第7話 存在しない騎士団部隊

「アッチ、アッチ」

「アッチ、アッチ」

インコの不気味な繰り返しがダンジョンに響く。

 

 俺とイッヌは、魔法ランプのわずかな光を頼りに、ゆっくりと歩みを進めていた。


「モモ様ぁ……怖いから帰りませんかぁ……?」

情けない声をだし、イッヌが俺の背後にぴたりとくっつく。


「おいおい……」

俺は苦笑しながら肩越かたごしにイッヌを見る。

前世ではいっしょに鬼も倒したのに、ずいぶんしおらくなってるな。


「何かあっても俺が守るから、離れるなよ」

そう言うと、イッヌはコクコクと小さくうなずいた。


「アッチ、アッチ」


「アッチ、アッチ」

インコの声が、先ほどよりも冷たく無機質に響く。


 進んでいくと、通路の先に、壁がぽつんと見えてきた。

――急に、インコの声が高くなる。

「ココ、ココ」

「ココ、ココ」


 鋭く、金切り声のような鳴き声が、ダンジョンに反響する。

イッヌが、ビクリと肩を震わせた。


 ゆっくりと息を潜めて魔法ランプを掲げる。――しかし、見えるのはただの石壁だ。


「インコちゃん、間違えたんですかね?」

イッヌがほっとしたように笑う。


 だがインコは、なおも同じ場所を指し示すように、鋭い声で鳴き続けた。

「ココ、ココ!!」

「ココ、ココ!!」


「まさか……」

壁に手を近づけてみる。

すっと、手が壁をすり抜ける。

「魔法障壁か」

俺は納得しながら、壁の中へと足を踏み入れた。


「うぅ~。絶対やばいやつあるぅ……」

イッヌはぶつぶつ言いながらも、俺のすぐ後ろをついてきた。


 中には小さな空間ができていた。


 魔法ランプをかざす。

目の前に現れたのは――


 見渡す限り、少なくとも30体はある。

おそらく行方不明になっていた騎士たちの遺体だろう。

だが、誰が、なぜここに?


「ふひぃぃ……」

イッヌが小さな悲鳴を上げ、俺の背後に隠れた。

「大丈夫、大丈夫だよ」

俺はイッヌを安心させようとした。


「い、いや、死体も恐いですが、あ、あれ……」

イッヌの指が震えながら差す先

──それは、ダンジョン入口にいるはずのノアの死体だった。


「死んじゃったんですか? さっきの人」

俺は死体に近づき、その顔を確かめた。

「……いや、見た感じ、死後数週間は経ってる」

「えっ!? ってことは……」

「そう。外にいたノアは──偽物にせものってことになるな」


 その瞬間、背後から殺気が走る。


「危ないっ!」


 風を切る音。

俺は反射的にイッヌの方へ飛び込んだ。

ガッとイッヌを抱き寄せたその瞬間。


 ――ザシュッ!!

