第3話 布教スタート?

「さてコトイ殿。これからどうするのだ」

 満腹の僕にファナさんが話しかける。

「布教します」

「漠然だな。というのかいいのかコトイ殿は。元は我らが神とは何の関係もないのだろう?」


 驚いた。僕の心配をしてくれるとは。ただの狂信者じゃないのか。


「帰るためには頑張らないとですし。何の目標もなく生きてた僕が頼られるの嬉しいし。あと、かわいい女の子に頼られると断れないじゃないですか」

「…コトイ殿も我らが神の偉大さを理解してきたな」

「はい、そうですねー」

「だが、布教は難易度が高いと思うぞ。我々が閉鎖的だったせいで必中神の知名度は低い。これは非常に悔やむべきことだ。我らが神を、崇高なる神を…!絶対的で純真無垢を体現した神を…!なぜ今まで他種族に教えてこなかったのだろう…」

「何でですか?」

「………あ。みんな私たち見ると逃げ出すからだった」

 嫌われてるの?怖がられてるの?まぁ、初対面で殺そうとしてくるしなぁ。


「同胞も、私が知っている限りは皆魔王軍に殺されてしまった。私たちだけで何とかするしかないのだ」

「強いですね、ファナさんは」

「どうしてだ?」

「仲間がみんないなくなるってすごく辛いと思います。でも、前を向いて頑張ろうとしてて…、すみません僕が言っても軽くなりそうです」

「いや、ありがとう。ちょっと気持ちが楽になったぞ」

 本当にありがたい。こんな状況で僕を手伝ってくれようとしている。怖いけど優しい人だ。


「とりあえず、必中神の教えはダークエルフの民間宗教に留まっています。なのでハードルを下げる兼布教しやすいよう宗教としての形を整えます」

「そんなことできるのか?」

「素人なので滅茶滅茶粗はあるでしょうけど、やれるだけやります。紙とか持ってないですか?」

「あるぞ。はい」

「ペンもありますか?」

「ほら」

「何から何まですみません」

「全然大丈夫だぞ」


「さて、まずはキャッチ―な宗教名を付けますか。何か案はありますか?」

「我らが神の名前はどうだ?」

「『ショア教』?」

「ああ」

 悪くはない…かな?

