第33話 ミズホとスパイ達の結束

「理事長、私たち生徒会も──闇の精霊の件を支持します」


シキがはっきりと言い切った瞬間、耳を疑った。

え? 今、何て言った?


「え……シキ? 今、“生徒会”って言った?」

「そうよ。生徒会は、ミズホと闇の精霊の件を支持するって決めたの」


あまりに自然に言われて、頭の中が真っ白になる。

生徒会? 支持? どういうことなの?


「九段君はね、ルーラの生徒会として、闇の精霊に関する調査を学園長から命じられてたんだよ」

理事長がさらっと補足してきたけど……いや、ちょっと待って!?!?!?


「ちょ、ちょっと待って! シキって……ホーリーライトの一員なんじゃなかったの?」

「そんなこと、一言も言ってないでしょ」


……あ。確かに、一言も言ってなかった。完全に私の早とちりだった。


「じゃ、じゃあ最初に見かけたホーリーライトの人は……?」

「倒して捕らえたよ。今頃は生徒会の他のメンバーに尋問されてるはずだ」


「ええっ!? ……じゃあ、シキが結界に閉じ込められてたのは?」

「私の回復魔法だよ。あれ、フィールド型だから、外から見ると閉じ込められてるみたいに見えるの」


………………。


「つまり、シキは最初から敵じゃなかったってこと? 私と戦う必要……あった?」


問いかけながらも、胸の奥にずしんと重いものが落ちる。

あの死闘……完全に空回りだったってこと!?


「生徒会に入って力をつけてきたのは確かよ。でも、今の私の実力があなたにどれだけ通じるのか、それが知りたかったの」

シキはまっすぐな瞳で告げる。


「結果、ボコボコにしてしまったけどニャ」

肩の上のクロが、やけに冷静にツッコんでくる。


「ミズホ……」

エリーの視線が痛い。心配半分、呆れ半分。


うぅ……この視線コンボ、きっつい……!


「いいのよ、実力を知りたかったのは私の方だから」

そう笑うシキ。その笑顔が、余計に胸に突き刺さる。


「……ところでシキ。生徒会って、何よ?」

私は思わず口にした。だって私の知ってる生徒会といえば──

真面目に書類仕事をこなすか、行事の準備で右往左往するか、せいぜいその程度。

スパイ活動なんて絶対やってない。


「生徒会はね、学園長の依頼で学園のために行動する集団よ。学園の理にかなうことなら──どんなことでもやる」

「ど、どんなことでもって……」

「学園に害をなすものは排除する。有益な情報が必要なら、どんな手も使う」


はい。完全にスパイ組織の別名でした。

これ、私の知ってる「生徒会」とはまるで別物。影のエージェント組織でしょ!?


「理事長やアマンダ先生から“闇の精霊が学園にいる”とか“ホーリーライトが暗躍してる”とか聞かされても、正直、半信半疑だった。だから、学園長の命で調査してたの。でも、今回で確信に変わったわ。この学園はホーリーライトとの関わり方を真剣に考えないといけない」

シキの真剣な言葉に、理事長が重々しく頷く。


「うむ、理解してもらえて助かる。我々も動きやすくなる」


……なんだろう。今この瞬間、スパイ同士の同盟が結ばれたみたいな空気になってるんですけど!?


私は完全に置いてきぼり。ぽかんとするしかない。


「それよりも──ミズホ」

シキが真剣な眼差しを私に向けた。


「これからあなた自身の“身の振り方”を考えないと」

「えっ……?」


「あなた、闇の精霊と契約したんだよ? この事実を、ホーリーライトや他の組織がどう見るか……想像できる?」


「え、えーっと……」


頭の中に、嫌なイメージが次々浮かんでくる。

──闇の力を持つ私を“排除すべき脅威”と見る勢力。

──逆に“利用すべき道具”として狙ってくる連中。

──あるいは“闇の器”と崇めて縋ろうとする狂信者。


どのパターンもろくな未来がない。


「……これって、もしかして……」


喉が勝手にごくりと鳴る。

心臓が嫌なリズムで脈打ってる。


「私……とんでもない大ごとに巻き込まれちゃってる……!?」

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