第17話 ミズホと闇の精霊の契約
扉を進むと、そこには…ただただ広いだけの空間が広がっていた。天井が高くて、どこか空虚で静かで――不気味なほど静か。
でも、その中心にぽつんと祭壇が置かれていた。
あそこだ。きっと、あそこに何かがある。
図書館で闇の精霊の声を聞いて以来、ここまでずっと声は聞こえなかった。でも、ここに封印されてるのかもしれない。何かが…確かに、ここに「いる」気配はする。
「ねえ、エリー。ここまで来たのはいいけど、ここからどうすればいいのかしら?」
私の声も、天井に反響して吸い込まれていくようだった。
「私がスザクと契約した時はね、ペンダントを通してだったわ。だから、きっと…精霊を象徴するアイテムがどこかにあるんじゃないかな」
エリーの言葉にうなずきながら、祭壇に近づく。
――あった。真ん中に、小さな黒い指輪が置かれている。なぜか、その存在が目に入った瞬間、ぞくりと寒気が走った。闇の力…だ。間違いない。
「ねえ、エリー。この指輪かな?」
「これかしらね。でも…私でも分かるわ、この指輪…すごく、強い闇の力を持ってる」
私の手が自然と指輪に伸びた。この指輪が鍵なら、これを通して精霊に会えるのかも…。
「ミズホ、まずは指輪を持って、目を閉じて。心を集中させて、闇の属性を感じて」
うん、分かった。
指輪をそっと手に取って、目を閉じる――。
……一瞬で、世界が変わった気がした。
辺りは真っ黒。先ほどまでいた空間じゃない。
「エリー?…エリー!?…どこにいるの!?」
私は一人だった。視界の先に、もやのように揺れる黒い影が浮かんでいる。
「貴様がミズホか。ようやく会えたな」
低く響く声。威圧感に思わず身がすくむ。
「アンタが…闇の精霊なの?」
影には実体がない。けれど、確かに“そこに在る”のがわかる。
「そうだ。ここまで来るとはな。凡庸な人間には到底届かぬ場所だ」
「できれば平穏に暮らしたかったけど、アンタがこのまま消されるのは…なんだか違うって思ったのよ。私は…この目で、ちゃんと知りたかった」
「ふん。ホーリーライト如きに、我が屈する姿など想像できぬがな」
その力が、圧倒的だった。飲まれそうなほどの闇。近くにいるだけで、心が引きずられる。
でも、私は逃げない。
「それでも、私は知ったの。闇には闇の役割があることを。そして、それを一方的に否定することは…間違ってるって」
「契約すれば、お前はこの世界で異質な存在となろう」
「構わない。私は、あなたの力を受け入れて、共に進みたい。差別のない世界にするために」
一瞬、黒い影がゆらいだ。まるで…笑ったような。
「よかろう。では、我の力を受け入れよ。その身に、我の闇を刻むがよい」
モヤモヤとした影が私に向かってくる――体の奥深くまで、闇が流れ込んでくるのを感じた。
う、うわああああああ……!
重い。濃い。苦しい。
自分の中に、何か異なるものが入り込んできて――私は自分じゃないような感覚に襲われる。
でも、私はここで闇に負けたりしない!
――私の意思で、受け入れるんだ!
そう心の中で叫んだ瞬間、闇は静かに、穏やかに、私の中に馴染んでいった。
あれほど重かったはずなのに、今は不思議と軽い。
何か…新しい力が目覚めたような感覚。
「ほぉ…我の力を受け入れたか。なるほど、お前にはその器があったようだな」
闇のモヤモヤが、少し小さく、そして穏やかになったように見える。
「これで…あなたの力を受け入れた。契約成立、ってことでいいのよね?」
「ああ、ミズホよ。我の契約者として、お前を認めよう」
私の中に宿った闇の力。それは恐ろしいものじゃない。
でも、決して甘く見てはいけないものでもある――
私はそのことを、体で理解した。
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