪かったな。助けてもらったのに、話も聞かずに縛り上げるなんて」


「私は篠崎ミズホ。まあ、誤解が解けて何よりよ。ところで、何が――」

「……あーっと、それ以上は言えないねぇ」


バッサリ遮られてしまった。

……やっぱりエリー、何かとんでもないことをしたんでしょ、これ。


ルアナは真剣な顔になって続ける。

「けどアンタらの態度や話しぶりでわかった。ホーリーライトの連中じゃないってな」


「やっぱりホーリーライト、嫌われてるのね」

「当たり前だろ。あのオカルト集団、自分たちが神に選ばれた存在だとか言って、庶民にやりたい放題だ。アタイらからすれば憎む理由しかねえ」


うわー…。やっぱりホーリーライトは、この異界でも似たようなことしてるんだ。私の世界でも散々だったけど、やっぱりどこ行っても嫌われ者ね。


ルアナは私が持っていた推薦状をちらっと見て言った。

「でも驚いたぜ。推薦人にルーサー騎士団長の名前があるとはな。あの人はホーリーライトの中でも数少ない信用できる人間だ。差別とか偏見には反対してる。アタイらにとっては味方みたいなもんさ」


なるほど。逆に言えば、理事長――ルーサーさんがいなかったら、ホーリーライトって完全に暴走集団になってたかもしれないってこと? 想像するだけでゾッとする。


「で、ミズホたちは何であんなところにいたんだ?」


私は闇の力のことは伏せて、それ以外の素性を説明した。

学園の裏側を知ってしまったこと。命を狙われそうになり、理事長の手で異界に逃されたこと。そして今は進むべき道を探すために、探検隊ギルドを目指していること。


ルアナは腕を組んでうなずく。

「なるほどな。学園の闇を知ったおかげで消されそうになって、ルーサー騎士団長に異界へ逃してもらった……か。ざっくり言えば、そういうわけか」


「まあ、そういうことね。とりあえずギルドに入っておけば進む道が見えるかもしれないってことで、街を目指してたの」


「状況は分かった。だがな……街に行ければいいんだが」


ルアナの口ぶりが歯切れ悪い。

「あら、何か心配事でも?」


「街の入り口にホーリーライトの連中が門番として立ってるんだよ。しかもあいつら、ルーサー騎士団長の考えなんて毛ほども賛同してない連中ばかりだ。もしお前が持ってた推薦状を見られたら、逆に『団長派』だってバレて危険になる。ギルドはそういう偏見を持たないから心配いらないが、街そのものに入れなくなるかもしれん」


「……え、ちょっと待って。じゃあ私たち、門を通れない?」


ルアナは苦い顔をする。

「正直、そうなる可能性が高い。少なくとも真正面から突っ込んだら、間違いなく足止めされる」


……マジかー。せっかく誤解が解けたと思ったのに、次の問題がもう出てきた。

これってもしかして、いきなり詰んでるんじゃない?

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