第4話 祈りの共鳴

宇宙の深淵で、意識が目覚めた。

無音の空間に漂うその巨躯――漆黒の鱗に、青白く輝く結晶が脈動している。


『……これは、俺……?』


目覚めた意識は、かつて人であった頃の感覚と、今の異形との乖離に戸惑っていた。

両腕はまるで山脈のように太く、爪は星を抉れるほど鋭く、背からは結晶の棘が天へ向かって生え揃っていた。


その姿はまさしく、破壊を司る“災厄”――宇宙怪獣。


しかしその巨体の心臓部、中心の奥で、微かに共鳴するものがあった。


――祈り。


「……誰かが、俺を呼んでいる……?」


音も、声もないはずの虚空に、確かな“願い”が届いていた。

それは、焼け落ちた村の中で震える一人の少年の祈りだった。


届くはずのない小さな声が、この星から遥か彼方の宇宙にいる主人公の心を打った。


感情が波紋のように広がる。

心臓の結晶が共鳴し、淡く光り始めた。


「……俺は“壊す者”じゃなかったのか?」


星の観察者として、裁くために存在するはずだった自分。

だがその中に、確かに響く「助けてくれ」という願いがある。


「どうすれば……届けられる……?」


あまりにも巨大な自分の身体では、この小さな星に直接降りることはできない。

力を誤れば、それだけで一つの都市を破壊してしまう。


ふと、胸に埋まった結晶に手を当てた。

それは、自分の力と記憶を封じ込めたもの。

それを小さく削り、切り離すことができれば――


「……祈りに応えるのが、俺の役目じゃないとしても」


自身の胸から、青く輝く小さな欠片を摘み取る。

それは意志を宿した“分身”であり、己の代弁者となるもの。


「お前が行ってくれ。あの願いを……確かめに」


静かに、宇宙を漂う流星となった結晶は、ゆっくりと星へ向けて落ちていった。

少年ノアの祈りに導かれるように――


そして、空にはまたひとつ、流れ星が走った。

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