第26話 エリーとミズホの大調査2
私たちは急いで噴水広場へと向かった。
そこで目にした光景に、私は思わず息を呑んだ。
――な、何これ……ひどい。
かつては色とりどりの花と青々とした緑に彩られていた広場が、見るも無惨な姿に変わり果てていた。
噴水の周囲に植えられていた植物は、まるで命を吸い取られたかのように枯れ果てている。
この場所は、ルーラ魔法学園の中でも特に好きな場所だった。
魔力が込められた噴水の音に、穏やかな草花の香り――癒される空間だったはずなのに。
「ひどいわね……誰が、こんなことを……」
私は呆然と立ち尽くした。
「ミズホ? どうしたの?」
ふと見ると、ミズホがしゃがみ込んで枯れた植物を見つめている。
「枯れてるのに、植物が湿ってる……」
彼女は、落ち着いた声で言った。
「もしかしたら、これが原因なんじゃない?」
私もそっと近づいて目を凝らす。確かに、しおれている植物に、異様なほどの水気が残っていた。
それも、ただの水じゃない。どこか、不自然なぬめりと匂いがある。
ミズホは、持っていたフラスコにその水滴を慎重に集めはじめた。
「何をしてるの?」
「この成分を調べてもらおうと思って」
「調べるって……誰に?」
彼女が私を連れて向かったのは、魔法薬学の教師・メイリア先生の研究室だった。
正直、ミズホと先生はあまり相性が良くないとばかり思っていた。
でも今のミズホは、そんな感情を挟まずに“真実を知る”ために動いていた。
その姿を見て、私は少しだけ胸が熱くなった。
「まあ、篠崎さんにエリン様。どうしましたの?」
先生の問いかけに、ミズホは落ち着いた声で答える。
「これの成分を調べてほしくて。さっき噴水広場で、不自然に枯れた植物から採取しました。……もしかしたら、それが原因かもしれないって思って」
差し出されたフラスコを受け取り、メイリア先生はすぐに成分分析を始めた。
その手際の良さと集中力は、さすが専門家というべきだった。
しばらくして、先生が顔を上げ、私たちをまっすぐ見つめる。
「……あなたたち。これ以上、この件に深入りしない方がいいわ。これはただの悪戯じゃない。下手をすると、大変なことに巻き込まれるかもしれない」
その言葉に、私は背筋がぞくりとした。
「え……?」
「せめて、結果だけでも教えてください」
私が口を開くと、先生は溜息をつきながらも答えてくれた。
「……まあ、どうせ篠崎さんのことだから、止めても首を突っ込むでしょうしね」
さすがに、ミズホのことをよくご存じだわ……。
「採取された液体の成分――その中に“ココロソウ”が検出されたわ」
私は一瞬、言葉を失った。
それは今朝、盗まれた薬品の中に含まれていたものと一致している――?
「でも先生、ココロソウって、回復薬とかに使われる安全な素材じゃなかったんですか?」
ミズホが、怒りを含んだ声で問いかける。
当然の疑問よ。私だって、教科書にはそう書いてあると記憶している。
「ええ。現時点ではね。だけど……研究は進んでいるわ。ココロソウの中に、微量ながら神経毒に変化する成分を持っている可能性が示唆されているの」
「それって……まさか、誰かが毒の研究をしてるってこと……?」
「その可能性はあるわ。そして――この水滴に含まれていた成分は、今朝盗まれた上級用ココロソウとほぼ一致していた」
「つまり……噴水広場の枯死事件と、薬品の盗難事件は、同一犯……」
私は喉が乾くのを感じた。
これは、ただの“いたずら”じゃない。明確な意図を持った誰かが、危険な薬を使おうとしている……?
「あなたたち、本当に気をつけなさい。これは、表には出せないレベルの問題かもしれないわ」
先生の声には、確かな緊張感があった。
私は横目でミズホを見る。
その顔は、いつになく真剣で――でも、怖がるどころか、むしろ目を輝かせていた。
……やっぱり、この子はすごい。
誰よりもまっすぐで、迷いなく“真実”に向かっていける子。
私は、そんなミズホの背中を、絶対に守りたいって思った。
「ミズホ……最後まで一緒に行くわよ」
「うん、エリー!」
手がかりはまだ少ない。でも、確かに一歩、核心に近づいた。
これはきっと、魔法学園の闇に触れる事件。――でも私たちは、止まらない。
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