第32話 温泉に入ろう! 

 ー5日目ー


山の麓。

岩肌が目立ち、いくつもの岩が地面から突き出ている。


タケルとシンエイを先頭に、ノゾミ、アヤカ、レーデルは続く。

アルメダとイルメダは元気に駆け走る。


「テラウス人、元気ね…」


「身体強度、反応速度のスキルが今日だけでひとつ上がってるね」


「ワタシのは全然上がらないんだけど」


「まだスキルLVも低いからLVアップも頻繁なのかも。

ゲームでも序盤はポンポン上がるしねー」


渓流の上流を歩き続けると、湯気が立ちこめ白濁した温泉。


「おー、白い湯かー」


「マップギフト、温泉まで載ってるとは有能過ぎだろ」


「んー、泉質は問題ないねー」


「人工か? きれいに岩をくり抜いたような感じだな」


「この筒からお湯と水が流れてきてる。温度の調節?」


「この世界にもこだわった温泉好きもいるんだねー」


転がっている桶。


「この桶って、昔ながらの桶じゃない?」


「手作り感が凄いな」


レーデルは不安そうな表情。


「白いが、まさかこれに入るのか?」


「この世界に温泉の文化はないのか?」


「上級貴族の保養地や療養地にはあると聞く。

平民が入る公衆浴場は街の中だな」


「地球の日本には温泉地は数多いよ。ご当地名物を食べて温泉のある宿で一泊。入った後、浴衣で卓球をするのがお約束だよ」


「「チキュウ」、約束事が多いんだな」


木の上から複数の猿の鳴き声。

大岩の上でキーキーと威嚇している。


「この温泉は猿の溜まり場ぽいな」


「アヤカ先生、ヘル・モンキーじゃありません」


「魔じゃないただの獣、アイアイだねー」


「おサルさんのあたまの中の、おいしいの!」


「……え!?」


「脳ミソのことかな?」


「うん!」


「○ンディアナジョーンズや○ールデン・カムイとか脳は比較的ポピュラーな食材だよ」


「映画の世界観で語らないで!」


「地球の食材に白子なかったよね。新鮮な脳は白子のような触感で、」


「やめてやめて!」


「ごめんねー、アヤ姉、好き嫌い激しくて」


「ノゾミせんせい、なんでも食べないと大きくなれないの!」


「栄養も十分、量も人並み以上なのに何故に胸だけ取り残されるてるんだろう?」


「うっさいわね」


「おサルさん、なにか持ってます」


アルメダが素早く岩場の上へ駆け上がると猿は逃げ出す。

冒険服を見つけ、それを手に戻ってくる。


「アヤカ先生、服を見つけました」


男物の冒険服。


「冒険者の忘れ物かしら」


「定期的に来る人いるのかな?」


アヤカはポケットを探る。

煙草とジッポを見つける。


「え? 何で?」


○ルボロの煙草と刻印ジッポ。


「あ、○ナチだ!」


「?」


「アニメの「○イド・イン・アビス」のキャラだ」


「すごい、純獣人の兎人だ」

「かわいいの!」


「な、なんで地球の物がここにあるのよ?」


「えぇ~、点と線がぁ、繋がりましたぁ」(古畑風)


