第5話 氷姫、俺にだけなつく
王都の街を歩く俺の足取りは軽かった。
明日のダンジョン探索に必要な例のアレも手配完了。
明日の昼頃には、騎士団駐屯地で受け取れる手はずになっている。
気分がいい。こういうときは――そう、アイスでも買って帰るか。
最近、王都ではアイスクリームが流行ってる。どうやら魔法の冷却術と保存技術の発展で実現したらしい。異世界もなかなかやるじゃないか!!
俺も一回食べたけど、ひさびさに食べたアイスは……罪だ。人をダメにする味だ。
というわけで、ばあちゃんにもぜひ食わせてやりたい。
アイスクリーム屋は夕暮れ前なのに、長蛇の列。店の前には人がわんさか並んでいて、「売り切れる前に買えよー!」という店主の声が響いてる。
その時だった。
「もしや、近衛九番隊のモモ様ではありませんか?」
ぬっと現れたのは、見覚えのない老紳士だった。
年季の入ったスーツ姿、背筋はピンと伸びているけど、どこか不安げな雰囲気もある。
「ええと、誰でしたっけ?」
「私、イッヌリア・ハウンドベルク様の執事でございます。冒険服姿に、近衛九番隊の
徽章――バッジみたいなもんだ。所属隊を示す装飾品で、騎士団員の身分証明にもなっている。
近衛九番隊の徽章は、その仕事の性質上、一般に知らせてないが、老紳士は知っていた。
そんなことより、イッヌリアって誰だ? ハウンドベルクって――このハウンドベルク王国と同じ名前だが、まさかね。
俺が首を傾げていると、執事のじいさんが、なんとも言いにくそうな顔で、口をもぞもぞさせ始めた。
「……なにか、用では?」
俺が促すと、老執事はかすかに目を見開き、そして深々と頭を下げた。
「イッヌリア様に、お会いいただけませんか」
え? なんで俺が……正直、めんどくさそうなんだが――けど、こんなに必死な老紳士の頼みを断るなんてできない。
「明後日くらいなら」
とりあえず、そう答えた。
執事はさらに深々とお辞儀をして、なぜか申し訳なさそうに続けた。
「イッヌリア様は……世間では冷酷な氷姫などと呼ばれておりますが、あれは一部誤解でございます。ただ、その……少々コミュニケーションが苦手と申しますか、テンションはすこぶる低く、非常に無口なお方でして……どうか、その点はお気になさらず」
いや、それフォローになってなくないか?
そもそも、その人となに話せばいいんだよ!
俺は内心で突っこむ。
――その時だった。
「桃太郎様~~っ!」
遠くから女が走ってきた。
執事が驚きの声を上げる。
「イッ、イッヌリア様!?」
えっ、あれが!?無口でも、テンション低くもないんだが?
そしてその氷姫が、勢いのまま俺に飛びついてきた。
「一目見てわかりました。ずっとお会いしたかったです、桃太郎様!」
「って知り合い!? え、今……桃太郎って……な、なぜ俺の前世を!?」
脳内で警報が鳴り響いた。なんでこいつ、俺が桃太郎だったって知ってんだ!?
だが、目を凝らしてよく見れば、その少女には、妙な既視感があった。
「お前……イッヌか?」
「はいっ!」
満面の笑みを浮かべたその顔は、俺が知る子分のイッヌそのものだった。
――桃太郎。これが俺の前世の一つ。
その時代に俺が連れていた三匹の獣人、サル、キジ、
そのイッヌが転生して、今世では「イッヌリア」として生きているらしい。
「こんなに元気なイッヌリア様、初めて見ました……」
執事が困惑しながらつぶやく。
「この国の第八王女に様付けで呼ばれるとは……モモ様、一体何者なのです?」
こっちが聞きたいよ。
「イッヌ……お前、姫様なのか?」
「はい! ですが、これからも変わらずイッヌとお呼びください」
そう言ってはにかむイッヌ。
なぜか、見えないはずのしっぽが見えた気がした。
ぶんぶん振ってる幻覚が。
周囲には人が集まり始めていて、俺たちのやりとりを興味津々で見ている。
「イッヌリア様、とりあえず今日はモモ様にお帰りいただきましょう。これ以上は人目が……」
執事がそう言うが、イッヌはぷいと横を向く。
「今日から桃太郎様と暮らします!」
「おい勘弁してくれ。一応、姫様なんだろ!」
俺が
……相変わらず、めちゃくちゃわがままじゃないか。
結局、執事と俺でなんとか説得し、なぜか「明日のダンジョン出張に同行する」という条件で、今日のところはお引き取り願った。
姫とはいえ、前世は俺と冒険した仲だ。大丈夫だろ。たぶん……。
「アイスクリーム、売り切れでーす!」
店主の声が響く。
あっ……アイス買いに来てたの忘れてた。
テンション下がる俺をよそに、イッヌが「明日も一緒にいましょうねっ!」と嬉しそうに手を振っていた。
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