鋭い切っ先が俺の背を裂いた。  


「モモ様!」

イッヌの叫びがダンジョンに響いた。


 だが、大丈夫。こんな傷、ないも同然だ。


 シュゥゥ……

俺の傷口から光の粒があふれ、裂けたヒフがみるみる元に戻っていく。  

ほんの数秒で何事もなかったかのように修復された。


「え……えぇっ!?」

イッヌが目を丸くして、声を上げた。


「安心して。ちょっと痛いだけだよ」

ゆっくりと立ち上がり、俺は背中を軽くさする。


「ほう。修復。お前の魔法は身体強化か……だが、その身のこなし、本当に新米冒険者か?」

声の主は、剣を構えたノア──いや、ノアの姿をした偽物だった。


「近衛騎士団九番隊だ。大人しく降参しろ、偽物」

「くっくっく……クチキのジジイにだまされてたってわけか。で? 騎士団はどこまで知っている?」

ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべる偽ノア。


 降参する気はないってわけか。

「さぁな。お前から聞き出すさ」

――右手をすっと空気に切るように振る。

瞬間、偽ノアの身体がぴたりと止まった。


「なっ、何だこれは……動けん、い、息が!」

白いねばついたものが首を絞めていく。

「お前……二つ魔法が使えるのか?」


 その様子を見ていたイッヌが「お、おもち!」とつぶやいた。

なぜか目が輝いている。

――そう、俺のもう一つの魔法はもちを出現させ操る魔法だ。

見た目は地味だが、硬化や粘着性を自在に操れる便利な能力。


「ぐええぇぇぇ!!」

偽ノアは苦しみながら気を失い、倒れ込んだ。

イッヌが駆け寄ってくる。


「モモ様! すごいです。でも、魔法は一人一つのはずなのに、なんで?」

イッヌが目を丸くして、俺を見上げる。


「さぁね。前世も一人としてカウントされてるのかもな」

肩をすくめながら答えると、イッヌは「えぇっ!」と息をのんだ。


「モモ様と桃太郎様で二人分……あれ、でも私も前世あるのに、魔法、一つですよ?」

自分の胸に手を当てて、首をかしげる。


「前世、獣人いぬだったからじゃない?」

「もぉ! 心は人間でしたよ!」

小さな手で、ぽかぽかとたたいて抗議してくる。


「悪かったよ」

俺は笑いながら謝り、右手をすっとあげた。

すると、白くてふわふわしたもちが現れる。


「わぁ! なつかしい、おもちだぁ!」

イッヌの目が輝き、餅を掴むと、もぐもぐと食べ始めた。


 ……周りは死体だらけなのに、ほんと、美味しそうに食べるなぁ。

昔から、俺以外が目に入らなくなるとこあったけな。なつかしい。


「モモ様、貧しい人達にもおもち配ってますよね? その噂をきいて、モモ様だっ! てずっと探してたんですよ」

俺は黙ってその姿を見つめ、ふっと笑みをこぼした。

「金がなくてメシ食べれないことよりツラいことはないからな……さぁ、そんなことより腹ごしらえが終わったら、ここの調査に入ろう」


「あー、油断したぜ……」

偽ノアの声がした。


 なっ……嘘だろ……!?

完全に気絶させたはずだ。並の人間なら目を覚ますはずがない。


「ったく、援軍呼んどきゃよかったぜ」

――援軍!? 組織的な犯行なのか? 何を企んでいる?


 メキッ、メキッ。

偽ノアの体が裂けていく。

――次の瞬間、皮膚の内側からぬめる体が、ずるりとはい出てきた。


「わわっ、魔族」

イッヌが俺の背後にぴたりと隠れる。

インコまで「マゾク、マゾク」となぜか繰り返す。


 背丈は俺と同じくらい、見た目はゴブリンのようだ。

「へへっ。ちょっとビビったが、お前の徽章きしょう見たことないな。雑魚騎士なら本気だしゃ倒せるぜ」


「モモ様! またおモチで――」

「いや、無理だ」

イッヌの言葉を遮る。


 あいつを絞め落とそうにも、さっき以上のモチの強度が出せない。

人間ならともかく、魔族を締め落とすのは難しいようだ。


 だが、俺のモチには、もうひとつの特性がある。

、正確に操れる。つまり――

黒餅こっぺい

てのひらの上に黒い塊がうねりながら形を成し、剣となった。

表面はつややかで、まるで黒曜石。

切れ味はないが、硬度なら鋼に勝る。


 そう、手元なら粘り気も固さも調整し放題ってわけだ。


「おモチの剣! 食べられるのかな?」

隣でイッヌがのんきに呟く。

場違いなほど柔らかい声に、思わず笑ってしまう。


「食うなよ。歯、折れるからな」

そう返す俺に、魔族が斬りかかってくる。


「キエェェェェェェェェ!!」

瞬間、俺は指先で空をなぞる。


「動けんっ!」

魔族の両足に白餅がからみ、一瞬だけ、動きが鈍くなる。


 ドォゴォ!!!

すかさず黒餅で殴り、魔族を気絶させた。


 騎士学校でならったが、見た目が人に似た魔族ほど強いらしい。

ゴブリンに似た、こいつ程度だと雑魚なんだろう。


「イッヌ、こいつを捕虜ほりょにする。しばるから手伝っ——」

言いかけた時だった。

魔族の体を、まばゆい閃光が包む。


「きゃっ!」

イッヌが俺に飛びつき、しがみついてくる。


 やがて光がすっと消え、俺は目を凝らす。

魔族の胸にはノアの剣が突き立てられている。

動かない。すでに息絶えていた。


 その体の上には、なぜか徽章が置かれていた。

俺は一歩踏み出し、慎重に徽章を手に取る。

「呪いの痕跡こんせきがある。自害の呪いか……」


 呪い―― 一人一つの魔法とは違い、知っていれば誰にでも使える力。

ただ、厄介な制約がついてくるという。

「自害の呪いの制約って、なんだ……?」

眉をひそめながら考える。


 イッヌが顔を出して徽章をのぞきこむ。

「近衛騎士団の徽章に、四の文字……近衛騎士団四番隊のものですかね?」


「いや。俺が知る限り、近衛騎士団に四番隊はないよ」


「ひぃ? へぇ? なんか怖い、やだ!」

イッヌは徽章から目を背けた。


 俺は徽章を見つめながら、深く息を吐いた。

「こりゃあ、面倒な真相が隠れてそうだな」


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【完結保証】騎士団の公安勤務~元社畜×🍑、俺だけ複数魔法のチート騎士だった結果、冷酷な氷姫が俺にだけデレデレなんだが? 姫から熱烈アプローチされ、国家まで救うハメになったんですけどォォオオ!!~ ああああ🐙 @fureki23

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