「ではでは『ショア教』で。じゃ書いていきます」

 そこから僕は必中神の教えをなるべくわかりやすくまとめた。頑張った。


「昼ご飯できたぞ」

「あ、ありがとうございます…。これなんですか?」

「ドロトカゲ」

 おぅ…。

 …おいしい。


「で、できたのか」

「大体」

「見せてくれ」

「はい」

「ふむふむ…。わかりやすいな。入門書って感じだ」

「どうですかね」

「問題ない。どころか凄いぞこれは。これがあれば布教もスムーズだろう」

 良かった。これを使って最初は布教して、細かいところは教典でカバーしよう。


「布教対象はどうするのだ?近くに集落があるのは、人間族、獣人族、あとは…」

「人間がいいですかね。一応僕も人間なので」

「ふむ。では近くの町に行くか」

「え。ついてきてくれるんですか?」

「神の御使いを一人にしておけるか!それに、この世界を渡り歩く術を持っていないだろう?コトイ殿は」

「たしかに~!ありがとうございます!」

「笑顔やめてくれ」

「え」

「裏切り臭がえぐい」

「…ひどい」


* * *


「この町セキリュティガバガバじゃないですか?」

 フードを深くかぶったファナさんに話しかける。ダークエルフってばれたら大変だからだ。


「なぜ?」

「身分確認されなかったですし」

「あぁ…。ここは魔王領に近いからな。不法移民とか訳アリの人間もいるんだ。そんなのをいちいち捕まえてたらキリがないだろう?」

 ある種諦めなのか。魔王軍。まだ一度も対峙してないが、好感度はダダ下がりである。


「とりあえず飛び込み布教してみます」

「なんと。心得があるのか?」

「宗教勧誘は嫌というほど受けてきたんです」

「え?」

 住宅が密集している地域に入る。

 日本語は通じる(彼ら彼女らに聞こえてるのは日本語ではないのかもしれないけど)。

 容姿も全然違うわけじゃない。

 隣には怖いけど頼りになるショア教専門家もいる。

 後は、勇気を出すだけだ。


 ドアをノックする。

『コンコン』

「は~い」

「こんにちは、あなた今幸せですか?」

『バァン!!!』

「あれ…?」

 閉められた。

「…」


「いや、気を取り直そう!」

 隣の家のドアをノックする。

『コンコン』

「はい?」

「あなたは、神を信じますか?」

『バァン!!!!!』

「へ…?」

「…えっとな」

「いやいや、まだまだ!」


 また隣の家のドアをノックする。

『コンコン』

「うぁ~い」

「私は、神の使者です!」

『バァァン!!!!!!!』

「え?」


「…コトイ殿。ストップ」

「こ、こんなはずじゃなかったんですよ。こうやってやればうまくいくはずで…」

「それはどこ情報だ?」

「僕です」

「え?」

「僕は大体こういう風に言われれば、気になっちゃって話は聞いちゃいます」

「…コトイ殿」


 ファナさんのその言葉は何故か大きく聞こえた。

「それはコトイ殿がおかしいだけだ」


「そろそろ元気を出せ」

「だって…」

「全く」

 怪しいと興味は紙一重だったんだ。気づかなかった自分が恥ずかしい。


「…なんか次の案はないのか?」

「う~ん」

 案。案。案。案。案。


「人助けしてその相手に布教とか」

「……成程。悪くない」

「え。マジですか?」

「現状路銀も必要だ。だったら人助けもできる冒険者になろう」

「冒険者?」


 異世界っぽくなってきたなぁ。

「簡単になれるんですか?」

「ギルド行けばな。というかここがギルドだ」

「え?」


 ご飯屋さんじゃないの?

「あっち側」

「あ」


 確かに、武装した人がたくさんいる。併設してるのか。

 というわけで、受付に行く。

「こんにちは」

「こんにちは」

 挨拶大事。


「冒険者の登録したいです」

「それでしたら、このカードに必要事項を記入してください」


 『冒険者カード』。名前…、カタカナとかの方がいいのかな?じゃ、ヒガキコトイ。住所…、不定?そうか。住所不定か僕。職業…。


「これどうすればいいですかね」

 隣で受付を済ますファナさんに問う。

「神官でいいんじゃないか?」

「神官…」

 神、官っと。

「書きました」

「ありがとうございます。確認します。ヒガキコトイさん、でよろしいでしょうか」

 住所不定のところでしかめっ面されたのは気になるけど、問題はなかったようだ。


「はい」

「職業は、神官ですね。一応職業詐称していないか確認のために、神官しか使えない聖魔法を見せてもらっていいですか?」

「え」

 せいまほう?

「簡単なのでいいですよ。『パワー』とか」


「ッスー…、ちょっと待ってくださいね …パワーって何ですか?」

 ファナさんに助けを求める。

「ああ…忘れてた。確認されるのか。でもまぁ、たぶん大丈夫だコトイ殿。心の中で強くなれ!って念じて『パワー』って唱えれば使えるはずだ。コトイ殿には神の加護があるから」

「…」


 パワーが何なのかはわかんなかった。

「大丈夫ですか?」

 いいや。当たって砕けろだ。

「行きます。『パワー』」

 強くなれ強くなれ強くなれ!

 すると。僕の体からオーラが出てきた。一番初めに地面に激突した時とは違う黄色のオーラが。


「は~い、オッケーです」

「あ、はい」

 深呼吸をする。すると、オーラは収まった。

 考察するに、『パワー』はバフ呪文ってとこだろう。

 魔法の感覚もわかった。ショアさんの加護様様である。

「では、コトイさんはブロンズランクからスタートです。最上位のゴールドランク目指して頑張ってください」

「ありがとうございます」

 受付を後にする。

「なんとかなったようだな」

 先に終わっていたファナさんと合流する。


 掲示板?依頼書がビッチリと張られている。

「この後はどうするんですか?」

「簡単な依頼から受けよう。これとかなら、日が沈む前に終わりそうだな」

 『スライム退治』。





「多いですね」

 依頼書に導かれ、町の外の平原に行った僕たちは、大量のスライムと対面していた。


「スライムを倒すには本来核を壊さないといけない。でも、めんどい」

「じゃあどうするんですか?」

「出番だ。神官さん」

「僕?」


「聖魔法の一つに『ジャッジメント』というのがある。対象に聖の波動をぶつける魔法なんだが、それを当てればスライムは爆発四散する」

「グロいです」

「だが制御が難しくてな。魔道具を通して撃たないと最悪自分に跳ね返る」

「跳ね返るとどうなるんですか」

「死ぬ」

「ヒュッ」


「というわけで、その神器を使おう」

「…ファナさんは聖魔法使えないんですか?」

「私は火魔法と風魔法とちょっとした特殊魔法しか使えん」

「じゃあ仕方ないか…」


 しぶしぶ銃を取り出し構える。

「…僕死なないですよね?」

「神の加護を信じろ」

「うぅ…」

 ショアさんマジ頼みます!


「引き金を引くと同時に、波動ブワァーってイメージしろ。呪文は…『ジャッジメントショット』でいこう」

「ブワァーて」

「頑張れ」


 深呼吸。大きい奴に狙いを定める。

「『ジャッジメントショット』!」

 体の中からエネルギーが放出される感覚。と共に銃口から閃光が放たれる。

 着弾。

 爆音。

「うむ、見事だ」


 スライムは影も形もなくなっていた。なんて威力だ。

「…何はともあれ」

 死ななくてよかった。


「では帰るか」

「は、はい…」

 今日は異世界に染まっていった一日だった…。


===

【現在の教徒:2人】

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