第2話 ダークエルフは狂信者?
終わった。
一難去ってまた一難とはこのことか。
「お前、顔が胡散臭いな。なんだそのほっそい目は。詐欺師か」
「全国の糸目に謝ってください」
「ぁ?なんだって?」
「すみません許してくださいお金なら払います」
ピンチの時はお金だ!
「金?そんなことよりお前は誰だと聞いてるんだ。この森に一般人が入れるわけがないんだぞ!」
「そうなんですか?」
「迷い込んだにしては服装が綺麗すぎる。大方お前密猟者だろ」
少女は僕を睨みつける。
改めて見るととても美人な子だ。とは言え人間とは明らかに容姿が違う。とがった耳に黒い肌。ダークエルフって奴だろう。
「ほんとに異世界来ちゃったんだなぁ…」
「ぁあ??」
「すみません許してください」
「チッ!ヘコヘコしやがって、張り合いがないな!じゃあ、殺す」
「ヒッ」
「命乞いぐらいは聞いてやる!」
ああ。死ぬんだ、僕。辞世の句読まないと。
いや、そんなことより全力で命乞いすれば助かるかもしれない。
首根っこをつかまれた状態では、そんなことしかできないのだ。
「助けて!!!!!ショアさん!!!!!!!!」
静寂。…ダメか。
少女女神は僕を見捨てたのか。
「…おい、お前。」
「はい?」
「い」が裏返った。
「今、ショアと言ったか?」
「は、はい…」
「ショア、必中の女神ショアか?」
え。
「そ、そうですが」
「ダークエルフでないのに、我らが神に助けを求めるなど…、もしや!?」
我らが神?
「『鑑定』!」
彼女がそう言うと、彼女の前にウインドウ?が広がった。鑑定ということは、僕のステータスかなんかを見れるってことだろう。ファンタジーだなぁ。
「称号…『必中の女神の御使い』?!」
そんな称号がついてるんだ。ひねりもクソもない。いや、称号にひねりを求めるのは変か。
「あの…、何か不都合がありましたか?」
「…」
わなわな震えている。わなわな。この形容を人生で使うことがあろうとは。
「えっと…」
「神は…」
「へ?」
「我らが神は私たちを見捨てていなかったのか!!!!!!ふはははは!!!!!最高だ!人生最良の日だ!実に喜ばしい!実に……悦!!!」
目がキマッている。どういうことだろう。怖い。
「じゃ、僕はこれで…」
「どこに行こうとしているのかな御使い殿?」
「え?」
「先程の非礼は詫びよう。しかし、我の神も意地悪なことをなさる。まさか御使い殿が人間とは。なぜ信者である我々ダークエルフではないのか?いや、これも神の深い思慮があってのことか?!」
「あの、御使いって僕のことですか?」
「貴方以外に誰がいるというのだ!我らが神、必中神ショアから授かった称号を持っているのが何よりの証拠だ!」
…成程。どうやらこのダークエルフさんはショアさんの信仰者ということだろう。ショアさんも僕の助けになると思って信仰者の近くに転移させたのだろうか。初手殺されかけたけど。
よく見ると背中に弓を背負っている。そういえばショアさんも銃を持っていた。信仰者は狙撃に長けた人が多いのか?
「して、御使い殿は神からそのような通達を受けたのだ?我らの同胞を殺した憎き魔王軍の殲滅か?それとも……殲滅しか思いつかん。」
物騒だなあ。まぁでも、殺されるのは免れた。良かった。
「まず御使い様って言うのやめていただけます?僕は檜垣こといっていう名前があるので」
「ヒガキコトイ?なかなか独特な名前だな!」
「まあ、別の世界から来たので。そこらへんはちょっと違うかもですね」
「なんと!異世界人か!」
「あ、その概念はあるんだ」
「伝説では聞いたことがあるが、実際に会ったのは初めてだ」
異世界人。同郷に会うのは厳しいか。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったな!私の名はファナ!ファナ・アローだ!」
「よ、よろしくお願いします」
「うむ!」
と、ファナさんは手を差し出してきた。握手も共通か。手を握る。
さっきまで僕を殺そうとしてたとは思えないぐらい距離を詰めてくる。こっちはそんなに切り替えが早くないからちょっと怖い。
「ところで、御使い殿はどの教義が好きかな?教典の3章『友愛』か?それとも5章
『射撃』か?それとも…」
「ちょっと待ってください!」
「え?」
「僕、秘中の神の教え…わかんないです」
「またまた~!御使い殿に限ってそんなわ…け」
冷や汗が止まらない。ファナさんにとっては、仲間が死んでいった中、神がやっともたらしてくれた希望が僕だ。
その僕がその神について何も知らないと来たら…最悪さっきに逆戻りだ。というか、冷静に考えるとよくこんな状況で僕は布教しようと思えたんだ。女の涙に弱い自分を恨む!
