第30話 ミズホと初めての闇の力の戦い

戦うって決めたのはいいけど──あれ?

私、闇魔法で戦い方なんて全然知らないんだけど!?


「ちょ、ちょっと待って!クロ、これって、いきなりピンチじゃない!?」

肩の上で丸くなっていたクロが、だるそうに尻尾を振った。


「ピンチだからこそ学ぶのニャ。実践で身につけるのが一番早いニャ」

「えぇぇ!?チュートリアルとか練習モードとかないの!?」

「ないニャ。人生はぶっつけ本番ニャ」


……なんか説得力あるようなないような。

でも、ここで尻込みしてる暇なんてない。私は深呼吸して構えを取った。魔法を初めて覚えた頃の、あの妙な緊張感を思い出す。


「まずは、心の奥にあるマイナスな感情をイメージするニャ」


マイナスな感情……かぁ。

ちょっとムカついたときとか、不安とか、寂しいとか……。そういうのを意識してみると──。


「……えっ」


手の中に、黒い球体みたいなのが現れた。まるで影を凝縮したような、小さなエネルギーの塊。


「それが闇魔法の基本、ダークショット的な技ニャ」

「これが……?なんか地味じゃない?」

「敵は待ってくれないニャ!撃つニャ!」


言われるまま、黒い球を仮面の敵に投げつけた。


──バシュッ!


乾いた音を立てて、あっさりと弾かれる。


「ふふ……これが闇の力?子供の遊びみたいなものね」

「うわぁ、秒でバカにされた!」


……まあ、確かに。威力も派手さもない。基本攻撃だし、仕方ないのかもしれない。

でも──逆に、これってもしかして……。


考える暇もなく、敵の魔法が飛んでくる。光の矢のような鋭い一撃。

「やばっ!」

私は咄嗟に、いつもの得意魔法を発動した。


「ファイヤーボール!」


轟音とともに炎が弾ける。だが、それはただの火球じゃなかった。


「にゃっ!?ミズホ、それ……」

「そう!ただのファイヤーボールじゃない!」


私は心の中でさっきの黒い球を思い浮かべ、炎に混ぜ込んで放っていたのだ。


──ズドォン!


「ぐっ……!? この私の防御を……貫通した!?」


白ローブの仮面が驚きにわずかに揺れた。

よし、効いてる!


「やった!狙い通り!」

「ミズホ……今の、火と闇の複合魔法……?」エリーが目を見開く。

「そう!ハイブリッド必殺技!名付けて……ダークファイヤー!」

「安直ニャ!」

「うるさい!」


だけど、手応えは確かにあった。

闇の力を、ただそのまま使うんじゃなくて、自分が慣れ親しんできた魔法に混ぜ合わせる。それなら私らしく戦える!


「……想定外ね。闇を手懐けただけじゃなく、既存の属性と融合させるなんて……」

「でしょ? これが篠崎ミズホのオリジナルだよ!」


息は切れてる。汗もだらだら。でも胸の奥は熱い。

私、今ちゃんと戦えてる。怖くないわけじゃない。でも、この流れは絶対に掴む!


「よし、あとは……そのふざけた仮面、剥がさせてもらうからね!」


私は力を込め、狙いを定める。

クロが肩で「いけニャ!」と囁く。エリーも私を信じて頷いてくれる。


「──ダークファイヤーッ!」


炎と闇が渦を巻き、爆発的な力を生み出した。

その一撃は、相手の仮面を吹き飛ばすには十分だった。


カラン……と硬い音を立て、仮面が床に転がる。


「さて……正体を見せてもらおうじゃない」


期待と緊張と……ほんの少しの怖さを抱えながら、私は顔を見た。


「……えっ」


目の前に現れた顔。それは──あまりにもよく知っている顔だった。


「し、シキ……?」


声が震えた。

エリーも息を呑む。


「嘘……どうして……?」


幼い頃から笑い合い、共に魔法を学んだ幼馴染。


その彼女が、今は私たちの敵として立っていた。


「くっ……見られてしまったか」


低く、苦しそうな声。けれど、それは間違いなく──シキの声だった。


私の心臓は大きく跳ねた。

戦っていたはずの手が、思わず震えて止まる。


──どうして、シキがここにいるの?

──どうして、敵なんかの側に……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る