第3話

一方、石田太郎とガラテアが五階に降り立った頃、五階の一角では一人の男が独り言を呟いていた。


「はい! 沢村TV、本日のコンテンツは五階のスケルトン百体同時討伐チャレンジです!」


誰もいない五階共同墓地区画の片隅で、男は独り言を続けている。


空中にはドローンが一機。


男の姿をしっかりと捉えていた。


「本日のコンテンツは、五階のスケルトン百体を同時に倒すと、どれほどの経験値が手に入るのかを検証するというもの! 果たしてどれくらい貰えるのか! 期待しちゃいますよねえ!?」


男の言葉に、画面の向こうで見ている者たちは、彼の奇行に今日もまた舌打ちをした。


コメント


‐何言ってんだこいつ? レベル十五のお前がなんで五階で狩りなんかしてんだよ? スケルトン百体倒して何の得があんだ?


‐大人しくお前のいた十五階に戻れよ。


‐初心者の狩りを邪魔するな。大人げない。


‐迷惑系配信者。


沢村は炎上するコメント欄を見て嘲笑を浮かべた。


人々はこうして自分を非難するが、沢村は知っていた。


実は、その非難すらも一種のコンテンツであるという事実を。


沢村は奇行を繰り返して人々を引きつけ、広告収入を得る。


そして人々は沢村を非難することで気分が良くなり、自分が少しだけマシな人間になったかのような気分を味わう。


互いにとってウィンウィンのシステムというわけだ。


「では、行ってみましょうか! 皆さん、ついて来てくださいね!」


そうして沢村がモンスターを集め始め、その数が十体、二十体を超え、百体近くになろうかという時だった。


「ぐっ!」


沢村が突然悲鳴を上げた。


太腿のあたりがチクリと痛む。


よく見ると、小さな矢が突き刺さっていた。


「お、おかしいぞ。この階層に矢を放つモンスターなんていないはずだが?」


ということは……PK(プレイヤーキル)か?


沢村は直感した。


これは絶体絶命の危機だと。


矢には毒が塗られていたのか、動きが徐々に鈍り始める。


矢の刺さった傷口からは血もだらだらと流れ出ていた。


百体のスケルトンが、沢村を狙っている。


「くそっ! こんな所で死んでたまるか!」


沢村は必死に逃げようとするが、そうすればするほど、これまで集めてきたスケルトンたちが四方八方から追いすがってくるばかりだった。


「誰か助けてくれー!」


叫んでみるが、初心者たちは圧倒的なスケルトンの数に狼狽し、逃げ惑うばかり。


そもそもここは五階層。これほど多くのスケルトンを倒せるような手練れがいるはずもなかった。


コメント


‐自業自得だぞ、沢村!


‐ついに正義執行されるのか!


‐いいザマだ!


‐迷惑系配信者、天に召される。


コメントは助けの手を差し伸べるどころか、沢村が死ぬのを良しとする者たちが大半だった。


くそっ、これも自業自得というやつか。


迷惑系配信者である沢村自身も、そんな放送を見る視聴者もクズなのだから、助けてくれる者などいるはずもなかった。


そう思った沢村は、自らの死を直感した。


そして、沢村がスケルトンたちに囲まれる寸前――。


――ゴオオオオオッ!


どこからか聞こえてくる轟音と共に、沢村の後方から凄まじい勢いでスケルトンたちが薙ぎ払われていった。


「あれは!?」


よく見ると、黒い長髪を後ろで一つに束ね、メイド服を纏った女が、両手に黒い短剣を握り、凄まじい勢いでスケルトンを蹂躙していた。


(た、助かったのか!?)


神が自分を救ってくれたのだ!


そう思ったのも束の間、沢村はプロ意識を忘れてはいなかった。


「皆さん、あれをご覧ください! 沢村TVの大ピンチを、何者かが救ってくれています! 神はまだこの沢村を見捨ててはいませんでした! 沢村TV! 今回も生き残りましたぞ!」


コメント


‐あー、くそ。生き残りやがったか。


‐今日こそコイツが死ぬところを見たかったんだが。


‐てか、あの人誰? 五階層にあんな手練れがいるなんて。


‐速すぎて顔はよく見えないけど、めちゃくちゃ美人じゃない?


‐それに、後ろで束ねた髪が揺れる様子とメイド服のスカートの裾……萌える!


視聴者は既に沢村のことなど忘れ去っていた。


沢村もまた同様だった。


彼は、遠くから近づいてくるメイド服の女を撮ることに専念するばかり。


沢村はそのメイド服姿の女が戦う美しい姿に見惚れ、カメラを回し続けていた。


その姿はまるで、天から舞い降りた女神のようであった。


そしてやがて、スケルトンが全て片付けられると、メイドの後ろからついてきた男が沢村に近づき、声をかけた。


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫ですが……あちらの女性は……」


「女性ではなく人形であります!」


「そのとおり。俺の人形です。ところで、そこの魔石、俺が貰っても?」


「は、はい?」


人形? 何を言っているんだ? あの美しい女性が人形だと?


つまり、一種の比喩なのか?


二人は恋人同士で、女が男に絶対服従する人形のようなプレイを楽しんでいる、とか……。


そんな考えが沢村の頭をよぎった。


コメント


‐人形宣言キタアアアアアアアwww


‐はあ? 人形? 何言ってんの? キモい。


‐なるほど、そういうプレイか……把握。


‐変態カップルwww


コメントの反応も同様だった。


視聴者たちにとって、人間と見分けがつかないほど精巧な人形であるガラテアは、まるで人間のような扱いを受けるばかりであった。

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自作フィギュアとダンジョン配信!フィギュア職人の俺、ダンジョン人形使いになります 外人だけどラノベが好き @capybara33

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