「あ、あのう、たしかに全然まだまだショアさんについて知らないんですけど、これからどんどん知っていって~頑張ろうと思うんですけど…」
「ふ」
「ふ?」
「ふはははははははははははは!!!!!神よ!!!私にここまで試練を与えるか!いいでしょう!私はあなたの忠実な下僕にして信仰者!このぐらいの逆境など逆境とも呼べませぬぞ!!!たとえ待ちに待った御使い殿が信者とも呼べない異世界人だとしても!私は諦めない!」
ああ…。薄々気づいてたけど、この人はたぶん普通じゃない。
「コトイ殿!」
「ひゃい!」
「こちらを」
「本?」
「こちら、我らが神の教えをまとめた『必中教典』だ」
「ありがとうございます?」
「さて、コトイ殿。今から私は貴殿に、我らが神の教えを叩き込む」
「マジですか」
「うむ。それが我らが神の思し召しだろうからな」
基礎知識ゼロの僕にとってありがたすぎる。この人、めちゃ怖いけどショアさんに対する信仰心だけはすごい。
「さて、何から話すか。まず私たちと神についてか。我らが神は、原初の時代から我らダークエルフに安寧をもたらしてきた。ダークエルフは狩猟を得意とするから、神の能力は我々と相性が良かったのだ。」
やっぱ狙撃メインなんだ。
「人間の狩人さんとかには広まんなかったんですか?」
「ダークエルフ自体があまり多種族と絡むのを好まない種族なんだ。だから多種族に我らの教えは広まっていない」
「なるほど」
「ではここからは基本教義について話していく。まず第1章…」
* * *
「ピーピー」
鳥がさえずる。
「というわけで、以上が神の教えのすべてだ」
「朝になっちゃった…」
途中までは、ショアさんに言われたこととかを交えながら一緒に話せてたけど、最後の方は聞く専になっていた。寝そうになると殺気出されるから、寝るに寝れないし。
「どうだ?教えについてはわかったか?」
「はい…。おかげさまで」
一朝一夕だが、ファナさんの説明はわかりやすくて、結構覚えることができた。
教えの内容は大体①仲良くしよう ②努力を怠るな ③必中を目指そうといった感じだった。③だけ異色すぎる。
というか。
「お腹すいた」
「ん?一晩中しゃべり続けてしまったからな。そうだ!」
と言うと、ファナさんは急に火を焚き始めた。
「ちょちょ!何してるんですか!」
「『ファイア』」
「なんで火力上げてるんですか!山火事になりますよ!」
「まぁみてろコトイ殿」
次の瞬間。
「ギャース!!!!!」
「なんか来た??!!!」
「ワイバーンだ。火につられやすい」
「虫かよ!」
飛んで火にいる夏の龍。ワイバーンってかっこいい名前なのに…。
「さて、コトイ殿。実戦経験はあるかな」
「ないです」
「だろうな。佇まいからわかる」
こちとら安全大国日本出身だよ。
「でも、武器は持ってるだろう?その神器が」
「あ」
「大丈夫だ。加護のおかげで体は勝手に動くはず。あとは的に当てられるかどうかの話だ」
「そんな簡単に動くわけ…」
銃を手に取る。と、僕の手がバックに入っていた弾を勝手に装填。構え。
「動いた」
「ほらな。ではコトイ殿スキルを使ってみよう」
「ギャア!!!」
「ワイバーンいなしながら喋るのやめてもらっていいですか?」
ワイバーン君はファナさんを狙っているが、ファナさんはその猛攻をすべて受け流している。ワイバーン君涙目。
「使うスキルは『ロックオン』。我らが神の信仰者しか使えない神聖なスキルだ。効果は狙った対象への命中率を上げるというものだ。コトイ殿は神の御使いだから、スキルの効果は上がっているはずだ」
「どういうことですか」
「溜め時間は少し長いだろうがまさに必中だろう」
ファナさんがワイバーンの首をつかむ。
「ギャ?!」
「ではコトイ殿!当てろよ!」
ワイバーン君はファナさんによって上空に投げられた。
「え?!」
ああもう!やるしかないか。落ち着いて…
「『ロックオン』!うお!」
目の前に照準が広がる。引き金を引く。
『ドォン!!!』
ワイバーンの影が止まった。
「外した?」
「いや…」
ん?
影がだんだん大きく…。
「ってうわぁ!!!」
間一髪で避けた。ワイバーンが落ちてきた。
「死んでる…。南無」
ごめん。ワイバーン。
「やるな!コトイ殿!じゃ、食べるか!」
「え?」
「そのために獲ったんだろ?まぁ、戦闘経験を積ませようという目的もあったが。世界は厳しいぞ」
「……」
これから大丈夫かな。
ワイバーンはまぁまぁおいしかった。
===
【現在の教徒:2人】
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