第6話 金・金・金の匂い~

 翌朝、俺は駐屯地へと向かっていた。昨日、手配したが届いているはずだ。

同行者は、イッヌとその執事。


 イッヌはというと、朝からずっとご機嫌だ。

「モモ様、モモ様ぁ!」

何がそんなに嬉しいのか、理由もなく俺の背中をつんつん突きながら呼びまくってくる。


「ふふ。モモ様って響き、いいですねっ」

そう言って笑うイッヌは、心から楽しそうだった。

まったく……かわいいやつだ。


 駐屯地に着くと、入口でノアが腕を組んで待っている。

俺の顔を見るなり、口を開いた。

「お前、準備するって……女とジジイかよ」

 

 はい?

俺は思わず悪態あくたいをつきそうになった。

目の前の執事は老紳士ってカテゴリであって、ジジイじゃない。失礼すぎる。


 そう思ってたところに、小屋の奥から姿を現したのは、老騎士のクチキさんだ。

「いやいや、準備したのはこれじゃろ?」


 そう言って差し出されたのは、赤い羽根の双頭のインコ。

片方の頭がこちらを見て「クェッ」と鳴いた。


「おお……!」

まさしく騎士団魔法研究所に発注したインコ。

こいつが、今回のダンジョン探索のカギだ。


「それが、探索の何に役立つてんだよ?」

ノアは首をかしげている。


「それは――」

俺が答えようとすると、イッヌが俺のそでをクイッと引っ張った。

さっきまでの元気がウソのように、おとなしい顔して、俺の顔を見る。


「……?」

なんだ?  テンションが低い。

「はやく、ダンジョンにいきたい」そう、急かすように俺を見つめてくる。


「――まぁ、ダンジョンに行ってからのお楽しみですよ」

仕方がないので、ノアの質問には答えず、ダンジョンへ歩き出す。


✳ ✳ ✳


 無果むかのダンジョン前に立った瞬間、鼻腔びくうをくすぐるあの匂いに、俺の心は高鳴った。

やっぱりある。あのガスの匂いだ!


「で、ダンジョンに入るのはお前とその女冒険者か?」

ノアが聞いてくる。

どうやら昨日のクチキさんの嘘――俺が新米冒険者だという説明のせいで、イッヌもそうだと思ってるらしい。


「ああ、そうだ」

俺とイッヌが歩き出しダンジョン入口に向かう。


 ダンジョンに入ろうとしたところで、クチキさんがそっと近づいてきてささやく。

「お気をつけて。隊長殿から、モモ殿はとても強いと聞いていますから。信頼していますよ」


「……任せてください」

このクチキさんの口ぶり、ダンジョンなにかありそうだな。

だが、大丈夫。自慢じゃないが俺の魔法はかなり強い自信がある。

クチキさんを安心させるよう、静かに、肩を叩いた。


✳ ✳ ✳


 ダンジョンの中は、想像以上に洞窟どうくつって感じだった。

俺は魔法ランプをかかげ、片手に鳥かごを持ち進んでいく。


「モモ様ぁ……」

イッヌが俺に身体を寄せてきた。


「どうした?」


「知らない人が二人もいて、怖かったです……」


「さっきおとなしかったの、そういう理由かよ」

思わず、突っ込む。

だが、そういえば、昔から人見知りだったな。

 

 そんなイッヌが、鳥かごをじっと見つめて言った。

「転生したキジですか?」

「違うよ!」

真顔だったイッヌに吹き出す。


「このダンジョン探索のために作ってもらった人工インコ」

「人工の……インコ? そんなこともできるんですか?」

姫育ちのイッヌは、こういうことにはうといらしい。


「止まり木にとまらせると話してくれるんだよ。右の頭が死体探知。左の頭がガス検知。死体が近くにあると右が騒いで、ガスが危険になると左が鳴くってわけ」


「たしかにガスの匂い……しますね」

イッヌが鼻をひくつかせたあと、可愛くうぇぇっと顔をしかめる。

鼻がいいのだろう、辛そうだ。


「このインコが死んだら、ガスの最終警告になる。そしたら急いで脱出しよう」


「え、死んじゃうんですか!?  かわいそうなキッジ!」


「イッヌみたいにいうなよ。それにキジじゃないって」

俺は苦笑しながら先に進んだ。


✳ ✳ ✳


 しばらく歩くとガスの匂いがだんだん濃くなる。

「モモ様ぁ、大丈夫なんですか?」

イッヌが不安そうに俺の服ぎゅっと掴んだ。

「ああ。インコも静かだしな」


 俺は笑いながら、イッヌの気をそらそうと口を開いた。

「それに、ひょっとしたら大金が手に入るかもしれないぞ?」


「大金? 今回の任務は、新人騎士の遺体探しですよね?」


「それもやるの」


 ――ごぼっ!!

近くで、何かがき出るような音がした。


「これは!」

俺は反射的にイッヌの手をとって駆け出した。

「わ、わっ! モモ様ぁっ!?」

驚きながらもついてくるイッヌ。


 すると、開けた場所にでる。

目の前には、小川のようにカベから流れ出る液体。

ただの水ではない。希望の液体だ!


 俺は駆け寄り、歓声を上げた。

「石油だ!!」

懐かしい匂い。ガソリンスタンドの記憶がよみがえる。


「この量……大金になる! よし、今日はばあちゃんにアイス屋ごと買って帰ろう!」

異世界産とはいえ、この匂いは間違いない。間違いなく、石油の類いだ。


「ただの匂いのする水、ですけど……そんなにすごいんですか?」


「当たり前だよ! 車も飛行機も石油がなきゃ動かない!」


「クルマ? ヒコーキ?」


「あっ――」


 イッヌが「なんですかそれ」みたいな顔をする。

「いや、この世界に車がなくても……プラスチックが……あっ、これもないや」

 

 俺は、地面を見つめながら叫んだ。

「石油だけあっても意味なぃぃぃいいい!!」


 がっくり肩を落とすと、イッヌがぱっと明るい声で言った。

「よくわかりませんが……とにかく、新人騎士を探しましょう! ねっ!」


 前世でもそうだった。イッヌはいつも明るく俺をはげましてくれる。

いややされるよ。本当に。


 ――そのときだった。

インコが、「ぎゃァァァああああ!!!」と叫んだ。

「まっ、まさか……ガスが致死量に!?」


「いや、見ろ。騒いでるのは右の頭だ。死体が近い」

 

「アッチ、アッチ」

インコの口が開く。


「アッチ、アッチ――」

無機質な、高い声。


 イッヌが顔を引きつらせる。

「話すんですか!? このインコ」


「俺はしゃべる犬、知ってるぞ」


「ちょっ! 私をそのインコと一緒にしないでください!」

そう言ってぷくっとほっぺをふくらませるイッヌに、俺は微笑む。


「アッチ、アッチ」

インコを頼りに、俺たちは奥へと進んでいく。


 ――そういえば、さっきから気になっていることがある。

このダンジョン、いるはずのモンスターの気配が一切ない。なのに、足跡はやたら多い。

……おかしいな。そんなに人が入る場所じゃないはずなのに


「アッチ、アッチ」

暗いダンジョンのなかに、インコの声だけが響いていく。


――――――――――――

 次回! ダンジョン調査終結!

サクサク展開心がけてます。


クチキがモモを冒険者と嘘ついた訳とは?

ダンジョンの秘密とは?

モモの魔法も判明します。


 面白い! と少しでも思っていただけましたら、フォローや☆☆☆、コメントくださいm(__)m 

とても励みになります。

明日も2話投稿します~。






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