「漫画のライターってあるの? 子供向けでしょ」


「ネットで○トロのジッポは見たことあるぞ」


「天狗の面とぉ、ゾウさんパンツぅ、これは必然だったのですぅ~」


「○ッキー・マウスのジッポもあるぞ」


「ウソでしょ! ネットで検索できないのが歯痒いわね」


「ねー、無視が一番堪えるんだけどー」


「知ってる。点と線って何よ?」


「これお父さんのだ」


「「え?」」


「そして「ゾウさんパンツ天狗のお面」事件の解明も!」


「解明…?」


「お父さんはこの場に寄ったの。

そして温泉でくつろいでる時、猿が服を盗んだの。

服の予備もなく金髪幼女さんから仕方なく、ゾウさんパンツを拝借して履いたわけよ。

あれは露出狂でも変態性の性癖でもない、必要に迫られ選択肢がない状況だったの!」


「そうか! 自ら望んだ格好ではない。

父さんは変態ではなかったということか!」


「そう!」


「ちょっと、じゃあパンツだけでいいんじゃない。なんでその上に天狗の面を被せるのよ。あんなのただ変態を増長させるだけでしょうに」


「天狗を嵌めた場合と、素のパンツだけの状態。

天狗が無かった時の比重の方が、アタシたちはより衝撃を受けてたのよ」


「なんでよ?」


「天狗の装着はお父さんのナイス采配。

パンツの全面、局部の前の「アレ」を見たなら心に深く傷を負い、しばらくは虚脱状態でお互いに立ち上がれなかったはず。

これは父のファイン・プレーとしか言いようがない、これには感服ですわ」


「???」


「あの時、不審に思いながら後方からアタシたち2人を追いかけていたでしょう。

お父さんは一度だけ、後ろの刺繍したゾウさんパンツを首を曲げて見たの。

その後、金髪幼女さんも後ろのパンツを確認。

幼女さんはすまなそうな表情でお父さんに話し掛けていた。

「アレ」は後ろだけでなく、前にもあったというわけ。タケ兄ならもうわかったでしょ?」


「なんで?……天狗がない方が、衝撃を受けた。……あ!」


「そう」


「前面にもゾウの絵が! それは隠すな……天狗、付けるよな……」


「真実はいつもひとつ!」 (コナンくん風)


「なんでなんで? 意味わかんない!」


「タケ兄、説明して」


「え? イヤだよ」


「初心なアヤ姉の為だよ」


「ハズイわ! 言えるか!」


「一体なんなのよ!」


ノゾミはオデコに手をやる。(コロンボ風)


「では、僭越ながらアタシから説明をいたします。

兄妹、小学2年の頃まで一緒にお風呂に入ってましたぁ。

その時と今現在の「バナナ」のレベルが違うんです~」


「レベル? バナナ?」


「タケルさんのぉ、レベルが上がったのわぁ、

あれは中学の2年の冬。ひとk」


「何で知ってるんだ!」


<パコーン!!!>



1分後。説明後。


「………」(/////)


「なあ、父さんオレたちを鑑定して、実の子って気付いてたんじゃないか?」


「気付いてたはず。どうして逃げたかでしょ? 

見知らぬ異世界での親子の初対面。気まずさはあるも普通は見捨てたりはしない。

まして毎年養育費も支払う子供らに愛情や愛着がないわけがない。しかしモンスターとの戦闘中、姿は忽然と消えた」


「そうよ、逃げる必要ないでしょうに」


「逆の立場で考えて。アタシたちが親で、ゾウさんパンツに天狗の面を装着。実の子供らと初対面したら、

「息子たちよ、私がお前たちの父親だよ」

と、あの姿格好のまま言葉を交わし接触できる?」


「無理だ!」


「そう、自尊心が許さない。アタシでもムリ。

お父さんが芸人のように軽いノリの人だったら問題はなかった。

「マイサンよ、これは私のマイサンだが、とりあえず気にしないでくれ」。

と天狗を外し、

「私のマイサンは、この絵と同じで、かw、」」


<パコーン!>


「やめろ!」



「結局あの裸、格好が原因で話し掛けられなかったって……」


「じっちゃんの名に懸けて、真実を暴いたよ!」(金田一孫風)


「いや、じっちゃんいないだろう。源さんは殺してたし」


「Q、E、D 証明終了。まあメインキャラ同士だし、いずれ再会を果たすこともできると思うよ。

今は、お待ちかねの読者サービス回の温泉だよ!美少女と美幼女付きの!」


「…読者サービスってなによ?」


「お や く そ く。

「テラウス湯けむり秘境温泉!

魔族が現れ、露天風呂に謎の美女?

大自然と秘湯をめぐる、

美女と魔族と地球人の恋のトライアングル!?」」


「……この子、たまにこうなるわよね」

「昭和のおっさんのノリが好きだからな」


「話の分かるいい男(魔族)現れないかな~?」


――

 (ピコーン!)

