第32話 ミズホとシキの戦いの真実
何で、私、正座させられてるんだろう……。
いや、そりゃ確かにやりすぎたのは自覚してる。
でも、勝ったんだから結果オーライじゃない?って思った矢先に、はい説教タイム。
「ミズホさん、魔道波のような、連続で放つ魔法はやめなさいって、前にも言ったでしょ! あなたの場合、ただでさえ威力が高いんだから!」
アマンダ先生の声が雷みたいに落ちてくる。
私は正座のまま小さくなって、蚊の鳴くような声で返事するしかない。
「うう……ごめんなさい……」
「エリンさんが咄嗟に防御魔法を張ってなかったら、本当に図書館が瓦礫になってたのよ?」
横で、エリーまで呆れ顔。
あああ……親友の視線が一番堪える。
さらに極めつけに、膝の上にどっかりと乗ってるクロが小声でトドメを刺してくる。
「闇魔法は一撃ごとの負担が大きいから、慎重に扱うニャ。分かったかニャ?」
分かったよ! 膝が痺れてるんだから、そろそろ退いてよ!
心の中で叫んだけど、もちろんクロは微動だにしない。精霊のくせに妙に居座り力が強い。
……でも、ふと思い出す。
さっきまで戦ってたシキのこと。彼女は先生たちを結界に閉じ込めていたはずだ。
「それより、先生たちはシキに囚われてたんじゃ……?」
私の問いに、アマンダ先生はふぅ、と一息ついて首を振った。
「そうね。まずは現状を整理しましょう。そろそろシキさんも目を覚ましている頃よ」
現状整理……? 先生の声は落ち着いてるけど、なんだか意味深。
私は痺れた足をずるずる引きずりながら、倒れていたシキの方へ向かった。
理事長が回復魔法をかけてくれていたおかげで、シキはすぐに意識を取り戻した。
いつもの冷静な瞳が、まっすぐ私を捉える。
──幼馴染のその目が、敵として光っていたさっきとはまるで違う。
「シキ……どうして……」
私の問いに、彼女はゆっくりと息を吸い込み、まっすぐに答えた。
「ごめんね、ミズホ。私があなたに戦いを挑んだのは、闇の力を持つのに本当に相応しいかを確かめたかったから」
「確かめたかった……?」
「そうよ。闇の力は一歩間違えれば、自分をも滅ぼすほど危険なものだって聞いているわ。そんな危険な力を……幼馴染が手に入れたのに、黙って見過ごせると思う?」
シキの声は静かだけど、その奥には揺るぎない決意があった。
私は言葉を失い、ただ彼女の瞳を見返す。
「あなたが闇の精霊と契約したって話、偶然耳にしたの。エリン様と話していたときね」
──あの日。私とエリーがクロの声について話していた時か。
まさかシキに聞かれていたなんて……。
「それを確信したのは、図書館で私が倒れたときよ。あの時、異常なほどの闇の気配が漂っていた。でもあなたは、それに呑まれず、私を助けてくれた。その瞬間、私は確信したの。あなたは選ばれた存在なんだって」
シキの口調が少し和らいだ。
でも、その瞳に宿る強さは失われていない。
「だからこそ、あなたが闇の力を得たとき、戦いを挑むと決めていたの。もし闇に堕ちるなら、私が止めるために。……そして、挑発してまであなたの覚悟を見たかったの」
胸の奥がじんわりと熱くなった。
シキ……。全部、私を心配してのことだったんだ。
「けど、本当にごめんなさい」
シキが小さく笑みを浮かべる。その笑顔は、いつもの幼馴染の顔だ。
「でも、分かったわ。あなたの覚悟は本物。私はもう、疑わない。ミズホ……私は、あなたを信じる」
──その一言で、私の視界がにじんだ。
「シキ……ありがとう……」
声が震えて、言葉にならなくなりそうだった。
敵じゃなくて、幼馴染として。
シキが私を認めてくれた、その事実が何より嬉しかった。
膝の上のクロがふんっと鼻を鳴らした。
「やれやれ、面倒な試験だったニャ。でも、結果オーライかニャ」
私は苦笑しながら頷いた。
うん。結果オーライ。いや、むしろ最高の結果だと思う。
だって私は、闇の力を得て──そして、大切な幼馴染に「信じてもらえた」のだから。
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