第2章 立場を超えた友情物語

第19話 エリーとミズホの出会い

私の名前は――

エリン・フォン・ルミナス。


光の名門、ルミナス家の令嬢。そして、シグマランド王国の王女。

……といっても、王位継承権は低く、国政の最前線に立つこともない。だからこそ、私は「自由」でいられるはずだった。


私は今、この魔法学園ルーラに、留学生として在籍している。

世界でも屈指の名門校。優れた教師陣と、練り込まれた実践的なカリキュラム。ここなら、私の魔力量も技術もきっと鍛えられると思った。


――でも、現実は、甘くなかった。


どこへ行っても「王女様」としての私しか見られない。

笑顔も、会話も、魔法すらも、私の“家柄”を前提にしてしか返ってこない。


それがどれほど――息苦しかったか。

私は、「肩書き」ではなく、「私自身」として、ただ認められたかったのに。


そんな日々を変えたのが――彼女だった。


篠崎ミズホ。

その日、魔法実技の授業で私は初めて彼女と出会った。


課題は、魔法を使った模擬戦。私の得意科目だ。

でも、これまで誰も本気を出してはくれなかった。遠慮、忖度、建前……そればかり。


けれど――


「いくよっ!」


彼女は、容赦なく私に魔法をぶつけてきた。

一切の躊躇もなく、真正面から、私に向かって――。


「ッ……面白い!」


思わず、笑ってしまった。

本当に、心からワクワクした。胸の奥が熱くなる感覚。忘れていた“本気”の喜びが、一気に蘇った。


火花のようにきらめく攻防。華やかで、激しくて、まるで舞うような魔法の競演。

お互いの魔力がぶつかり合い、空気が震えるその一瞬一瞬が、たまらなく楽しかった。


授業の終わり、私の心は、躍っていた。


「あなた、やるじゃない! ここまでの相手は初めてよ!」


「ふふ、ありがとう。そっちこそ、負けてなかったね」


その時、私は確かに感じた。

この子は、私の“肩書き”じゃなく、“私”を見てくれたんだと。


――けれど、すぐに現実が割り込んできた。


「おい篠崎! この方に本気で攻撃するって、どういう神経してるんだ!」


実技担当の教師が血相を変えて駆け寄ってくる。


「実技の授業なんだから、いいじゃない!」


「お前なぁ……! 反省文、提出しろ!」


「はあ!? なんで私だけ怒られるのよーっ!?」


……それを横で見ていた私は、つい――笑ってしまった。


ああ、なんてまっすぐな子なんだろう。


誰にも遠慮せず、自分の信じたままに動いて、言葉にして。

それでいて、どこか憎めない。


まるで、光に飛び込んでくる風みたいに、彼女は私の退屈な日常をあっさりと変えてしまった。


その瞬間、私は決めたの。


この子と、もっと話してみたい。知りたい。

そう思えたのは、学園に来てから――初めてだった。


これが、私とミズホの出会い。

この日から、私の世界は確かに少しずつ、音を立てて変わり始めたのだった。

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