第27話 エリーとミズホの大調査3

ーーただの盗難事件。最初は、そう思っていた。


でも、気づけば私たちは――もしかすると、とても危ない何かに踏み込んでいるのかもしれない。


「……なんか、とんでもないことになったわね、ミズホ……。これから、どうするの?手がかりもなくなっちゃったし……」


私の問いかけに、隣を歩くミズホは腕を組んでうーんと唸る。


「うーん……もう一度、監視カメラを確認してみようか。噴水のあたりに、何か映ってるかもしれないし」


その提案に、私はコクンと頷いた。

彼女の目は真剣だった。


まるで、自分が犯人扱いされた悔しさを糧に、意地でも真実に辿り着こうとしているようで――

そんな姿を見て、私の胸も、ぎゅっと熱くなる。


再び向かった守衛室。

顔なじみの守衛さんは、ミズホが来るなり笑顔で迎えてくれた。


「やあ、ミズホちゃん。来ると思ってたよ。さっきの噴水広場の件、ばっちり“犯人らしき人影”が映ってた」


「ホント!?さすが守衛さん!さっそく見せてー!」


目を輝かせるミズホの横で、私はそっと息をのんだ。


けれど──


「ただし……顔は見えないよ。深くフードを被ってて、性別もわからないくらいだ」


映像に映っていたのは、確かに“それらしき人物”。

けれど、逆光のように黒い影になっていて、顔も服のディテールも読み取れない。


唯一分かるのは、動きがしなやかで、どこか慣れている印象。


「……あれ?」


映像を見ながら、私の目がある一点に引き寄せられた。


「守衛さん、ここ……この部分、拡大できますか?」


「ん?どのあたり?」


「この人の“手の甲”の部分……なんだか、目立つような傷跡が見えたような気がするの」


守衛さんが操作すると、映像がカクッと拡大された。


「……本当だ。これは……切り傷?いや、焼き跡のようにも見えるな……」


「すごいよ、エリー!よく見つけたね!」


隣でミズホが、ちょっと羨ましそうに言った。

……えへへ。なんだかちょっと、誇らしい。


「でも、手がかりはこれくらいね。顔もわからないし、特徴らしい特徴って……この傷跡くらい」


「うーん、残念だけど……確かに、現時点ではここまでかもね」


沈黙が落ちた。

だけど、それは“諦め”というより、“一度仕切り直そう”という合図だった。


私たちは、しばらく映像を眺めてから守衛室を後にした。 


夜風が涼しく感じられる帰り道。

噴水広場のこと、盗まれた薬のこと、そしてあの得体の知れない“毒”の成分――


正直、少しだけ怖かった。

でもそれ以上に、私はいま、少し“楽しい”と感じていた自分がいた。


「……あーあ、犯人とっ捕まえてやりたかったなあー!」


大きく伸びをしながら、ミズホが不満げに唸る。


「ふふっ、仕方ないわよ。今はこれ以上の手がかりもないし」


「でもさ、せっかくここまで来たんだから、絶対見つけてやるから!」


真っ直ぐな声に、私は不思議と胸が温かくなった。


ふと、口をついて出た言葉。


「ありがとう」


「え? どうしたの?」


ミズホがきょとんと首を傾げる。

私は慌てて笑って、ごまかした。


「な、なんでもないわ!」


「えー、なにそれ気になるー!」


「内緒。女の子には秘密のひとつやふたつ、あるのよ?」


「むぅー!エリーずるい!」


そんな彼女を見て、私はクスッと笑ってしまった。


ただの盗難事件だと思っていた。

けれど、実際はその裏に何か、大きな闇が隠されているかもしれない。


でも――


私は怖くない。

だって、隣にミズホがいる。

正義感が強くて、どこか危なっかしくて、だけど本当にまっすぐな子。

彼女と一緒にいれば、きっとどんな困難も乗り越えていける。


王女でもなく、優等生でもなく、

“ただの私”として、隣にいられるこの時間が、今の私にとって何よりも大切なのだと、

あらためて思った。

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