第1章 誰ガタメ

第3話 プロローグ 誰かの祈り

血の匂いがした。

焦げた肉と、焼けた木材の匂いが、鼻の奥にこびりついて離れない。

視界は赤く染まり、まるで夕焼け空の中にいるようだった。

――違う。

これは、燃え盛る村の光だ。


少年は、いつもの広場で目を覚ました。

噴水は水を失い、瓦礫と血とで満たされていた。


路地には倒れた男の姿。

焼け落ちた建物の奥には、崩れたままの影。

顔も、名前も、もう分からない。


小さな手が、震えていた。

それは寒さではなかった。

――ただ、何が起きたのか分からない。それだけだった。


空を見上げると、ちょうどそのとき――流れ星が一つ、落ちていった。


「……お願いだ」


誰かに届くと思ったわけじゃない。

けれど、心は勝手に祈っていた。


「こんな地獄が、地上から消えますように」

「もし、それができるなら……どうか、どうかその力を自分に……」


――この村だけじゃない。

魔族に襲われ、火の海と化した村は、他にも無数に存在する。

叫び声も、助けを求める声も、全てが闇に飲み込まれていく。

少年は、その悲鳴を胸に刻みながら、強く、強く願った。


「どうか、俺にその力を……この地獄を終わらせる力を……!」

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