第31話 ミズホとシキの対決

「シキ、どうして……?」


口から漏れた声は震えていた。驚きと、信じたくない気持ちとで胸がいっぱいになる。目の前に立つのは、幼馴染のシキ。ずっと一緒に笑って、喧嘩して、励まし合ってきた大切な子。その彼女が、今は冷たい仮面を外し、真っ直ぐ私に敵意を向けている。


「どうして? 分かるでしょ」

シキの声は澄んでいたけれど、氷みたいに冷たかった。

「今の私はあなたの敵。アマンダ先生たちを助けたいなら、そしてその闇の精霊を守りたいなら──私を倒しなさい」


胸が痛んだ。冗談であってほしかった。でも、彼女の瞳に迷いはなかった。本気で私を倒すつもりだ。


「……本気、なんだね」


「私が冗談を言うとでも?」


次の瞬間、眩しい光が奔った。シキの光魔法が容赦なく迫る。思わず体が反応して、私は闇の防御魔法を展開した。黒と白の光がぶつかり合い、耳が痛くなるほどの轟音を立てる。


……これが、シキの本気。


「シキ、あなたが本気なのは分かったわ。けど──あなたは私には勝てない」


「くっ……確かに、実力じゃ届かない。でも、それでも……私はあなたを超えてみせる!」


強い。だからこそ怖い。彼女は、ただの敵じゃない。私の知っているシキだからこそ、胸の奥がざわつく。


だけど、今は立ち止まれない。理事長たちを救うため、そしてクロを守るため、戦わなきゃいけない。


「なら……私も全力で行く!」


私はシキの光魔法を闇で相殺しながら、詠唱なしで魔力を練り上げた。


「なっ……ミズホ、あなた……無詠唱で魔法を!?」


そう、私は詠唱なしでも魔法を発動できる。努力して、努力して、積み重ねた私だけのやり方。普段はカッコつけて詠唱してるけど、実は頭の中でイメージを描けば魔法を放てちゃうのだ。


「詠唱なしのおかげで編み出した技もあるのよ。アマンダ先生からは、使うなって散々怒られたけど」


「ミズホさん、まさかアレを使うつもりですか!?」

結界の中で意識を取り戻しかけていたアマンダ先生が、声を張り上げた。


「アレ……? って、先生、それなに?」

エリーが青ざめながら聞き返す。


「エリンさん、今すぐ防御を張りなさい! 本気で図書館ごと吹き飛びます!」


「ええっ!?」


……大げさすぎない? まあ、ちょっと危険なのは認めるけど。


拳に魔力を集中させる。クロが肩の上でビリビリと毛を逆立てているのが分かった。


「シキ、これが私の全力だよ!」


黒いオーラが腕にまとわりつく。体の奥底で燃えるような熱と、ぞくっとする冷たさが同時に走る。


「奥義──闇魔道波ッ!!」


轟音と共に、拳から漆黒の衝撃波を連射する。空気が震え、床が砕け、視界が闇に覆われる。隙を与えず、何度も何度も叩き込む。


「ぐっ……あああっ……!」


シキの体が吹き飛び、結界の縁に叩きつけられた。彼女は呻き声を上げ、そのまま意識を失う。


「……はぁ、はぁ……」


ようやく拳を下ろした。全身の力が抜けていく。


「ちょ、ちょっとミズホ……今の、本気で魔王の所業よ……」

エリーが顔を引きつらせている。


「うわぁ……これは完全にやりすぎニャ。さすがにドン引きニャ……」

クロまで冷や汗をかいてる!?


「えぇ!? ちょっと、二人とも引かないでよ!? ちゃ、ちゃんと手加減したってば!」


「手加減ってレベルじゃないわよ……。私が防御魔法で抑えてなかったら、図書館が跡形もなく吹き飛んでたわ……」


え……まじで? やっぱりちょっと出力強すぎたかな……?


でも、でも! 結果的には勝ったんだからいいじゃない! 理事長もアマンダ先生も無事だし、クロだって守れた。ポジティブに考えれば、大成功だよね!


……ただ、気を失ったシキを見下ろすと、胸の奥が締めつけられる。


どうして、こんなふうに戦わなきゃいけなかったんだろう。


彼女は何を思って、私に刃を向けたんだろう。

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