第43話 ミズホとルアナの信条
――あれ?なんか外が騒がしくない?
村の奥から怒号と金属のぶつかる音が響いてきて、私は耳をぴくりと動かした。
「ちっ、アイツら、また来やがったか……!」
「アイツら?」
ルアナがすでに剣を抜いて、まるで飛び出すように駆けていく。私とエリーも慌てて後を追った。
村の入り口にたどり着くと、そこでは小競り合いが始まっていた。いや、小競り合いっていうか……あれはもう乱闘でしょ!?
「ルアナさん!ホーリーライトの奴らが――!」
「見りゃ分かるよ。まったく、しつこい連中だね!」
ルアナは吐き捨てるように言うと、剣を肩にかつぎ直し――次の瞬間、風みたいに飛び込んだ。
鋼の閃きが走り、敵がばったばったと斬り倒されていく。……え、はやっ!?
数で勝ってるはずのホーリーライト兵が、次々と蜘蛛の子みたいに散っていった。
「ルアナさん、ありがとうございます!」
村人の安堵した声があがる。どうやら日常茶飯事らしい。
でもさ……ねえ。
ホーリーライトって、神を崇める立派な組織なんじゃないの!?なんで普通に山賊ムーブかましてんの!?
「あれ、絶対に信者のすることじゃないでしょ……」
思わず声に出したら、横のエリーが苦笑してた。
戦いがひと段落したところで、私は前から気になってたことを聞いてみた。
「ねえ、ルアナたちって一体何者なの?」
ルアナは肩で息をしながらも、口元に笑みを浮かべた。
「アタイらかい? アタイらは“無教徒”の集まりさ」
「無教徒?」思わず首をかしげる。
エリーが補足するように答えた。
「そう。信仰を持たない人たちのことよ。珍しいわね」
「えっ、そんなに珍しいの?」
「そうねえ……世の中って何かしら“信じるもの”が当たり前にあるでしょ? 私たちの異界でもホーリーライトを崇拝しない人は少数はいたけど、バレれば異端扱い。表立って『信じません』なんて言える人はほとんどいなかったわ」
あー……確かに。私も元の世界では、ホーリーライトの授業とか、真面目に聞かずに流してたっけ。あれ、もしかして私もほぼ無教徒じゃん。
「けどさ、信じるかどうかなんて個人の自由じゃない? いくら無教徒だからって、ここまで弾圧する!?」
「ミズホの言うとおりだ」ルアナが真顔でうなずく。
「だが現実は違う。学校でも当たり前のように“ホーリーライトの教え”を組み込んでる。子どもの頃から刷り込まれりゃ、信じ込むのも当然さ」
「……まあ、そういうのは、あるかも」
私は苦い顔をした。確かに、あれはもう洗脳に近い。
「けどよ」ルアナは剣を地面に突き立てて言った。
「信じてないからって、差別や暴力までしていいわけがない。アタイらはそれに反発して、この村に集まった。ここは“無教徒の砦”ってわけさ」
さっきまでの小競り合いを思い返して、私は彼女たちがどれだけ強い憤りを抱えてるか、ようやく理解した。
正直、ホーリーライトなんて私にとってどうでもいい存在。だけど――。
「……でも、差別とか一方的な暴力は絶対に見過ごせない」
自然とそんな言葉が口からこぼれていた。
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