フラグ通り 次の話で現れます

――



「この付近に3つほど温泉があるよ。ここは敢えて混浴としゃれこみますかい?」


「ば、なに言ってんのよ!」


「姉が却下なので、男衆はあっちの別の方に行ってねー」


「ああ、それは当然だ」


ノゾミからタオル、シャンプー、石鹸を受け取り、3人は別の野湯の方へと向かう。



「これは頭を洗うシャンプー。これは体全体を洗う液状の石鹸です」


容器を物珍しそうに見る狼姉妹。


「これは?」

「鳥さん?」


黄色いアヒル。


「ラバー・ダックです」


「アンタ、まだその歳で……」


<チッチッチッ>

「ラバー・ダックは、英国女王エリザベス2世さんも愛用。当時それが報道されると、イギリスでは売り上げが増加したの」


「また無駄知識を…」


「女王さまも持ってるの?」


「そう。アタシのは内部のLEDがピカピカ点滅。スイッチを押すと七色に光り出す」


「ほわ~」

「虹みたいなの!」


「驚くことなかれ、さらにラジコン機能も搭載!前後左右、」


「さあ、お子ちゃまはほっといて入りましょう」


「アヤ姉! 転移されてから塩過ぎない?」



全員は服を脱ぎアヤカ、ノゾミはボディソープで身体を洗い、シャンプーで頭を洗う。


「真似てねー。泡が目に入るとイタイイタイだから気を付けてねー」


狼姉妹も見よう見まねでそれに習う。


「いいにおいなの!」

「ほわー、泡泡ー」


12歳のアルメダの推定Bのバストの大きさを見てアヤカはへこむ。



「洗浄スキル有能だけど、やっぱ日頃のルーティーンは変えられないよねー」


「早く家でも入れればいいんだけど」


「水道に連結させる水タンクがないとは誤算だったわー。今度ゴンちゃんに会ったら文句言わなきゃだー」


「いや、会えないでしょ」


「フラグ言っとけば、会えそうでねー」


「この世界に水を溜めこむタンクありそう?」


「なければ作るしかないね。スキルを駆使すればできそうかな?

タケ兄に「クラフト」とかあるし」



4人は身体を洗い温泉に入る。


「う゛ぅーー。別世界でも温泉はいいねー」


「悪くはないわね」


「魔王討伐、忘れるわー」


「本当に忘れてそうで恐いわね」


「ノゾミせんせい、アクマ好きなの? 服にたくさんアクマがあるの」


「イルちゃんは悪魔、恐い?」


「こわい、けど、悪くないアクマもいるんだよ」


「くわしく!」


「お父さんからのお話や、うわさ話ですけど。

亜人獣人の中では魔族を崇拝する者もいます。魔族も敵にならなければ、わたしたちに手を出さない者もいたり、亜人獣人寄りの魔族も一部いるらしいです。

人間は殺すけど、私たちは見逃すとか」


「なるほど、攻撃的な魔族だけではないと。朗報だね」


「悪魔自体、わたしたち絵でしか見たこともないんですけど」


「ゴンちゃんからの受け売りだけど、この世界では人族が魔族に対して一方的に虐殺を続けていた過去があるらしいの。

そして人族は魔族だけに留まらず亜人獣人も攻撃対象とみなした。


何万年、何千年前、魔族、人族、亜人、獣人、一緒に仲よく共存していたのを、いつ頃からか優秀な民族は人族だ、みたいなのが台頭してきて、最初は小さいいざこざや争いから始まり、少しずつエスカレートしていき、今のような差別、格差に繋がったらしい。


実際は優秀な獣人のLVやスキルの多さからの妬みや嫉妬と言われ、一部の権力者、人族の分からず屋のせいで今の世となっているわけ」


「この世界の人族って、愚鈍ね…」


「一部の特権階級、裕福層だけ。どこの世界も変わらないねー」


「……じんぞく、キライなの。あ、ノゾミ先生は大好きなの!アヤカ先生もタケル先生も、ソンエイおにーちゃん、レーデルさんもやさしいの」


「ありがとねー。アタシたちもアルイルちゃん好きだよー」


「ノゾミ先生たちは、ゆうしゃで、アクマをたおすの?」


「攻撃してくるならね。その悪魔がいい人か見定めたいと思っている」


「…こわくないんですか?」


「見た目だけで判断はしないように、自分の目で確かめて、お友達になれそうならなるの」


「悪魔とおともだち…」


「あわよくばお近づきになり、恋愛をして、子供を身ごもる。

もしくは既成事実を作り、子供が生まれたら3人で土地を購入、独立国家でも建国しようかと悩み中、」


「小さい子供を前になに言ってんのよ。危ない願望を垂れ流すのは心の中だけにしないさい」


「あー、悪魔さん、空から降って来ないかなーーー」


<バッサアー バッサアー>


オデコに2本の角、背中には灰色の翼の男と、

幼女を抱きしめる若く美しい女性が空から舞って来る。


「「「「……」」」」


5人が浸かっている温泉の脇へと降り立つ。


「あれ?先客っスか?」


――

32 温泉に入ろう! 終わり        (32)

33 魔族ルシファーと聖獣フェンリル    (33)

――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「イセショー」投稿サイト掲載経験者による、異世界召喚に巻き込まれたお話。 十里眼 @osa2117

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